本当にうちの嫁が
「つまり魔法とかですか?」
半裸の意味は不明ですけどね。
「違うな」
あっ外れた。
「なら祝福ですね。それなら秘密も納得です」
「……お前って意外と頭が良いんだな」
バンバンと背中を叩いて来る兄の攻撃に顔をしかめる。
実は地面を滑った時に擦ってて痛い。
「何だ? 怪我か?」
「擦り剥いたのかも?」
「どれ……ちこっと血が滲んでるな。誰か。軟膏を」
「はーい」
何処からそれを取り出した売れ残り?
「何ですかその目は? これは馬油と言って何にでも効くんですからね」
「いや……女性用の鎧だから胸の部分が膨らんでるのか。納得」
「うがぁ~っ! こんな小さい鎧に余計な配慮が憎たらしいっ!」
その鎧の裏に薬を常備しているのは良いことだと思うよ。うん。
上着を脱いで馬鹿に背中を向ける。
「身長差って言葉を知ってますか?」
「背伸びって言葉を知ってますか?」
「思いやりって言葉は?」
「地位って言葉で反論します」
完敗したミシュが沈黙した。完勝だ。
意外と細くて冷たい手が背中に軟膏を塗ってくれる。
あれ? 何かこう……腕の位置と言うか、指の角度がおかしくない?
背伸びをしているはずの人がどうして上から塗れるの?
急いで振り返ったら、売れ残りが地面に対して激しいキスをしていた。
「大地に欲情した?」
「どんな性癖ですか! 突然何かに乗られて踏まれて台にされただけです」
ペッペッと口の砂を吐きながらミシュが憤慨する。
ちょっと待って……それって間違いなく。
「なんで取り逃がすかな!」
「踏まれていた人間に無茶なっ!」
それでもどうにかするのが変態の凄い所だろ?
「突然ノイエが現れて、お前の背中に軟膏を塗ったら消えたぞ」
「捕まえて下さいよ」
「無理を言うな」
呆れた様子で笑う兄にイラッとする。
ところでどうして軟膏を塗りに来たのかな? もしかして……
「軟膏を塗ったお礼に後で頭を撫でてってことですかね?」
「頭は良いが鈍感なんだな。まあ良い。そう思っとけ」
何だよ? 感じの悪い。
不正解ならそう言えば良いのにニヤニヤ笑うな。
脱いでいた服を着て、立ち昇る土煙を見る。だいぶ遠い場所に移動していた。
「そろそろですかね?」
「もう少しだな」
「待ってるのも暇なんですけど?」
「なら魔法に関する質問をフレアにしろ」
「丸投げ?」
「専門は専門家に聞けだ」
突然の丸投げにも……フレアさんは笑顔で対応してくれる。
口の端が微かに引き攣ってるけど。
「ん~。魔法って誰にも使えるんですか?」
「魔力のある人なら使えます」
「それって調べれば分かるんですか?」
「はい。でも基本は遺伝です。両親のどちらかに素養があれば可能性は高いです」
片手間で部下に指示をしながら答えてくれる。
売れ残りは……テキパキと帰り支度をしてるな。
両親の素養と言われても僕には分かりません。
「親父も兄貴も俺も魔法は使えんな」
はい終了~。
「でも確かお前の母親は素養があったはずだ。詳しくは知らんが」
母親? 言われて見るとそんな人も居ましたね……ってまだ一度も会ってないよ?
「確か側室で……」
「ああ。現在病気で実家にて休養中だ」
「何で言わないのさ」
だったら一度くらい会いに行って……でも中身は僕だしな。
と、難しい顔をした兄にヘッドロックされた。
「会いに行くな」
「どうして?」
「病気は嘘だ。前に言ったろ? 反乱の容疑で一族は全員処刑されている」
「……」
「本来のお前を唆し、野心を煽ったのが母親とその実家だ。兄貴が筋道を作って俺が実行した」
「そうっすか」
解放されて乱れた呼吸を整える。
何だろう。知らないところできな臭いことばかりだ。
「まあ魔力の有無は後で調べよう」
「……ついでに祝福とかも使えると良いのにね」
「寝言は寝て言え。この馬鹿弟よ」
ただの皮肉だ馬鹿兄。
「祝福も調べる方法がありますよ。魔力を調べるのと同じ要領で出来ます」
片手間で仕事をしているせいかフレアさんが何でも答えてくれる。
たぶん何も考えず耳に入った言葉に返事をしている感じだ。
「ちなみに普段のフレアさんは攻めですか? 受けですか?」
「攻めです。彼をベッドに押し倒して……って何を言わせるんですかっ! アルグスタ様っ!」
何故か周りから拍手喝さいだ。一番手を打っているのがW馬鹿だ。
「もうっ! 皆さん仕事をしてくださいっ!」
顔を真っ赤にして怒る様子がなかなか可愛い。
ノイエにもこんな感じで表情があれば良いのに……違う。
僕が頑張って彼女に表情を取り戻させるんだ。
「それで攻めのフレアさん」
「アルグスタ様っ!」
「冗談です。魔法は術式と……あと何でしたっけ?」
「もうっ! ……魔法は大きく分けると術式と通常です。
術式は武装や魔道具が無いと使用出来ないので、ここでの説明は省きます。
通常も三つに分けられます。
一つ目が"強化"。私が普段使う魔法です。
二つ目が"放出"。魔法を撃ち出し攻撃します。
三つ目が"創造"。魔法で生物や人形などを作り動かします」
あれ? そうなると……
「召喚術は何なんですか?」
「隊長の奥の手ですね。比較的簡単に使いますが……あれは異世界魔術です」
「いせかいまじゅつ?」
「ええ。同じ系統で異世界魔法もあります」
あるんだ。確かに昔は異世界から人を呼びまくってたらしいしね。
「どれも秘技で、この国には隊長が使う"召喚術"しか存在してません」
「なら別の国には別の魔法があるかも?」
「あると思います。ただ発表していると言うか……使って見せている国はここだけですけど」
呆れ果てた彼女の言葉に僕は静かに頭を下げた。
本当にうちの嫁がご迷惑ばかり……知らなかったとは言え申し訳ございません!
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