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撫でてくれる?

 今日から1日1話ずつとなります。

 余は満足だ。


 全力でノイエの頭を撫で回した。

 本当はもっと撫でてあげたいけど、相手はお仕事中だしね。

 フリフリとアホ毛も機嫌よく揺れているから十分だろう。


「ほらノイエ。そろそろ仕事に戻らないと」

「……はい」

「今日は早く終わったら、あとでいっぱい撫でてあげるからね」


 それで喜んでもらえるなら安い物だ。

 でも……人ってつい何気なく軽い気持ちで言った言葉が大失敗だった時ってあるよね?

 たった今放った言葉がまさにそれだった。


「撫でてくれる?」

「……うん」

「早く終わったら?」

「…………うん」


 ギラッと光った彼女の目が本気だった。


 掻き消えるように姿を薄くしたノイエって、これが残像かっ!

 誰の目にも追えない速さで彼女が消えた。


『先輩方~。隊長の動きが速過ぎて追えないんですけど~』


 遠くで苦情が響いている。

 ドラゴンに襲撃を受けた状態回復に努めていた部下の人たちも突然のことに付いて来てない。

 実際当事者の僕ですら追いつけてないしね。


「お前……この国を亡ぼす気か?」

「何故に!」


 背中の擦り傷の手当てを受けた兄が呆れた様子で頭を掻いた。


「あんなやる気満々なノイエを見たのは初めてだぞ? たぶん」


 ドガ―ンッ!


 地面が揺れ、遠くで土煙が立ち昇った。


「ほらな」

「……」


 もしかしてノイエがやってますか?


 ドドガーンッ!


 さっきの倍ほどの土煙がっ!


「どうするんだ? ドラゴンが逃げ出す前に国土が変形するぞ」

「あはははは」


 困った時は笑っとけ理論だ。

 まさかこんなことになろうとは。

 ここは長年ノイエと付き合って来た人たちに助言をっ!


 副隊長さんたちに視線を向けたら……暴れる馬鹿をフレアさんが踏みつけていた。


「嫌よ~っ! あんな幸せそうな隊長は、私の知ってる隊長じゃな~いっ! 独身の楽しさを思い出させてやる~っ!」

「いい加減になさい。幸せな方が良いじゃ無いの。はぁ~。私も早く彼と会って……いやん。恥ずかしい」


 どんな想像をしたら、同僚を踏みつけて照れることが出来るんだろう? 何よりフレアさんて、そんなキャラなんですか? ぶっちゃけ似合わないです。


「で、どうするんだ?」

「……」


 良し。分かった。


「今日はもう帰っても良いですか?」

「現実逃避をするなよ」

「いえ。一緒にです」


 それしかないでしょ?


「……ならもう少し待て。そうすればノイエの視界からドラゴンが消えるだろう。視界に入らないなら遠くに居るはずだから日が沈むまでこっちには来ないだろうしな」


 腕を組んで兄も土煙を見つめる。

 何か色々とごめんなさい。


「ちなみにどうして王都だけ護るんですか? この国の他の街とかは護らないんですか?」

「それか。ドラゴンは何故か同族の死体を食らう習慣があるんだ。その血肉を取り込むことで力が増すとも言われているがな。

 で、王都にノイエが居て死体の山を築くと、それに群がるようにして集まって来る。結果として国の中心で迎え撃つ方が他の街の被害が少ないんだ」

「へー」


 確かに効率は良いな。王都に住む貴族たちからは嫌われてるけど。


「王都には全部で4か所のドラゴンの狩場がある。狩ったノイエが死体を捨てる場所とも言うがな。

 確か親父と一度行ってるはずだよな?」

「行きましたね」


 あの日初めてノイエさんと出会った訳だしね。


「その4か所を基本、日によって回るんだが……大半はノイエの気分だ。と言うか、どうにか順番良く回ることを覚えさせろ」

「それってミシュの仕事ですよね?」

「諦めた」

「使えん馬鹿だな」


 今だってグリグリとフレアさんに背中を踏まれて気持ち良さそうにしてるし。


「だからノイエの小隊はこの場所を中心に活動している。何かあったらここに来れば居所が分かる」

「分かるんですか?」


 あんな高速移動して破壊を繰り返してますけど?


 ニヤッと笑った兄が自慢げに背後を指さす。

 小屋が二つある。丸太で作った典型的な丸太小屋だ。


 あそこに何が?


「片方が女性が着替えなどに使っている」

「それを知った僕に何を求めるのか問いたいっ!」

「ちなみにここでの覗きは絶対に不可能だ。その理由がノイエを常に把握している秘密ってことだ」

「本当ですか?」

「ちゅうも~くっ!」


 馬鹿王子の声に全ての視線が集まる。


「この中で、上官たちの着替えを覗こうとして地獄を見た野郎共……素直に手を挙げろ」


 僕以外の全員が手を挙げた。ってお前もか兄よっ!


「本当に世の男性は……私の裸はあの人にしか見せません」

「覗くぐらいなら告白して全力で種付けしてくれてもっ! らめ~っ! フレア~っ! 爪先をねじ込まないで~っ!」


 副隊長たちが照れている。そう云うことにしておこう。


「ところで何で見れないんですか?」

「この国の重要な機密だ。覗いて罰を受けた者にしかその秘密は明かされない」

「……」

「王家の者で知っているのは親父と俺だけだ」


 長男さんが真面目で良かった。

 でもあの人ってロリコン疑惑が。ミシュはなんちゃってロリだしね。


「アルグスタ様が私を虫でも見るような目でっ!」


 目が口ほどに物を語ってしまったか。


「で、覗くか?」

「覗きません。って誰も着替えてないのに覗いたらただの変な人じゃないですかっ!」


 空室をハアハア言って覗く覗き魔。

 たぶん脳内補正で色々見えているのかもしれないけど。


「ちなみにあの中にはルッテが居るぞ」

「普段のルッテは半裸姿です。14歳で隊長より胸が大きいとか許せませんっ!」


 W馬鹿の言葉に興味を持ったけど、僕にはノイエが居るから良いです。

 彼女ならお願いすれば裸ぐらい見せてって違うから!




(c) 2018 甲斐八雲

 しばらくは毎日投稿を維持していきます。

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