膝枕
(3/2回目)
目覚めた時の何とも言えない独特な感覚。
意識が覚醒しても何となく目を開けるのが億劫で、わざと枕に頭を預けてグリグリとかしない?
無駄な抵抗だと分かってるんだけどね。
でも
手を伸ばして枕を撫でてみると、確定別の物だ。何より絶対に枕じゃない。
目を開けるとノイエが覗き込んでいるパターンも確定だろうけど、ならこの滑らかな枕はもしかして……ガッと目を開けたら、いつもとは上下逆にノイエの顔があった。
こっちを無表情な顔で見下ろしながら、一定の速度で動かし続けている右手から、そよそよと風が。
お嫁さんの膝枕くらいで驚くと思ったかっ! 僕だって日々成長ぅぉおっ!
豪快に彼女の大切な三角地帯に突っ込んでいた手を引き抜く。
『っん』とか言って体を震わせないで~っ! 思いもしないリアクションにビックリだよ!
ガバッと起き上がると、彼女の手により強制的に元の位置へ。
勝てっこないじゃん。相手は大陸屈指のドラゴンスレイヤーだし。
「アルグ様。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。何かこう色々と元気っ!」
「良かった」
「……僕はどうなったの?」
薄っすら残っている記憶だと……湯船に沈んで行くビジュアルが。
「……沈んだ」
「そっか」
すっごく解りやすい解説だな。
つまりその後メイドさんたちによってサルベージされて寝室に運ばれて来たのかな?
うわ~。間違いなく全裸を見られた。恥ずかしい。
「一緒にと、言わなければ良かった?」
「ん?」
「アルグ様が沈んだ。一緒が悪い?」
「……違うよ。ノイエ」
「本当?」
「うん」
いつも通りの無表情のはずなのに……どこか彼女か哀の雰囲気を感じる。
気のせいじゃ無いのかな?
「ノイエと一緒に入って浮かれすぎただけ。もう少し早く出とけば良かったのにね」
「……」
「ノイエは悪く無いよ。もし良かったらまた一緒に入ろうね」
「……はい」
へんにゃりと力を無くしていたアホ毛が少しだけ元気になった。
どんな原理なんだろう?
手を伸ばしてアホ毛を触ってみる。うん。ごく普通の毛髪だ。
「っん」
「痛かった?」
「違う。平気」
結果として彼女の頭を撫でていた。サラサラの髪が心地良いな。
もう少しだけ撫でても良いかな?
「…………っん」
「……」
撫でているとノイエが吐息を発する。
実はアホ毛は敏感な場所なのか! ……そんな訳無いよね。
ずっと撫でているのも悪いので、手を降ろして彼女の足に頭を預ける。
まだ少し体が重いけど動けるかな?
「ノイエ」
「はい」
「ご飯は?」
「まだ」
だよね。僕なんてベッドに転がしておいて先に食べれば良いのに。
膝枕とかどこで仕入れた知識なんだろう?
「メイドが教えてくれた。アルグ様がきっと喜ぶと」
グッジョブだメイドさん。今度何か甘いお菓子でも差し入れしたい。
「これは嫌?」
「凄く良いよ。ノイエの顔が良く見えるしね」
特におぱいでふっくらとした肌着越しの景色が良いです。最高です。魂に焼き付けます。
「さて。お腹空いた。ノイエ……ご飯に行こう」
「アルグ様。大丈夫?」
「平気平気」
正直胃の中がグルグルしてて気持ち悪いけどね。
でも僕が行かないと彼女は絶対に食事に行かない。
あれだけの量を黙々と食べるってことは、たぶんノイエさんの消費カロリーは半端無いんだ。それか凄く燃費が悪いのか。少なくとも空腹にさせておいて大丈夫じゃないはずだ。
彼女の手を借りて僕らは食堂へと向かった。
並んで歩く彼女の足取りが、どこか少しだけ軽そうだった。
「ふにゃぁぁあああ~」
「何か言うことはありますかね? この売れ残り」
全力でモチモチの頬を引っ張ると、ミシュの目からボロボロと涙がこぼれた。
「違います。私は隊長の幸せを願って」
「今、正直に言ったら……罰はここまでで」
「結婚している人なんて皆不幸せになれば良いのです!」
薄い胸を張って柱に縛り付けられた馬鹿を見る。
うんうん。良く分かった……有罪だ。
「いやぁ~。何ですかそれは?」
「料理番の人から貰ったお芋。この白い部分が肌に付くとすっごく痒くなるんだって」
「って、目の下に擦り付けないで下さいっ! ……はぅ~。痒いっ! 痒いですっ!」
ジタバタと暴れる彼女をそのまま放置。
痒いけど美肌効果があるらしい。とにかく凄く痒いらしいけど。
呆れた様子でこっちを見ていた兄と向かい合う様に座る。
「いい趣味してるな?」
「本当ならもっとキツイお仕置きがしたいくらいです」
いつもいつもノイエに変なことを吹き込んで。
可愛いから良いけど、一歩間違って僕以外の人にやったらどうするのさ!
「キツイお仕置きか……思い切って股裂きにでもするか? 馬を使って」
「いや~! 馬並みにならまだしも、馬なりで裂こうだなんてっ! この女の敵っ!」
「……意外と元気だな。さっきの芋をくれ。背中に塗ってやる」
「ひぇ~っ! 兄弟そろって人でなしですかっ!」
「王子の嫁をそそのかしているんだから、本来ならその首刎ねられても文句は言えんぞ?」
「……ドンと来て下さいっ! 実はちょっと気持ち良くなって来てる所ですっ!」
呆れた兄が、芋を彼女の下着の中に放り込んだ。
女性の大切な三角地帯に……この人は鬼だ。
(c) 2018 甲斐八雲