バナナはおやつに
(2/1回目)
「話を続けよう」
「はい」
「施設から連れて来た彼女を親父は色々と調べさせた。まず判明したのが二つの祝福。治癒と増幅だ。どんな傷でも恐ろしい速さで癒えるし、彼女の魔力量は大陸屈指だろう。
それと調べれば調べるほど彼女の異常が発見された」
「異常ですか?」
「ああ。要は強くするために何でも実行した感じだ。
まずは膨大な術式だ。力を使えば身を裂くような激痛に襲われるはずだが、それを治癒で打ち消している。使用する術に対して消費を倍にする代わりに威力を上げる術式もあるが、それは増幅で補って余る。
結果として計算尽されて作られた最強って訳だ」
「……」
ごめんなさいお母さん。
『人を憎んでも良いけど、殺したいと思うような人にはならないでね』っと言われてそれを護って来たけど……今日ほど憎しみのその先に気持ちが向いた日は無いです。
おかしい。おかし過ぎる。どうしてそんなことがっ!
「ハーフレンさん」
「兄貴で良いぞ」
「どこに行けばその施設の関係者に会えますか?」
確か国王は『罰を与えた』とか言っていた。
それはつまりまだこの国に居るはずだ。
「難しいな」
「どうして!」
「お前がノイエの最も親しい関係者だからだ。言ってる意味は分かるな?」
「……」
「それに全員墓の下だ」
「えっ?」
ドッキリ大成功~みたいな兄の顔にイラッとした。
「普段はあんなだが親父はその手の行いが大嫌いだ。真面目過ぎるが兄貴もそんな手を好まん。それに俺としたら問答無用だ。
結果として……一年もしないで事故やら病気やらで全員墓の下だ。済まんな」
「いえ。良いです」
「でも殴るぐらいはしたかったろ?」
「……はい」
クククと笑った彼が、バンバンと肩を叩いてきた。
痛い。肩が外れるって!
「それでこそうちの家族だ。前のアルグスタなら怒りもしなかっただろうけどな」
「そうなんですか?」
「ああ」
あっ……また悪い顔してる。
「ノイエとの結婚を推し進めたのは兄貴だが、お前の目の前に毒薬を置いたのは俺だ。
この意味は分かるか?」
「……最初から始末したかった?」
「無事に生きて結婚してくれてても良かったんだが……前のお前は野心を持ち過ぎた。原因は母親とその一族にあるんだがな」
チラリとこっちに向けて来る視線がうざい。
「つまり相続の関係で?」
「正解だ。まあこの国は大国二つに挟まれた非常に厄介な場所にある。それにノイエの問題もな。その上に三男が余計な野心を見せているとか広まってみろ? 本気で戦争になりかねん。
だったら一度に色々と解決する手を使うしかないだろう?」
そう言う物なのかな?
でも確か戦国時代の織田信長は、相続問題で弟を殺したとか歴史マニアの岸和田君が言ってたな。
そう言うことって起こりえることなのかもしれない。
理解や納得は出来そうにないけど。
「……王位継承権の放棄って出来ませんか?」
「この国を出て他国に行く……ノイエが居るから無理だな。あとはさっさと墓の下に行くぐらいか?」
「それが嫌だから方法を聞いたんですけど?」
「だったら余計な野心を持たずに静かにするのが一番だ」
「さっき僕のことを誘って来た人がそれを言いますか?」
だらしなくソファーに身を預けると、彼は小馬鹿にした様子で鼻を鳴らした。
「俺はそもそも国王なんかになりたくはない。権力を持っても好き勝手に出来る訳じゃ無いしな。出来ることなんて城のメイドをつまみ食いするくらいだ。小さい小さい」
「若い頃は『あっちこっちの娘を口説いて反乱起こされてた』と言ってた国王様が居ますが?」
「あの頃はまだ両隣が大国ってほどじゃ無かったからな。ある意味良い時代だったかもな」
『羨ましい羨ましい』とか言わないの。
「ところで兄……兄さんは結婚は?」
「してないぞ」
「そうですか」
「妾なら5人居るが」
「あれ~?」
突然僕の中の道徳的な何かが崩壊したぞ?
妾は奥さんに含まれないの? バナナはおやつに含まれない理論? 今の子に通じるのこれ?
「自分が1人しか持てないからって拗ねるな」
「拗ねて無いし」
「なら何だ?」
どうやら覚悟を決める時が来たようだ。
「あの~お兄様?」
「下手に出過ぎて怖いぞ?」
こっちの気持ちを察しろ馬鹿。
「……1つ聞きたいことが」
「何だ」
「……女性の人とどうすれば良いのか分かりません。具体的に言うと夜の営み的な初夜的な感じです」
「……」
ちょっと? 何故に立ち上がるの?
扉の方へと向かった彼は、その扉を開けた。
「お前。あっちの角に立て。お前はあっちな。
誰も近づけるな。国王が来たらこれ幸いだ斬っておけ。褒美もとらす」
物騒な指示を出して戻って来た。
「そうか。お前……本当に童貞だったんだな」
「はい」
「喜べ弟よ。これからこの兄が知り得る限りの知識を授けよう。さあ今からの言葉を心に焼き付けろ」
「はいっ!」
「女って物はな……」
「……まあこんなもんだ。ちなみに今のが初歩的な物だが、童貞のお前ならそれでも十分過ぎるだろう。精進してより高みを望みたくなったのなら、また教えを乞うと良い。
今日はここまでだ」
「……」
「どうした?」
「不潔よお兄様~っ!」
顔を真っ赤にして逃げ出した弟の様子を見て、ハーフレンはゲラゲラと笑った。
そして彼が遠ざかったのを確認してソファーから立ち上がると、部屋に備え付けられている本棚へと向かう。
細工を発動して本棚を動かすと……その奥にある小さな執務室に彼は居た。
「どうよ兄貴? なかなか面白い弟になったぞ?」
「……そうだな。確かに聞いている限りでは前より遥かに害は無さそうだ」
「だろう?」
書類に目を通す目つきの鋭い彼が顔を上げた。
「……仕事を欲していたな。お前の下につけるから書類仕事を覚えさせろ。幾らなんでもこれは酷過ぎる」
次期国王の指示に、彼はやれやれと肩を竦めた。
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