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共食い

(2/2回目)


 本日ラストです。

「さて。どこかの馬鹿と遊んでいたらこんな時間だ。少しはノイエについて話しておこうか」

「はぁ」

「まあそんな緊張するな。アイツが普通じゃ無いってことぐらいは知っているだろう?」

「まぁ」

「ミシュの受け売りになるが、『馬でも鳥でも鼠でも……相手を知れば付き合い方が分かって来る』そうだ」

「そこに何故、"人"が入ってないのか疑問なんですが?」

「売れ残っている今を察してやれ」


 そんな人の言葉をどう受け入れろと?


「そんな顔をするな。数少ないノイエの話し相手の言葉だ。多少なりとも的外れでは無かろう」

「そうですね」


 でも出来たらもう一人の副隊長……フレアさんだったかな? そっちにも会ってみたい。

 一応兄に告げると『戻って来たらな』と言われた。


「さてと。あんまり面白い話でも無いんだが……ノイエは孤児だ。厳密に言うと、親に口減らしにあった」

「口減らしって?」

「……10年前からこの国にもドラゴンが飛来する様になってな。備えてはいたが不意打ちを食らって農作物に大きな被害が出た。

 食うに困った国民たちは、老人や幼い子供を(あや)めて食事をする者を物理的に減らしたんだ」


 確かに面白くも無い話だった。


「その時に口減らしにあったのがノイエだ。

 たぶん彼女は実の父親に頭を掴まれ川の水面に押し込まれた。手っ取り早い方法としてその時に流行った方法だ。『溺死しただろう』とうち捨てられてたのだが……幸運にもその時に"祝福"を受けて息を吹き返したと思われる」

「祝福って?」

「言葉の通りだ。誰が与えるのかは知らないが、先天的な物と後天的な物がある。

 先天的な祝福は生まれた時に、後天的な祝福は死にかけた時に得る。どれも人が宿すには強大な力だ」

「それをノイエさんが?」

「ああ」


 苦笑いした兄が天井を見た。


「死にかけた時に得たのが"治癒"で、たぶん生まれ持って得ていたのが"増幅"だと思われる」


 仮定の話ばかりだな……資料とか残って無いのかな?


「って、二つも得られるんですか?」

「得ているからあるんだろうな。でもどの書物を見てもそんな記述は無い。まあどの国もひた隠したい事柄だからな」

「何故隠すんですか?」

「一つの祝福を持っている時点でも国によっては英雄扱いだ。それが二つだぞ?

 軍事の面から言えば、それほど強い駒を使えるなんてどんな戦争でも根底から戦術を引っ繰り返せて楽しいだろうな」

「……」


 黙って兄の顔を睨む。


「怖い顔をするな。俺はノイエを戦争に使う気はない。アイツはそもそもドラゴン退治にしか使えん」

「何故?」

「簡単だ。俺は原則、女子供に人殺しの命令を出す気が無い。必要に迫られれば別だがな。

 それにドラゴンを見たら反射的にそっちに向かってしまう彼女を、戦力として数えるのは難しい」


 自慢げに言い切った。そのドヤ顔が国王様とうり二つだ。


「そもそも女はベッドの上で愛でるもんだろ?」

「あんたはやっぱりあの国王の息子だよ」

「てめぇ~。お前だって半分は同じ血が入ってるんだぞっ!」


 あれ? 半分? どう言うこと?


「ああ。俺とお前は異母兄弟。長男と俺が正室の子。お前は側室の子だ。

 ちなみに俺は王位継承権2位。お前は4位だ」


 疑問が顔に出たのかそんな言葉が続いた。


 へ~。そうだったんだ。知らなかった。


「ちなみに3位は?」

「親父の弟だな。その息子が5位になる」

「僕ら兄弟が殺し合いすれば王位はそっちに?」

「そうなるな。やるか? 俺とお前が組めば1位は狙えるぞ?」


 好戦的な笑みを浮かべるな。

 そんな跡目相続なんて願い下げです。


「出来たら田舎に引っ込んでのんびりしたい」

「……欲の無い。まあ嫌われているが、ノイエが居なくなると王都の防衛も怪しくなるからな。諦めて王都暮らしをしていろ」

「それは諦めますが……何か仕事をください」

「ノイエの面倒だけで良いだろう?」


 それだとお嫁さんの稼ぎで暮らすヒモ人間になるから嫌なんだよね。

 一応"王族"ってことだけで給金が出るらしいけど。


「ノイエさんと財布は分けておきたいんです。まあ管理ぐらいはしますけど」

「はっ! 早速離婚を考えているのか?」

「違います。危ない仕事をして稼いでいるのは彼女なんですから、そのお金は彼女が使うべきです」


 ベッドしかない部屋の様子を見ていると、普段お金なんて使う人じゃないと分かるけど。


「この国だと夫婦の財布は一つが基本だ。旦那の物は旦那の物。妻の物は旦那の物ってな」

「……この国がそうであっても僕が嫌なんです」

「真面目だな。まあ良い。何か適当に仕事は探してやる」


 やれやれと肩を竦めて兄が笑う。


「で、だ。だいぶ話が脱線したな。

 それからノイエは孤児集めに拾われて例の施設に入り、6年間鍛えられた。

 ……親父から聞かされているのはこれくらいか?」

「はい」

「そっか。詳しい内容を聞くか?」

「……はい」


 何処か空気が変わった。

 自然と僕は座り直して続きを待つ。


「ずっとひた隠しにした施設だったが、密告者の登場でその全てが明るみに出た。で、運営して居る者たちは焦って存在意義を示そうと無茶をした。

 完成品の急仕上げ……その方法は共食いだよ」


 思いの外衝撃は無かった。

 無かったけど……すごく胸が痛んだ。


「ノイエはたった一人生き残った。だがその事実は伏せてある。

 親父の命令で、施設の子供たちは辛い試練に耐えきれず亡くなったことにした。せめてもの慰めと施設跡に大きな慰霊碑を作ってな」


 嫌そうに笑う彼も気づいている。それがただのエゴだと。


 と……相手が身を乗り出してきた。


「どうだ小僧? 怖くなったか?」

「……不思議と納得しただけで、怖くは無いです」

「そうか」


 苦々しく笑った相手の意図は読み取れなかった。




(c) 2018 甲斐八雲

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