怒ってますか?
(3/2回目)
本日二本目となります。
前の話を読んでいない人は、ご確認願います。
ぽけ~っと天井を眺めて寝返りをうつ。
広いベッド……キングサイズよりも大きそうなベッドの上に一人だ。
王宮の離れの一室。
施設から引き取られて以降、ノイエさんが一人で使って来た場所だ。
しばらくはここが僕たち夫婦の仮住まいとなる。
本宅となる屋敷は現在大急ぎで建築中。何でもギリギリ王都と呼ばれる場所に作られる。
『また政治的な感じの都合?』と国王に聞いたら、『その通りだ』とふくれっ面で言われた。
近い将来分家の王族となる僕は、屋敷を王都と領地に作らなといけないらしい。
王都に作るのは前にも聞いた。ノイエさんを王都に留まらせたいからだ。
だから王都の屋敷を最初に作り、次に自費で領地に屋敷を作ることになる。
この国の決まりでは、王族は基本他国と接地する場所を領土にする。
何かあれば一番最初に攻められる場所を領地とすることで、国民に対して自国を護る姿勢を見せつけるために必要とかと説明された。
しかし僕らが貰う場所は、領土としては税収入が全く見込まれないダメな所らしいので、そこに構える屋敷は国からの"支給"と言う形で、ほぼほぼ砦に近い物が出来ると説明された。
って屋敷ですら無いのね。
で、何故王都の隅に屋敷が作られるかと言うと……やはりノイエさん絡みだ。
一般的な王族や貴族たちが住む地区に『彼女を置きたくない』と不満が多発した。
それでも王族だからと言う理由で建築しようとしたが、貴族たちが建築関係の人たちに圧力をかけボイコットさせたのだ。
話し合いの結果……貴族たちが費用を持つと言うことで、王都の隅に作られることになった。
それでもお城から望遠鏡でどうにか見えるってくらいの距離だ。
『小さいが頑丈で豪華な屋敷が出来るぞ』と肩を叩いて笑う国王様の姿にイラッとしたけれど。
ノイエさんは一番危ない仕事をしているだけで、皆から恐れられている。
話を聞く限り仕方ないけれど……でも何故か胸が痛くなる。
酷いいじめを見ている様なそんな気分だ。
そんなノイエさんだが、実はこの王国でも有数の高給取りらしい。
稼ぎが凄いらしいからお金に関しては心配するなと言われた。
でもそれって奥さんに食べさせて貰うダメ亭主だよね? 何かしらの収入を得る方法を考えて自立しないと。
出来るだけ違うことを考えて意識しないようにして居るけど……そろそろ考えることが。
明日から僕……本来のアルグスタの兄から、政治やら何やらを教えて貰うことになった。
僕を召喚する時に『雌なら何でもOK』って言う条件を進言した人らしい。
隙あらば一発殴ろう。
ただずっと一人っ子だったのもあるので"兄"と呼べる存在は嬉しいかも。
でもな~。実は仲が悪かったりしてイジメられたらどうしよう?
変な知識を教え込まれて赤っ恥かくとか嫌だな。
知識と言えば、僕は分家の当主になるとはいえ王族なので、社交界的な場所とかに出るかもしれない。
そこで恥をかかない程度に知識を得ろとも言われた。
ただ参加する時はノイエさんは連れて来るなと言われた。貴族の人たちが怖がるからだ。
だったらそれを逆手にして参加を断り続けてやる。
『ノイエさんと一緒じゃないなら参加しないよ』ってね。
貴族たち以外の反応を見ても、ノイエさんって恐れられているんだな。
見た限りはごく普通の女の子で……今日知ったけど、彼女は僕より1つ若いらしい。
本来のアルグスタは僕と同じ17歳。そしてノイエさんは16歳。
彼女は12歳からドラゴン退治を始めてもう4年らしい。
その前は6年ほど例の施設に居たので、一般常識はとにかく乏しいらしい。
出来ればその辺を少しずつ教えて行きたい。
……ヤバい。もう考えることが無くなって来た。
でも結婚しちゃったんだな。
会って3日で結婚とか日本だったらスピード婚とか言われそう。
ん~。何だろう? この罪悪感は?
分かってる。きっと結婚した本音が心の中で重くのしかかっ来てるんだ。
でも……
あんな美人と結婚出来るだなんて千載一遇のチャンスじゃん!
ダメですかね?
自分に正直にビッグな餌に食いついただけじゃんか~っ!
確かに怒って暴れたら命の危険とかありそうな相手だけど、でもドラゴン相手に見せる暴力的な印象は普段の彼女からは見えないし……色々と聞いたけど、彼女がここに来てから人に危害を加えたのは、常識を知らなかった頃に少しとドラゴン退治での流れ弾だけらしい。
皆が怖がり過ぎてるだけな気がするんだけどな……。
悶々とした気持ちを抱えて、ゴロゴロとベッドの上を高速移動する。
大丈夫。今夜は彼女は戻らない。
向かった場所は、馬で往復するだけでも明日の朝になるっていう話だったしね。
……神様。どうか初夜ってシステムを無くしてくれませんか?
いや別に無くさなくても良いです。女性とどうすればいいのかだけでも教えてください。
ジタバタとベッドの上で苦悩する。
そもそも童貞男子に予備知識なしで初めてとか無理っ! 絶対に失敗するってっ! それでトラウマになってセックスレスだっ! この齢でセックスレスとか残りの人生拷問過ぎるっ!
フワフワの枕を抱きしめてゴロゴロし続けること暫し、コンコンと扉を叩かれた。
ベッドの上で体を起こして確認すると、やはり気のせいでは無いらしい。
「はい?」
「アルグスタ様。お目覚めでしたか。ノイエ様がお戻りになりました」
「へっ?」
「……ノイエ様がお戻りに」
「何で? 今夜は戻らないって」
「はい。何でも出迎えた者の話では、召喚術を駆使して帰って来たとのことです」
そんな便利魔法とか知らないよ~っ!
「湯浴みを済ましてからこちらへご案内します」
「……」
ダメとは言えない。だって彼女はお嫁さん。
夫婦が同じ寝室って言うのがこの世界では普通らしい。
「分かった。でも急がなくて良いよ」
「はい。でもノイエ様が急いでいらして」
何でそんなに急いでいらっしゃるの? もしかしてキスしたことをお怒りですか?
「あっ来ました」
いや~っ! 出来たら食い止めて~っ!
実際は、ドラゴンの体当たりを真正面から受け止めるらしいけど。
ゆっくりとドアが開かれ、薄い肌着姿の彼女がいつも通り無表情で入って来た。
長い髪はまだ濡れているのか少し重い感じに見える。でも普段と違い湯上りのせいでほんのりと赤い顔が凄く綺麗だ。
「戻りました。アルグスタ様」
「あっえっと……おかえり」
「怪我しないで戻りました」
「えっあっうん。凄いね」
ベッドから飛び降りて、少し遅れたが彼女を出迎えた。
後に聞いた話だと……召喚獣を駆使して飛んで来た彼女は、味方ごと攻撃呪文で吹き飛ばしてから個別にドラゴンを虱潰しに駆逐して帰ったそうだ。
奇跡的に死者は居なかったが、吹き飛んだドラゴンで怪我人が多数だったとか。
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