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受付まで歩く間にパーティを観察する。
なんとも多様性のあるというか、バラエティに富んだというか、珍しいパーティである。
種族がバラバラなのだ。
冒険者パーティにおいて人間以外の他種族が入る事は珍しくない。
ただ、そういったパーティでも大半を人間が占めるものだ。何故ならこの世界の人口の8割以上は人間だから。
受付前まで来るとマギーさんが口を開く。
「おはようございます、ノエル君。こちらがお願いしたパーティ、【新規パーティNo.86245】の皆さんです」
「はっ?」
気を引き締めてたのに思わず間抜けな声が出た。
それがパーティ名なのか?
「ええっと、パーティ名がまだ決まってない場合、登録ナンバーでお呼びする事になってます」
「ああ、なるほど」
パーティの方を向く。
皆、僕より若いように見える。
「初めまして、司祭のノエルです。今回、皆さんとご一緒する事になりました。後ろのがスケルトンの使い魔ジャックです。」
自己紹介と共に頭を下げる。ジャックも続く。
と、手前にいた赤毛の短髪が舌打ちする。
「別に頼んでねーのによー」
「デューイ!」
コボルト族の少年が窘める。
「すいません、悪い奴じゃないんですが。僕はリーダーのウーリです。コボルトの戦士です」
コボルト族は戦士の適性が高いとされる。
その姿は二足歩行の犬、そのものである。その見た目からゴブリンやオークとごっちゃにする人がいるが、社会性が高く温和で礼儀にもうるさい。人間の方がよっぽどゴブリン寄りだと言える。
「ウチはミズ、ナーゴ族ニャ。狩人ニャ」
彼女はナーゴ族。猫耳猫尻尾が特徴で語尾に何故かニャが付く。コボルト族と違い、耳と尻尾以外は人間だ。
「……ブリューエット。精霊使い。ハーフエルフ」
ハーフエルフは人間とエルフの混血。エルフほどではないが魔法の適性が高い。
「私はヒルヤといいます。ノーム族の僧侶です。よろしくお願いします」
ノーム族はずんぐりむっくりとした体型だ。ドワーフ族と混同されがちだが、彼らほど筋肉質ではない。信仰心が強く、礼節に厳しい。僧侶はぴったりだ。
「デューイだ。戦士やってる。あと一応だが人間な」
舌打ちをくれた赤毛君は人間だった。身長が低いので、この流れだとホビット族か?と思ってた。
彼は身の丈に合わないバスタードソードを背中に掛けている。
「自己紹介は終わったわね?それじゃ【新規パーティNo.86245】……言い辛いわねえ、【45】の皆は奈落は初めてなんだからノエル君の言う事よく聞くのよ?」
「なんで言う事聞かなきゃいけねーんだよ!主導権はパーティ側だろ?つーか【45】ってなんだよ!」
「やっぱりウチの言う通り【勝手気儘なダンジョン暮らし旅情編】にすれば良かったニャ!」
「長すぎるよ、僕の【レイロアヒーローズ】でいいでしょ?」
「私は【信仰の光】が良いと考えます」
「……【五芒星】」
「ハッ!俺の【デッドオアアライブ】に比べりゃ全部ダセーよ」
「そんなん付けたらすぐ死にそうニャ」
「ああっ!?」
なるほど、こりゃ決まらないな。もう【人種のるつぼ】でどうだろうか?
「はいはい、そこまで!……というわけでノエル君、頼んだわよ?」
「善処します……」
「【肉ヲ斬ラセテ骨ヲ断ツ】ハドウデスカネ?」
ジャックは肉無いじゃん……
不安を抱えたまま、僕達はダンジョンへと向かった。
奈落は街を出て乗り合い馬車で1時間ほど南東へ向かった先だ。これだけ移動して、街中にある大門と同じダンジョンに繋がっているのだから迷宮レイロアの非常識な大きさが分かるだろう。
僕は自宅で繰り返し読んでいる迷宮レイロアの解説本を頭に思い浮かべた。
――レイロアのダンジョン。
都市の名前と同じじゃないかと言う者もいるだろうが、元々こっちが先である。
レイロアのダンジョンの上に出来た都市という意味で迷宮都市レイロアと名付けられたのだ。
発見は千年前とも二千年前とも言われる。
レイロアのダンジョンは世界でも有数の広さを誇る。
まず1フロアが広大である。
第1階層でさえ未だ完全な地図が無いほどだ。深さに至っては見当も付かない。
歴代の冒険者達の奮闘により判明している事もある。
よく知られているのは、第4階層から第6階層の通称ネクロポリスだ。アンデッドがうようよと歩き回り、ダンジョン内でありながら墳墓も確認されている。アンデッド対策の無いパーティはここでふるいにかけられる。
更にその下には古代の王宮のような建物群や、地底湖が広がる階層なんてのもある。
レイロアの成り立ちについては、古代に繁栄した国が神々の怒りに触れダンジョンに封じ込められたのだという説、そもそも地下に造られた古代の王国が滅びてダンジョン化したのだという説の2つが主流である。しかしそれは証明しようのない事である。
確かなのは大昔に高度な文明を誇った国の遺跡が、このレイロアに眠っているということだ。
探索者にとってそれこそが、それのみが重要なのだ。
何故ならお宝が眠っているということに他ならないのだから。
出典 迷宮レイロア~埋められた文明の謎 ~