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 僕はベッドに腰掛け、市販の迷宮地図を眺めていた。


「そろそろダンジョンに潜りたいなあ」


 儲からないかもしれない。

 無事に帰れないかもしれない。

 それでも冒険者はダンジョンに潜りたいものなのだ。

 ダンジョンはロマンなのだ。


 僕みたいなスポット参戦を専門とする冒険者は他にもいる。

 深い人間関係を嫌い、一所に留まれない冒険者。

 一定の雇用料を求める傭兵冒険者。

 家庭を持った冒険者。

 そんな僕らが参加するパーティを探す時、ギルドで希望を出すのが一般的だ。希望を出すとプロフィールと条件を合わせて書いた札が掲示される。

 それをパーティあるいは個人が見て、交渉の上で晴れて参戦となる。


 しかしこの方法には問題もある。


 希望を出す僕らはプロフィールを晒す必要があるが、相手にはその必要がないのだ。

 従ってよく相手を見極めなければならない。

 以前、質の良い装備を身に付けた騎士が身包みを剥がされ殺されるという事件があった。

 初めから騎士の装備が目的で、そのパーティは冒険者でさえなかった。

 特に経験の浅い低レベル冒険者の場合は、そのまま誘拐される危険性もある。

 よって希望板は掲示せず、ギルド職員がパーティに直接話を持っていく手法が取られる。

 メンバー足りないみたいだね、こんな人いるよ?とか、この依頼受けるなら魔法使い居た方がいいよ、こんな人いるけど?みたいな感じで。

 日頃から沢山のパーティを見ているギルド職員なので安心確実である。が、一方でどうしても希望を出すよりは参加出来る数が減る。



 ◇



 僕も希望板は掲示していない。

 3年目なので初心者とはいえないが低レベルではあるし、なにより鑑定目当ての商人が後を絶たないのだ。

 パーティに入れて貰ってホイホイ付いて行くと目的地は街の商店でした、なんて面倒この上ない。

 僕の場合は回復魔法と鑑定のお蔭で、参加の話は多い。使い勝手は良いらしい。

【鉄壁】の時もそうだったようだ。

 直接依頼を出したはいいがいつの間にか僧侶が抜けていた。依頼を引っ込める訳にもいかないし、とりあえず司祭付けとくか。そうやって参加が決まったらしい。


 ダンジョンに潜るパーティから話来てないだろうか。ダンジョン外の話が来ていたらどうしようか。

 そんなことを思いながらギルドの受付へとやって来た。

 今日は二十代中頃の女性、顔馴染みの受付嬢マギーさんだった。


「あらノエル君!ご活躍だったみたいねえ」

「いやいや、実は何もしていないんですよ。運が良かっただけなんです。今日はパーティ参加の話来てないかと思いやって来たのですが」

「ええ、ちょうどあるわよ。ダンジョンへ行くパーティなんだけど……」


 キター!と心のなかでガッツポーズをしながら話の続きを聞く。


「ただ、パーティ側からの要望ではないのね。ギルド側の要望というか」


 パーティの要望でない?そんなことあるのか?


「初心者パーティなんだけど、ダンジョン依頼を受けちゃったのよ。まだ大門から2階までしかいったことのないパーティなのに」

「ああ、なるほど……」


 大門とは迷宮レイロアの入口の1つだ。

 複数ある入口の中で最初に発見された入口で、なんと都市レイロアの中にある。

 その入口の周りに都市が出来たので仕方無いことなのだが。

 そして最初の入口ということは、最も探索された入口ということでもある。

 途中までルートが確立されているので深部へと向かう高ランクパーティはここから入ることが多い。

 一方で大門から入ってすぐの1階から2階はダンジョンでありながら安全が確保されてしまっている。街中にある入口ということで定期的に討伐が行われるからだ。その安全性からダンジョン観光ツアーなるものまで開催されているほどだ。

 出るモンスターといえばスライムやジャイアントバット等の最弱レベルのモンスター。

 それもちょろっとだけ。

 そんな所で自信をつけたルーキーが他の入口から入って1階で全滅。よくある話だ。


「依頼を受けることは認めたんですよね?だったらそう難しくもない依頼なんですか?」

「ストーンゴーレムの核の採取よ。奈落から入って2階~3階ね」


 奈落もまた入口の名だ。

 少し考えるが、欲望がダンジョン!ダンジョン!と叫んでいる。


「ちょっと不安ですが受けようと思います。久し振りに潜りたいので」

「ありがとう!助かるわ」


 そう言ってマギーさんは依頼書のコピーを差し出した。


「明日の朝に呼び出しておくから、ノエル君もお願いね」

「分かりました」


 何はともあれ久々のダンジョンだ。



 ◇



 翌朝。

 僕は杖を片手にギルドを訪れた。

 杖は昨日あの後に買った物だ。今までは柄の短いメイスを持っていたのだが、なにぶんリーチが足りなかった。

 僕のようなひ弱な後衛が近距離に近付かれる事自体駄目なんだとようやく気付いたのだ。

 その点、長い杖なら距離をとって叩ける。魔法との相性もいい。

 ……まあ冒険が決まって舞い上がって買ってしまったというのが真相なんだが。

 後ろにいるジャックにも武器を買った。

 前回のユパ村の経験を踏まえてだ。

 決してジャックの経験値が僕に入ると知ったからではない。

 武器はショートソードだ。ラシードさんに借りたのが使いやすかった事、ロングソードは生前の所有していた物以外持ちたくないという事でジャック自身が選んだ。



 ギルドに入る。

 早朝ということもあり人は疎らだ。

 受付の方を見やると、マギーさんがこっちこっちと手招きしていた。


 ということはその前にいる5人組が今回のパーティか。

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