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 慌てて4人に連絡をとったのだが、それぞれが理由をつけて5人全員集まれたのは1週間後だった。

 今日の集合場所もマレズ珈琲店だ。


「早くしてねノエル。明日保育園でバザーやるんで準備しなきゃいけないんだ」

「儂も炉の火を落とさず来た。早く頼むぞ」


 僕はため息を堪えて話を切り出した。


「直接依頼の件、今日から取りかかろうと思います」


 途端に4人が不満を口にした。


「今日からとか無理ですよ」

「儂は今、武器作成中じゃわい」

「拙者も修行の予定があるでござる」

「前もって言ってもらわないと無理よ。あっ、日暮れまででお願いね?」


 僕は首を振った。


「いいえ、今日からです。リーダー命令です」

「横暴じゃ!こやつは横暴リーダーじゃわい!」

「うるさいエーリク。人聞きの悪い」

「それじゃサブマスのやり方と同じだよ!」

「ええ、ええ。今ならエレノアさんの気持ちもよくわかりますとも」


 それを聞いてカシムが苦笑した。


「ノエルにリーダー押し付けたのは悪かったと思います。ですがやはり無理ですよ。今日だって1週間ぶりにようやく集まれたわけでしょう?」


 ドウセツも続ける。


「カシムの言う通りでござる。話し合いをするだけで1週間かかるのに5人揃って依頼など難しいでござるよ。まして今日からなど無理でござる」


 僕はゴホンと1つ咳をして斜め後ろを見た。


「ジャック君、あれを」

「カシコマリマシタ」


 秘書っぽく立っていたジャックが、4人に小冊子を渡していく。表紙には連絡帳の文字。


「まずは調査から始めます。しかし5人揃ってやるのは無理。ならばそれぞれでやりましょう」


 首を傾げたヴィヴィが疑問を呈した。


「各自ソロで調査するの?それはそれでちょっと……パーティ組む意味あるのかな?」

「ソロと言えばソロなんですが。別に怪しい奴を探しまわるわけじゃないんです。皆さんそれぞれツテがありますよね?」

「ツテ、でござるか?」

「例えばドウセツなら東方からの移民コミュニティありますよね?そこで失踪者が出てないか、居たなら変わったことはなかったか聞くわけです」

「それなら出来るでござる」

「エーリクなら工房区の職人達」

「ふむ」

「ヴィヴィならママ友」

「いいかもね、横の繋がりは広いし」

「カシムは商人」

「商人は耳聡いですからね。取引のある方を当たってみましょう」


 僕は手に持った小冊子をバンと叩いた。


「そしてコレが連絡方法です。何日か毎にそれぞれ得た情報を書き込んで僕の家のポストに入れて下さい。書き写してすぐ返しますので、また情報を集めて下さい」

「なるほど。集まれないなら集まらずに調査するってわけだね」

「それなら出来そうじゃわい。面倒ではあるが」

「調停司祭の真髄を見たでござる」

「面白そうですね。出来れば連絡帳を返してもらう時に、他の方の得た重要情報を書いておくといいかもしれませんね」

「いいですね、そのアイデア頂きますカシム」



 それから僕はしばらく集まってくる情報をまとめる事に専念した。

 皆、連絡帳の仕組みを気に入ってくれたらしく、積極的に活動してくれている。毎日誰かしらの連絡帳がポストに入っている状態だ。

 お陰で情報もだいぶ集まってきた。

 そして意外と大事であることもわかってきた。


 ・エーリクの報告

 職人見習いのガキ共が4人ほど行方不明になっとることがわかったわい。仕事の厳しさに逃げ出したと思われとるが、少々多い気がするのう。

 ・ヴィヴィの報告

 3週間前に子どもの行方不明事件があって、それからはママ友同士注意し合ってる。そのお陰か行方不明の子どもは出てないけど、不審な人物に声をかけられる事案は起きているわ。

 ・ドウセツの報告

 若いおなごが連れ去られそうになる事件が度々起きているようでござる。毎年治安の悪くなる冬は乱暴目的の犯罪が増えるのでござるが、例年よりかなり多いようでござる。

 ・カシムの報告

 冬季は人口が増えるので商店側はアルバイトを増やして対応するのですが、そのアルバイト募集の中に偽りの募集があったようです。募集主はデタラメで応募した3人は行方知れずとなっています。


 上から3人の報告については、悲しいがよくある事件に見える。が、その事件数の多さは異常だ。たまたま多かった、で片付けては不味いだろう。

 加えてカシムの報告については計画的な犯行であることは明白だ。

 カシム以外には予想より行方不明者が多いこと、行方不明者は年若い者であることを連絡帳にて伝える。


「ジャック、ひとっ走りお願い」

「エエッ、マタデスカ」

「骨が折れるんだろ、わかってるよ。給料とは別に僕からポーター代出すからさ」

「コレッテぽーたートイウカ郵便屋ダト思ウンデスガネエ……」


 愚痴をこぼしながらもジャックは引き受けてくれた。



 カシムには直接会いに行く事にした。事件について詳しく聞きたかったし、頭の切れるカシムがどう考えているか知りたかった。


 よくカシムが顔を出す商店を訪ねると、彼はリーマス商会に商談に行ったらしい。カシムが嫌うタイプの商人であるはずだが……


 仕方なく、久しぶりにリーマス商会へと向かう。

 相変わらず遠くからでもよく目立つ、馬鹿でかい建物だ。その何となく持ち主の体型を思わさせる建物に近付いて行くと、門の前に3台の馬車が停まっていた。

 なんだか生臭い。通り過ぎるついでに馬車の荷をチラッと覗くと、大人が両手を広げたくらいの大きな魚が大量に積み上げられていた。胴体だけが箱に詰められ、尻尾と顔は箱から飛び出している。その顔は非常に猛々しい、まるで猛獣のようだった。

 何で門の前に大量の魚が置きっぱなしなんだ?首を捻りながら門をくぐると、すぐに目的の人物を見つけた。

 そこは長いアプローチを抜けた先。玄関の手前で浅黒い肌の商人と、でっぷりとした体型の男が向かい合っている。そして浅黒い肌の商人の隣には尻尾を揺らす黒毛のナーゴ族。


 あれは……リオ?


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