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麻痺で動けないクリスはジャックに背負って行ってもらう事にした。
「コレハ骨ガ折レマスネェ」
下らないスケルトンジョークを言いながらニヤニヤ笑ってるが相手にしない。
リオを斥候役にして出来るだけグールを避けながら黒猫堂へと向かう。途中何度かグールと戦闘になったが危なげなく切り抜ける事ができている。一方、進むほどに段々とグールの数が増えてきた。
「黒猫堂は大丈夫かニャ……」
リオと同じく僕も不安になってきていた。滅茶苦茶に荒らされてたらどうしよう。店員達はアンデッドなので心配ないだろうが。焦りのせいかリオの歩みがわずかに早まる。そしてあと少しで黒猫堂というところで歩みが止まった。
「何だいこれは……」
ジルさんの言葉に続く者はいない。目の前の惨状に言葉が出ないのだ。やがて周囲を確認してきたリオが青ざめた顔で戻ってきた。
「この辺のグールは全滅してるニャ」
辺りにはズタズタにされたグールだった物が散らばっていた。壁や天井にまで破片が飛んでいる。グールが居ないのは嬉しいが、グールをこうした「何か」がいるという事だ。その「何か」は当然、グールより凶悪であろう。
「皆、ここらは慎重に行くよ?黒猫ちゃんとあたしが先頭を行くからね」
ジルさんの言葉に全員がうなずく。
酷い臭いがするグールの残骸の中を慎重に、ゆっくり進んでいくと戦闘音が聞こえてきた。位置的に黒猫堂の真ん前だ。
「ウリィィィィイイイ」
奇妙な叫び声と共にガシュッ、ガツ、ボンッと何かがぶつかり弾け飛ぶような激しい音がする。恐る恐る覗きこむと、そこには見覚えのあるスケルトンがいた。
「マリウス!?」
「おや、確かにマリウスだ。あの魔剣を使いこなすとは流石だねえ。惚れ惚れするよ」
奇声を上げながら魔剣を振るうマリウスにうっとりとした表情を向けるジルさん。
「マサカ異変ノ正体ガまりうすサンダトハ」
「いや、まさか」
そんなことは無いだろう……無いよね?
「ノエル、ノエル」
リオが耳打ちする。
「あれって自我を失ってないかニャ?」
「大丈夫じゃない?元々あんな感じだし」
「元々ヤバい奴って可能性もあるニャ」
「大丈夫だって。ジルさんの言う魔剣は気になるけど」
「じゃあ今度こそ鑑定するニャ」
「魔剣を?マリウスを?」
「両方ニャ!」
大丈夫だと思うのだが、先日の集団面接での事を怒られたばかりなので大人しく鑑定することにした。まずマリウスは……
種族スケルトン【葬儀屋マリウス】
むむ……やはり
〈魔剣グラットン〉呪
グラットン……つまりは大食らい、か。こっちもやばそう。リオがこっち見てるけど報告し辛い内容だ。
「どうだったニャ?もったいぶるニャ」
「えー、
「二つ名は何ニャ?」
「……そうぎや」
「掃除屋?」
「いや、葬儀屋」
「!!!」
「ほら、葬儀屋さんも立派な仕事だしさ」
「これは二つ名ニャ!ほんとの葬儀屋さんは関係ないニャ!」
「そ、そうだけど」
「やっぱりヤバい奴だったニャ……」
このままではマリウスがクビにされてしまう、僕のお気に入りのマリウスが。同じくマリウスを気に入ってるらしいジルさんに目線でフォローをお願いする。
「まあ待ちな黒猫ちゃん。マリウスは一見おかしな奴だが、1本筋の通った男だよ。あたしが言うんだから間違いない」
ジルさんの援護射撃に僕もうんうんと首を縦に振る。
「彼ハ優レタすけるとんデスヨ?どみにくヤじぇろーむカラモ信頼サレテマス」
ジャックも高評価のようだ。
「ね、2人もこう言ってるし」
「ムムム……」
話してる間にグールをあらかた片付けたマリウスがこちらに気付いた。
「オ、おーなーカ、ドウシタ」
「依頼でね、ちょっと寄った」
「魔剣の調子はどうさね?」
「ジ、ジ、じる。マダ生キテイタカカカ」
「何とか死なずにやってるよ」
「オ、オ前ナラ死ンデモ良イすけるとんニナロウ」
「ふふ、そうかもしれないねえ」
何やらいい雰囲気だが、聞かねばならない事がある。
「マリウス、何でグールと戦ってた?」
「フ、副店長ノ指示ダアァァ。コイツラガ邪魔デ客ガ入レネェェェ」
「なるほど。墓場エリアまで行ってグール追っかけ回したりしてないよね?」
「ハカバえりあ?……ウオォォヨクワカラネェェ」
「分からない事は分かった」
墓場エリアを知らないなら異変の正体がマリウスって事はないか。
「戻ったニャ!無事かニャ!」
「あら店長さん」
リオを先頭に店に入るとエマが迎えてくれた。店内は荒らされていないようだ。エマにクリスの治療を頼み、今後の方針を話し合う。
「マリウス、さっき話した墓場エリアまで行くんだが付いてきてくれる?」
「おーなーガ求メルナラドコヘデモ飴飴飴飴飴」
「分かった、ありがと」
そう言ってカバンから飴玉を取り出してマリウスに投げる。
「作戦の確認です。墓場エリアまで行き異変の原因を調査します。墓場エリアには入らない」
「墓守いるからな」
墓場エリアが危険とされるのは墓守と呼ばれる
「ツアーの安全なルート作成はどうするニャ」
「クリスがあの状態だし、もういいんじゃないかな」
皆の視線がクリスに集まる。麻痺毒から回復したクリスは「ダンジョン怖いダンジョン怖い」と壊れたように呟いている。
「刺激が強過ぎたようさね」
「あれなら無謀なツアーは頓挫しそうね」
「だから異変の原因に集中しよう。万が一、対応しきれない状況になった場合は黒猫堂まで撤退、立て籠る間に僕が『リープ』する」
「『リープ』あるのか、そりゃ楽だ」
「一応、今『リープ』してギルドに報告するって手もあるけど、何かあるのに調べもしないのは……」
「冒険者じゃない」
「冒険者じゃねえな」
「冒険者ではないです」
「冒険者じゃないニャ」
「冒険者じゃないね」
「冒険者と言えないねえ」
まるで打ち合わせたかのように声が揃い、皆が顔を見合せ笑いだす。冒険者とはこういう人種なのだ。