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 ・Dランクパーティ【鳳仙花】チェイニーの話


 俺達3人はネクロポリスでレベル上げしてたんだ。ヤバい奴が出る墓場や墳墓からはだいぶ離れたところだ。出るモンスターはザコアンデッドばっかりのはずだったんだが……


「糞ッ!なんでグールがこんなとこに」

「理に抗い現世をさ迷う者共よ……」

「やめとけポール、お前じゃ浄化できねえ」

「しかし!」

「逃げるぞ、立てジョシュ」

「からだ……うごかね……」

「チィッ!麻痺毒もらいやがったか!」


 俺はジョシュを背負い、転がるように逃げ出した。ポールも息を切らせて付いてくる。

 もう幾つ目かわからない角を曲がったらとき、場違いな色彩が目に入った。

 その張り紙には《黒猫堂スグソコ↑》とあった。



「助けてくれ!」


 一縷の望みをかけて店のドアを乱暴に開いたが、すぐに己を愚か者と罵ったな。そこにいたのはゴーストと異様な形状の大斧を持ったスケルトンだったからだ。追い討ちをかけるように、入ってきたドアが激しく打ち鳴らされる。グールが追ってきたんだ。


「終ったな」

「神よ、どうか私達をお見捨てにならないで下さい」

「う……あ……」


 めいめいが己の死に向かい合っていたらゴーストが口を開いたんだ。


「ドミニクさん、ドア壊れちゃうから殺っちゃって」

「アイヨ、副店長」


 大斧を持ったスケルトンはグールごとドアを蹴破り表に出ていった。ゴーストは頭を抱えていたな。


「ドアを壊されないようにするためにドアを蹴破って出ていく神経が分からないわ」


 フルフルと頭を振ってこちらを向き、言ったんだ。


「あら、麻痺毒にやられたようね。薬を用意するわ。残りのお2人はテーブルでお茶でも飲んで?」


 本当にお茶が出てきた時は幻かと思ったね。あるいは俺達はもう死んでて、ここは死後の世界とかな。だが地上に戻って請求書きたときに、あの店は本当にあるんだと実感したよ。請求額?麻痺毒の治療代だけさ。


 ・剣士【遅咲きのジル】(76)の話


 あたしゃベテランじゃないよ?初心者もいいとこさ。結婚して子供が生まれて孫どころかひ孫まで出来た。ああ、良い人生だった、そう満足しかけたあたしに悪魔が囁いたのさ。この街に生まれて迷宮に潜らず死ぬ気かってね。すぐに爺さんの形見の仕込杖を持って迷宮に潜った訳さ。

 どういうわけか資質があったようでね、初回で15階まで行けたよ。ん?あたしみたいな婆さんを入れるパーティはいないだろ。もちろんソロでさ。

 そうそう、そうだった、その話だったね。15階で止めたのは見るからに素晴らしい剣を見つけたからさ。一区切りするにいいタイミングだと思ったわけさね。ところがさ。その剣が呪われていたんだよ。なぜ初心者のくせに分かるのかって?持ってるだけでどんどん体力を失っていったからさ。だが手放す気はなかった。初めてのお宝だからね、せめてその価値を知りたかったのさ。

 なんとか5階まで戻ってきたはいいが、地上より爺さんの所が近そうだ、なんて思い始めた時さ。場違いな看板を見たのは。迷宮に商店なんてなんの冗談かと笑っちまったね。

 だが、その冗談に乗ってやることにしたんだよ。もし本当に商店なら、この素晴らしい呪われた剣を買い取ってもらおう。もし何かの罠だったら、この呪われた剣で最後にひと暴れしてやろう、とね。

 店に入ってみるとゲラゲラ笑うスケルトンが居やがった。このスケルトン、腕が立ちそうでね。殺気のこめた視線を向けてたら向こうもあたしを見て、奥へ声をかけたんだよ。


「マ、マ、まりあ、オオオオ客ダ客客客客」

「はい!いらっしゃいませ、ようこそ黒猫堂へ!」


 奥からゴーストの店員が出てきた。ほんとに商店やってんのかって呆れちまったよ。


「ここはアンデッドの店なのかい?」

「はい、店員はアンデッドです。オーナーは生きてらっしゃいます」

「ほぅ」


 生者が死者を使って店やるなんて面白いことかんがえるもんだ。


「この剣なんだがね……買い取って貰えないかね?」

「申し訳ありませんが、買い取りはやっておりません。質草としてお預かりすることはありますが」


 ひとまず質草として預けて後日取りに来るか。そう考えていると後ろのスケルトンが話しかけてきたのさ。


「ソレソレソレハ中々ノ業物ダナァァ」

「分かるのかい?」

「イイイ怒リト嘆キガ完璧ニ同居シテイルイルイル」

「なら買い取ってくれないかい?持ってるのも辛くてね。無論、安売りはしないがね」


 するとスケルトンが腰の短剣を差し出したのさ。それは美しい装飾に彩られた見事なスティレットだった。


「……これはなんだい」

「ド、どわーふノ名工どんげ=せな作ノ逸品。コレト換エ換エ換エテイケェェ」

「ほぅほぅ確かにいい品だ。だがあたしの剣の方が値が張る気がするがねえ」

「ヨ、欲張ルナ剣士ヨ。コレハ生者ノオマエデハ、ツ、ツ、使エヌヌヌヌ」


 結局、あたしは交換することにした。実際ここに置いてくしかなかったし、何より剣士と呼ばれたことが嬉しくてね。大抵の人間はあたしを婆さんとかババアと呼ぶものさ。お前さんだってそうだったろう?

 それからはすっかり常連さ。用がなくても茶を飲みにいっちまう。……あのスケルトンに会うのも目的だがね。爺さん以来さ、あんないい男はさ。



 ◇



 黒猫堂リニューアルから1ヶ月。

 巷では黒猫堂の噂が飛び交っていた。ダンジョンに店ができた、いや元々在った、アンデッドが営んでいるらしいぞ、良心的な価格だった、なんてのが良い噂。悪い噂としては、入ったが最後恐ろしいアンデッドに喰われるぞ、ゴーストの店員に莫大な借金を背負わされるぞ、魔剣を持ったスケルトンがゲラゲラ笑いながら追ってくるぞ、なんてのがある。微妙に正しいから困ってしまう。だが、話題になるという点では大成功だろう。

 店にはエマとマリアが常駐、ジェローム、ドミニク、マリウスがシフトを組み運搬と店の用心棒をしている。ジェロームが店へ運搬し、そのまま1日用心棒を務め、次の日運搬してきたドミニクと替わるといった具合だ。

 黒猫堂は話題になったお陰で客入りが増え、人件費も抑えたので黒字に転換することができた。


「グスッ、黒字ニャ。ようやく黒字ニャ~」


 酒場で収支報告書を肴にエールを飲むリオの泣き顔が印象的だった。

 今日は第2回経営会議が開かれることになっている。目玉商品も決まってないし、お茶だけでなく軽食を出してはどうか、僕の鑑定を活かして買取りもやってはどうか、なんていう意見もでている。まだまだ改善すべき点は多いのだ。

 一緒に黒猫堂へ向かうためリオとギルドで待ち合わせた。時間通りにギルドに来て周りを見渡すがリオの姿は無い。彼女が遅れてくるのはいつもの事なので壁の依頼書やメンバー募集を見て暇を潰す事にした。すると受付のマギーさんがこちらに気付き、声をかけてきた。



「あ、ノエル君。指名依頼きてるわよ?」


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