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「ぽっぽー!ぽっぽぉー!」


 ルーシーが手をバタバタさせながら飛び回る。


「悔シイ……悔シイ……」


 床を見つめ、ここ最近の口癖をひたすら呟くジャック。

 さすがはアンデッド、ものすごく悔しそうだ。


「……祓うどころか増えてんじゃねーか!」

「す、すいません。どういうわけかターンアンデッドが効かず、何かに呼び寄せられるようにスケルトンまで……」


 社長はこめかみに青筋を立てて、


「スケルトンごとき、俺が粉々にしてやる!」


 と、ジャックに向かっていこうとした。


「危ない!そいつは名前付き(ネームド)です!下がってくださいっ!」


 社長はピタッと足を止め、振り返った。


名前付き(ネームド)?何だそりゃ?……ジェローム!」

「御説明イタシマス。名前付き(ネームド)トハ二ツ名ヲ持ツもんすたーノコトデゴザイマス。通常ノもんすたーヨリモ強ク、代表例トイタシマシテハまたんごノ名前付き(ネームド)、【腐り王】ガ有名デゴザイマス」


 ジェロームが台本でもあるかのように、スラスラと答える。名前付き(ネームド)を知らない社長でも【腐り王】は知っていたらしく、ジャックを睨んだまま後退りした。

 そして僕の近くまで下がってくると、つり上がった目で僕に問うた。


「あれが、その名前付き(ネームド)だとしてだ。何故お前にそれがわかる?お前がヤツを誘い込んだんじゃねえだろうな?」

「まさか!鑑定しただけですよ!」

「あぁん?鑑定?」


 すかさずジェロームが補足する。


「鑑定スキル。確カ対象ノすてーたすヲ読メル、司祭特有ノすきるデスナ」

「それです!そのスキルで鑑定したのです。僕はアンデッドを誘い込んだりなんかしませんよ!」


 弁解する僕を社長は鋭い目でしばし睨んでいた。


「……チッ。まあ、そういうことにしといてやる」


 僕がホッと息をつくと、社長は僕の目の前に指を突きつけた。


「だがな、てめえはこの俺の依頼受けてんだぞ?四の五の言わず、どうにかしろや!」


 僕は眉間に皺を寄せ、人差し指を立てた。


「一日。あと一日だけください。明日の夜までに、アンデッドを祓ってみせます」

「ようし。……一日だけだぞ!」


 ◇       ◇       ◇


 次の晩。

 僕は別荘の外で肩を落として佇んでいた。

 そこへ社長とジェロームが歩いてきた。


「どうだ、司祭。うまくいったか?」

「……社長。ジェロームさん。……中をご覧になってください」


 僕の暗い声に首を傾げる社長。

 ジェロームを先頭に別荘の敷地へ入り、その次に社長。僕はその後ろを怯えながらついていく。

 そしてジェロームが玄関の扉を開くと。


「ぽおっっっぽおおお!!!」


 窓枠を掴んで咆哮するルーシー。


「悔シイ……悔シイ……」


 床に座り込み呟き続けるジャック。


「悔シイノカ?悔シイノカ?ウシャシャシャシャ!」


 そんなジャックを見て大笑いするマリウス。


「フンッ!オラッ!」


 太い柱に掌底を見舞うドミニク。


「……また増えてんじゃねーか!」


 怒りに震える社長。

 ジェロームは目頭を押さえ、ため息をつく。


「信じられませんが、増えた二体も名前付き(ネームド)です」


 僕はそう言って、何度も首を横に振って見せる。


「こんなこと初めてです。普通じゃない。彼らを呼び寄せる何かが、この別荘にあるとしか思えません」

「ドウイウ意味デスカナ、司祭殿?」


 僕は眉を寄せてジェロームに答えた。


「この地への執着。強い恨み。……心当たりはありませんか?」

「ソレハ――」


 ジェロームが口ごもると、


「心当たりなどない!」


 と、社長が言い放った。


「こいつじゃダメだ!ジェローム、他の僧侶を呼べ!」

「ソウオッシャルト思イ、昼間ノウチニ手配シタノデスガ……」

「おお、さすがはジェローム!」


 喜色を浮かべる社長をジェロームが手で制した。


「デスガ、見ツカリマセンデシタ」

「……何だと?」

「社長、砂海ノごーすとしっぷノ噂ハオ聞キニナラレマシタカ?」

「あ?……ああ、耳に入っている。何でも船丸ごとアンデッドだから、近く討伐隊を編成して……まさか!?」

「ソノマサカデゴザイマス。いしゅきーゔ商人会議ガカナリノ額ノ報酬ヲ提示シタヨウデ、べるしっぷノ僧侶達モ残ラズ加ワッテイルヨウデス」

「ぐっ……」


 社長は悔しそうに歯軋りし、再び僕へ視線を向けた。


「いやいや、無理ですよ!ここまで事態が悪化すると僕の手には負えません!名前付き(ネームド)の群れですよ!?」


 僕は両手を振って拒否するが、社長はその僕の胸ぐらをむんずと掴んだ。


「うるせえ!てめえは不死者専門家アンデッドエキスパートなんだろうが!責任を果たせ!」


 そう叫び、僕をアンデッド達の前へ投げ捨てた。


「うっ!痛たた……ひっ!」


 床に転び腰を押さえる僕の顔を、ジャックとマリウスが覗きこむ。


「ひぃぃっ!た、助けて!」


 僕は頭を抱えてうずくまった。


「帰るぞ、ジェローム!司祭、お前はこいつらを追い出すまで帰ってくるな!」

「そんな殺生な~!」


 僕の悲痛な叫びを無視し、社長とジェロームは別荘を早足で出ていった。

 別荘の中に静寂が流れる。

 社長とジェロームが遠ざかるに十分な時間が経ってから、僕はすっくと立ち上がった。


「……ぷぷっ。ノエルってば、ジャックみたいだったよ?」


 ルーシーが口元を両手で押さえながらそう言うと、ドミニクも大きく頷いた。


「アア!『ヒィー、ヒイィー!』ッテナ!」


 僕は頭を掻きつつ言い訳した。


「そりゃあ、ジャックを演技のお手本にしたからね。でも、そんなに似てた?」

「ソッ、ソッ、ソックリクリクリ……ウシャシャシャ!」

「ん、そっくり!」

「ガハハハ!」


 笑い合う僕達の目が、自然とジャックに向かう。

 しかし当のジャックは、無表情で首を傾げた。


「皆サン、何ヲオッシャッテイルノデスカ?私ハアンナ風ニ、ヒィヒィ言イマセンガ」


 僕達は揃ってジャックの顔をまじまじと見つめた。

 ……どうやら本気で言っているようだ。

 まさか、自覚がないとは思わなかった。

 しばし呆気に取られてしまったが、頭を振って切り替える。

 そして皆を見回した。


「よし、いよいよ明日で仕上げだ!皆、気を抜かずに頼むよ!」

「「「ウーイ!!」」」


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