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「そうニャ!スケルトンズで出掛けるなら、アレ(・・)のお披露目にちょうどいいニャ!」


 そう言ってリオは店の奥へと入っていき、大きな木箱の中に頭を突っ込んだ。

 ゴソゴソと何かを探す音とともに、リオの尻尾がゆらゆらと揺れる。


「あった、あった!これニャ!」


 リオが引っ張り出したのは、黒い毛皮だった。上質なベロアのように光沢のある、かなり高価そうな毛皮だ。

 リオがバサッと勢いよく広げると、それは毛皮のマントだった。フードもついていて、そのフードには何か突起物が二つ。あれは……猫耳か?


「さあ、ジャック!着てみるニャ!」

「ヘッ、私デスカ?」


 ジャックは戸惑いながらもリオの元へ行き、彼女にマントを着せてもらった。


「ほう。悪くないですよ、ジャック君」


 カシムが顎に手を当てながらジャックに近づき、裏地を覗いたり、後ろに回って眺めたりした。


「これはなかなかの品です……ふうむ」


 感心するカシムを見て、ジャックもキリッとした顔でポーズをとりだした。


「ドウデス、のえるサン?」

「うん、ほんとにいい感じだよ」


 正直、悪役感は未だ拭えない。

 だがこの前〈ワーズワース魔法用品店〉で見た物より似合っているのは確かだ。


「でも、そのフードがねえ……」

「リオさんらしいといえばらしいのですが……」

「デスヨネ……」


 僕とカシムとジャックの視線が猫耳つきフードへと向かう。

 しかしリオは、そんな僕達を鼻で笑った。


「フンッ。お前達、わかってないニャ。そのフードこそ、キモなのニャ」


 そしてフードを無造作に掴むと、ジャックの頭に無理矢理被せた。


「ヤメテクダサイヨー、ドウセ似合イマセンカラー」


 嫌そうにフードを脱ごうとするジャック。

 しかし僕とカシムの目は、そんなジャックの顔に釘付けになった。


「なにこれ……?」

「これは……!?」

「ヘッ?ナニガデス?」


 意味がわからず、大きく瞬きして僕達を見るジャック。

 ……そう。

 ジャックにはまぶたがあった。

 耳も。

 鼻も。

 唇も。

 肉のついた(・・・・・)人間の顔が、そこにはあった。


「……マジックアイテムですか」


 カシムが品を確かめる商人の眼差しで言う。


「そういうことニャ。驚いてもらえて何よりニャ」


 リオが得意気に鼻の下を擦った。


「〈騙し絵ギツネ(トロンプルナール)の毛皮〉を〈ドッペルゲンガーの涙〉で黒く染めてみたニャ。うまいこと特異性を引き出せたニャ」

「毛皮はわかるけど……ドッペルゲンガーって、泣くの?」

「辛いことあると泣くらしいニャ。この前マリウスが涙を持って帰ってきたから、もっと泣かせて来るニャ、って言ったら大量に持って帰ってきたニャ。どうやって泣かせたかはあえて聞いてないニャ」

「ああ、マリウスか……」


 先程まではドッペルゲンガーが涙を流す姿なんて思い浮かばなかったが、ドッペルゲンガーの前にマリウスを立たせると、不思議と膝を着いてむせび泣くドッペルゲンガーの姿が想像できた。


「フードを被ると変身能力が発動するニャ。ただし、変身しているのは顔だけニャ。手足はこれで隠すニャ」


 リオは木箱から黒の手袋とブーツも取り出した。スケルトンのサイズに合わせやすいよう、中には綿が敷き詰めてあるようだ。


「新シイ装備ッテ、ヤッパリイイデスネ~」


 ジャックは鼻唄でも歌いだしそうな声の調子で、手袋とブーツを装備していく。


「サア、のえるサン!今度コソドウデス!」


 腕を組んで仁王立ちするジャックは、人間にしか見えなかった。


「……すごい。まるで人間だよ」

「ホントデスカ!?」

「ええ。どう見ても、黒尽くめで猫耳つきマントの怪しい男ですね」

「ぷっ」「ニャフッ」


 カシムの言葉に僕とリオは吹き出してしまった。


「エー。結局怪シイノデスカァ?」


 両腕をダランと下げたまま体を揺するジャック。その姿もまあ、怪しい。「不審者見ませんでしたか?」と尋ねたら、誰もが迷わず指差すだろう。


「リオ、この猫耳が不味いんじゃないかと思うんだけど……やっぱりこだわりがあるんだよね?」


 するとリオは意外にも首を横に振った。


「よく見るニャ。これは猫耳じゃなくて狐耳ニャ」

「ああ、狐の耳を模しているのですね……もしかして、特異性を残すためですか?」


 カシムが、ジャックの頭の上を覗きながら言う。


「さすがはカシム、その通りニャ。この耳がないと、何故か変身能力が失われるニャ」

「商売やってると、そういう話はよく聞きます。マジックアイテムって、微妙なバランスの上に成り立っているのですよねえ」


 カシムがしきりに頷く。


「まっ、多少は怪しいけれど人間に見えることが大事ニャ。完全に顔を隠すよりは顔が見えていたほうが怪しまれないものニャ」

「それはそうかも」


 フルフェイスの兜を被るにしても覆面するにしても、顔全体が見えないといかにも何か隠してます!といった印象を受ける。

 一方、顔は見えているこのマントならば、街中でも案外気づかれずに歩けるのではないだろうか。

 リオは先程の木箱をあさり、同じマントを三着取り出した。


「他のスケルトンズのぶんも用意しているから、この冒険で使ってみるニャ」

「ん、わかった」


 僕は三着のマントを受け取り、ジャックを見た。

 彼は怪しいと言われながらも気に入ったようで、自分のマント姿をくるくる見回している。


「りおサン。コノまんと、ナントイウ名前デ?」

「ニャまえ?……うーむ」


 リオは顎に手を置きしばし考え、それから大きく手を打った。


「〈黒猫団団員マント〉にするニャ!」

「〈黒猫堂〉じゃなくて?」


 僕は首を捻った。

 なんだかリオを頭とした盗賊団みたいだ。


「それだと〈黒猫堂店員マント〉になっちゃうニャ。なんだか店内で着る制服みたいニャ?これはあくまでスケルトンズのお出かけ用装備ニャ」

「ああ、なるほどね」

「決まりニャ!そのマントは〈黒猫団団員マント〉!ついでに黒猫堂所属スケルトン部隊、名付けて〈黒猫団〉!発足ニャ!」

「えー?マントの命名のためだけに?」

「相変わらず勢い重視ですねえ、リオさんは」


 僕とカシムの冷ややかな視線にも負けず、リオは胸を張って答えた。


「アタイからノリと勢いを取ったら何も残らないニャ!」

「自慢気に言うことかな……」


 僕の小言をよそにリオは、団長を誰にするか、決めポーズは必要か、と楽しそうに頭を悩ませていた。


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