13
「ヨビマシタ?」
床に転がった頭蓋骨がカタカタと返事をした。
それを見たデューイは固まっている。
ジャックはバラバラになっても大丈夫だ。じきに再生する。まあ、初めて見る人は戸惑うよね。
「ジャックは平気。それより片付けよう」
僕はそう言ってストーンゴーレムを指差す。
ストーンゴーレムは拳を振り下ろしたはいいが、そのまま体を起こせず土下座のような体勢になっていた。片脚はもげ、片脚は凍っている。腕を上げると前へ倒れてしまうのだ。
動けなくなったストーンゴーレムに近寄って、頭に杖をねじ込む。そうしてテコの原理で核を外そうと力を込める。ミズとデューイもそれを見て自分達の得物を使って核に挑む。
「……固いなっ」
「は~ず~れ~ろ~!」
「もう少しニャ……!」
ガチンという音と共に核が外れ転がる。すると巨体は力を失い崩れ、後には石が散乱するだけとなった。
「ふう、何とかなったね。ウーリはどう?」
核を拾いつつ、そうヒルヤに聞くと頷きを返した。
「重傷だったけど、『ヒール』かけ続けたから。もう安定してる」
「そっか、良かった。2人もおいで」
ミズとデューイを呼び、『ヒール』をかける。大きな怪我はないが、生傷が無数にある。
「ジャックは本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。ただ、ここまでバラバラだと再生に時間かかるから拾って運ばなきゃ」
2人の治療をしていると、ブリューエットが歩いてきて骨を拾い始めた。治療を終えた僕達もそれを手伝う。
「オ手数ヲオカケシマス……」
デューイの抱えた頭蓋骨が殊勝なセリフを吐く。
「いいって。お前は命の恩人だ」
「……うん、デューイの恩人」
「大活躍だったニャ、骨さん」
誉められたジャックの頭蓋骨はうふふふと笑顔を浮かべている。軽くホラーだ。
「あっ、ジャック。大腿骨割れてる」
「エエッ!骨密度低下シテルンデショウカ……」
ストーンゴーレムの残骸の下までくまなく探し、ようやくジャックの体が揃った。
ちょうどウーリも気がついたようだ。
「すぐに帰りたいが、ウーリもジャックも動けないな。ここでキャンプか?」
「1階まで戻った方が良くないかニャ」
「あの『リープ』の魔法石を使ってしまう手もあります。ノエルさんしか覚えられないけど……」
「……それは楽で良いかも」
「でもせっかくのお宝ニャ?」
「あー、大丈夫。『リープ』もう覚えてるから」
伊達に〈から石〉を鑑定しまくってない。よく市場で見る無属性魔法は大体覚えている。
「ただ、詠唱が凄く長いんだ。だからその間の警戒をよろしくね」
『リープ』は転移魔法である。
その長い詠唱は現在地や帰還場所を正確に設定する為だと考えられている。何でも『リープ』を詠唱破棄した物臭冒険者は地中に転移してしまったらしい。
「長いってどのくらいかかるのです?」
「10分くらいかな。発動間際になると僕の足元に魔方陣が出るから、その中に入ってくれればいい」
「分かりました」
「じゃ通路見張るニャ。デューイ、魔方陣でたら呼ぶニャ」
「置いてったりしてな」
「ニャッ!?」
僕はウーリを膝に抱えたヒルヤの側にジャックと荷物を置いた。ブリューエットとルーシーも近くにいる。そして『リープ』の詠唱に入る。ほんと長いんだよな。正確に正確に……そう意識しながら詠唱する。やがて魔方陣が出現し、デューイ、ミズも側に座る。そして『リープ』が発動した。
◇
ーー奈落の入り口、そのすぐ近くの小さな丘に僕らは転移した。
外はもう真夜中だった。
草むらに倒れる。
皆がそれに続いた。
満天の星空だ。
「あー、くたびれた」
デューイがつぶやく。
「なんかたくさん叱られたニャ」
ミズがぼやく。
「でも得たものもありました。宝も見つけたし依頼も達成できました」
ヒルヤが満足そうに語る。
「俺達、調子に乗ってたかもね。これが冒険なんだ」
ウーリが反省を口にする。
「……私だけ叱られなかった。皆ズルい」
ブリューエットが不満げに言う。
叱られたかったのか?
それとも仲間外れのように感じたのかな?
確かにブリューエットだけ叱ったり怒鳴ったりした記憶がない。
「……私は皆がピンチの時、何も出来なかった」
「ブリューエットは精霊使いだからね。精霊のご機嫌次第なところあるでしょ?」
「……それでも叱って欲しかった」
「そっか……」
沈黙が流れる。
「でもすごく頑張ったと思うよ?ブリューエットに限らず、え~~、【45】の皆がさ。最後の方はむしろ頼もしかった」
「「「「「それやめて!!!」」」」」
5人の声が合わさる。
「それ……って?頑張ったとか嫌だった?」
「違うニャ!【45】ニャ!」
あー、そっちか。
「まだ名前も決まってないんだよな、俺達」
「なあ、それならさ、司祭さまに決めて貰おうぜ」
「そうですね。話し合いじゃ決まらないですし」
「……賛成。名無しはもう嫌」
「んじゃ頼むニャ。カッコいいのよろしくニャ」
なんか急に責任重大な役が回ってきたな。
カッコいいね……疲れた頭を捻る。
目の前には星空。
「【五ツ星】、でどうかな」
皆が黙る。沈黙が怖い。
「良いんじゃないか?【五ツ星】!」
「なんか豪勢な感じがするニャ!」
「上品で良いと思います」
「……良さげ」
「5つの個性、5人の星か……良いです!」
納得してくれたみたいで胸を撫で下ろす。
この星降る丘に集う5つの星。
これからより強く煌くのか。
それとも輝きを失ってしまうのか。
せめて欠けることなく5つ揃ったままでいて欲しい。
その願いを込めて、目の前の星々に祈りを捧げた。