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書籍版『レイロアの司祭さま』本日発売です!

「ふむ、六騎か」

「時間通り、約束通り。素晴らしいことです」

「まったくだ。うちも見習わんとな」


 ギルマスとエレノアさんはそんな会話を交わして空を見上げていた。

 降下してくるのは六騎の空飛ぶ騎士。

 その騎士達が跨がるのは鷲の上半身と馬の下半身を持つモンスターだ。確かヒッポグリフといったか。

 騎士達の格好に、僕は見覚えがあった。

 揃いのサーコートには十字架に翼のマーク。

 目の部分がゴーグルになった、妙な兜を被っていて顔は見えない。が、間違いない。


「彼らは神殿騎士ですよね?」


 そう言って、僕はカミュさんの顔を見た。

 するとカミュは静かに頷く。


「ええ。大鷲騎士団です」


 大鷲騎士団。

 かつて大聖堂で出会った、アルベルトが見習いをしていた騎士団だ。

 何かの比喩だと思っていたが、本当に大鷲に乗る騎士だったのか……いや、乗っているのは大鷲ではなくヒッポグリフなのだが。


「カミュさんは勘づいてたみたいですね」

「遠方からの助っ人とのことでしたからね。大鷲騎士団は、助けを求める人々の元に迅速に駆けつけるために結成された騎士団です」

「そうだったのですか……ん?」


 僕はふと引っ掛かりを覚えた。


「彼らの移動が速いのは見てわかりますが、大聖堂まではどうやって知らせたのでしょう?」

「それは〈兄弟鷲の羽根ペン〉ですね」

「羽根ペン?」

「短いメッセージをやり取りすることができるマジックアイテムです。一方の羽根ペンを使って文字を書くと、もう一方の羽根ペンが勝手に文字を書く。大鷲騎士団は各都市に〈兄弟鷲の羽根ペン〉を置き、救援要請に対応できるようにしていると聞きます」

「なるほど……」


 カミュさんと話している間に、大鷲騎士団は一騎ずつ着陸した。

 六騎全て着陸すると、先頭の小柄な騎士がスッと手を上げる。それを合図に騎士達は、一糸乱れぬ動きで地面に飛び降りた。

 先頭の小柄な騎士がつかつかとこちらへ歩いてくる。歩きながら妙な兜を脱ぐと、豊かな金髪が波打った。

 やはり見覚えのある顔。

 大鷲騎士団の長にして聖騎士。

 ジゼルさんだ。


「私は大鷲騎士団長、ジゼル=ランベール!レイロア冒険者ギルドのマスター、アラン殿はおられるか?」


 ジゼルさんはよく通る声で名乗り、僕達をぐるりと見回す。

 その途中で僕を見つけ、一瞬目を丸くした。

 僕がお辞儀すると、すぐに微笑みを返してくれた。


「俺がアラン=シェリンガムだ。救援感謝する」


 ギルマスは一歩前に出て、そう答える。


「それが勤めゆえ、礼は不要……それで、我らに頼みたいこととは?見るに、すでに実力者は揃っておられるようだが」

「説明しよう。と、その前に……おい!」


 ギルマスが一声上げると、ギルド職員が荷車を引いてやってきた。荷車の前に大きな桶が並び、そこにギルド職員が水と生肉を入れていく。


「まずは愛馬を……馬でいいのかな?彼らを休ませてやってくれ」

「心遣い、痛み入る」


 ジゼルさんが目配せすると、騎士達はヒッポグリフを引いて桶の前に向かう。

 そしてギルマスは改めて説明を始めた。

 まずナスターシャさんの予知夢のこと。

 そして僕達が持ち帰った、ドラゴンゾンビの情報。

 黙って聞いていたジゼルさんの眉間に深く皺が刻まれる。


「西方……【まことの竜】のゾンビ……もしや【腐り王】と何か関係が?」


 ジゼルさんがそう言った瞬間、大鷲騎士団にざわめきが起こった。【腐り王】の恐怖を知るのは、レイロアに住む者だけではないようだ。


「正直、わからん。だが、君達だけでドラゴンゾンビに突っ込めなどとは言わんから安心して欲しい」


 騎士達にホッとした空気が流れる。

 しかしジゼルさんだけは顔色を変えず、言い放った。


「いや、それが必要ならば我々は突っ込もう。問題は必要かどうかだ」


 いかにも聖騎士らしい台詞に、ギルマスは苦笑いを浮かべた。


「さしあたって必要なのは西方に住む者の避難だ――エレノア、頼む」

「はいっ!……では、こちらをご覧ください」


 エレノアさんが取り出したのは西方の地図。

 赤いインクで幾つか印が書き込まれているようだ。

 僕や【天駆ける剣】も集まって、地図を覗きこむ。


「今現在、存在しているであろう村の位置です。【腐り王】襲来以前に存在した村の位置と、聞き込み情報を元に割り出したものです。精度は高いと自負しておりますが、確実な位置情報というわけではありませんのでそこはご了承ください」


 地図上には、赤いバツ印が四つと二重丸が一つある。


「村は確か四つだったな。残りの一つは?」


 ポーリさんの問いにエレノアさんが二重丸を指差す。


「ここは中継地点です」

「中継地点?」

「これから大鷲騎士団のお力を借りて、各村へ急行していただきます。そこでドラゴンゾンビの襲来を告げ、中継地点まで避難を促します」

「中継地点からは?」

「冒険者を護衛につけた馬車を向かわせる手筈になっています。彼らに引き継いでください」


 それを聞いてカミュさんが眉を寄せる。


「冒険者、集まりますか?西方ですよ?」


 西方行きというだけで冒険者が二の足を踏むのは、【天駆ける剣】自身が実証済みだ。


「西方とはいえ比較的レイロア寄りですし、任務自体も簡単なものですので問題ありません。といいますか、人数はすでに集まっています。避難計画自体は厄災がドラゴンゾンビと判明する前から進めていましたので」

「そうでしたか」


 話を聞いていたジゼルさんが不安を口にした。


「村へ向かうのは構わないのだが……初見の我々のいうことなど、果たして信じてくれるだろうか?」


 彼女の不安はもっともだ。

 おそらくそこに住む人々にとって、ようやく戻れた懐かしき故郷。

 初めて見る空飛ぶ騎士の言うことに、素直に従って避難してくれるかどうかわからない。


「君達の乗ってきた……ヒッポグリフか。二人乗りはできないか?」


 ギルマスの問いにジゼルさんが答える。


「可能だ。まあ、重さ次第ではあるが」

「ではうちの冒険者を一人ずつ乗せていってくれ。皆、レイロアでは名の知れた冒険者だ」


 その瞬間、ジャックがニタアッと笑って僕を見た。

 知名度があるのは僕以外だって言いたいのだろう?

 わかってるよ、くそう。


「そうか。それならば問題ない」

「よし、では組み合わせと役割を決めよう。説得が上手いのは……」

「能力だけでなく、体重も考慮してくれ」

「ああ、そうだな」

「あの、すいません」


 ギルマスとジゼルさんの間で進んでいく話に、僕は手を上げて割り込んだ。


「なんだ、ノエル?」

「僕はこの村に行ったことがあります」


 そう言って、一番西にあるバツ印に指を置いた。


「ああ、聞いている……そうか、『テレポート』で住民を運べるのか?」

「はい。村人は十人程度だったので、『テレポート』一、二回でレイロアへ運べると思います」

「そうか!それは助か――」

「そして、その更に西にゴブリンの集落があります」


 喜色を浮かべていたギルマスの顔が、ピシリと固まった。


「僕とジャックは、ゴブリン達も助けたいと思っています」


 この提案は、昨晩ジャックとともに話し合って決めたこと。僕とジャックは彼らに恩義がある。見捨てることなどできない。


「待て、ちょっと待て……ううむ」


 ギルマスは腕組みして唸った。


「その報告もノエルさんから受けていましたね。確かかなりの数だったと記憶していますが」


 エレノアさんの問いかけに、僕は頷いた。


「そうですね。百人……百体?はいるかと」

「待て待て、それはいかんぞ」


 ギルマスが声を荒げる。


「中継地点からの避難が間に合わない場合、ノエルの『テレポート』が鍵になる。そっちに魔力と時間を割かれては困る」

「話が見えないのだが……『テレポート』?でゴブリンを助ける?」


 ジゼルさんが僕を見て首を傾げた。

 僕に代わってジャックが答える。


「のえるサンハ転移魔法『てれぽーと』ガ使エルノデス。ソシテ私達ハ、旧知ノごぶりんヲ助ケタイノデス」

「『テレポート』はわかった。だが、ゴブリン?」

「ハイ。イイごぶりんデスヨ?」

「いや……だってモンスターだろう?」

「エエ。私モ、アナタノ乗ッテキタひっぽぐりふモもんすたーデスネ」

「うむむ、そう言われると……」

「それでもモンスターはモンスターだ、ジャック」


 腕組みを解いたギルマスは、いつもは向けない鋭い目で僕を見た。


「ノエル、冒険者の一人として答えろ。お前は救うべき無辜の民の命より、モンスターの命をとるのか?」


 言葉を発すると同時に、ギルドマスターの威圧感が膨れ上がった。

発売記念ということで、日曜あたりまで毎日更新しようと思います。


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