12
「せいやっ!」
デューイが最後のジャイアントスパイダーを斬り倒す。
「はぁっ、はぁっ」
ウーリは戦闘中に毒を受けたようだ。
「ヒルヤ、解毒『キュアポイズン』ある?」
「はいっ!」
ヒルヤはウーリに駆け寄り治療に入る。
僕もデューイに『ヒール』をかける。
「すまねえ……」
威勢の良いデューイが素直なのは疲労のせいだろう。
宝箱開けてから、慎重に罠を躱しつつ地図にあるルートに辿り着いた。
ルート通りに進み地下2階へと降り、ストーンゴーレム探索中である。今以て出会えていない。
3階まで脚を伸ばすべきか、それとも勇気を持って撤退するか。
治療中のウーリが僕の心中を察したように今後の話を始めた。
「2階のモンスターでさえ今まで僕らが戦ってきたものより手強い。限界を迎える前に撤退すべきだと思う」
「…………」
皆、無言だ。
やれると思って受けた依頼。
それを投げ出すのは無念だろう。
だが、無理をすればそれこそ全滅が待っているのも皆、分かっている。
「しょうがないね」
「ムカつくが仕方ねえ」
「……無理は禁物」
撤退に話がまとまりかけた、その空気をミズが破る。
「待つニャ!もう少し、もう少しだけ探すニャ!」
「ミズ……」
「この辺にいる気がするニャ!」
「そうは言ってもね、ミズちゃん」
「3階までは行かなくていいニャ。2階の探索はもう少しで終わるニャ?それから撤退するニャ!」
ミズの言う2階とは、地図に記された2階のストーンゴーレム棲息エリアの事である。確かに探索していない場所がもう少しだけある。
「……よし。2階の探索してない場所までやろう。3階へは絶対に降りない。それでいいね、ミズ」
ウーリが決断を下した。
残ったエリアは袋小路の通路や覗いただけで終わった大部屋だ。
それらをひとつひとつ潰していく。
そして1つの袋小路を探索していた時。
ミズとルーシーが袋小路奥まで行き、残りは距離を空けてゆっくりついていく。
するとミズが口をアワアワさせながら戻ってきた。その後ろからルーシーも顔を出す。
「いたニャ」
小声でミズが告げる。
ルーシーを見るとコクコク頷いた。
「おっきい石さんいた」
ウーリが身振りで一旦戻ると指示を出す。
袋小路の通路の入口まで戻った。
「作戦を立てよう」
ウーリの言葉に皆が大きく頷く。
それぞれが意見を出し、あーでもないこーでもないと戦い方を決めていく。
「まずはブリューエットとノエルさんの魔法で先制。その後、僕とデューイが前に詰める。右と左に分かれて魔法の射線を空ける。ミズは遊撃、ヒルヤは怪我に備えて前衛の少し後ろに待機。二人とも魔法の射線に注意ね。ノエルさん何かありますか?」
僕は作戦会議には余り口出さないようにしていた。
気になることを少し付け加える。
「前衛の2人とも剣だけど、さっきのスケルトン以上に効き辛い。むしろ刃が欠けたり折れたりしかねない。鞘に納めたまま紐で縛って戦う方がいいと思う」
「そっか、そうですね。となるとミズも弓はダメか」
「ナイフあるニャ」
ミズはスラッと懐のナイフを抜いた。
「剣より駄目だよ。ヒルヤのメイス貸してあげて?」
「分かりました」
そして袋小路に向き直る。
この奥に今回の目的がいる。
「では、行こう!」
曲がり角から顔だけ出してミズが言う。
「あれニャ」
皆が僕も俺もと顔だけ出して確認する。
デューイがバスタードソードを真上に掲げたくらいか、それよりも大きい石の人形。
脚は太く、頭は小さい。
その頭の真ん中に拳大ほどの赤く光る石。
「あれが核だろうね。破壊すれば死ぬらしいけど、今回は核が目的だからそれは出来ない。手足を壊して核を取り出すよ」
ウーリの言葉に全員が頷く。
「じゃ、ブリューエット、ノエルさん」
まずブリューエットが詠唱に入る。
精霊の存在を確認するように周りを見渡してから、腰の高さで手のひらを上に向け、言葉を紡いだ。
「……迷宮に満ちる冷気よ…その牙と爪で我が敵を凍てつくせ、『氷狼』!」
ブリューエットの前に白い狼が顕現し、ストーンゴーレムへ飛び掛かる。
僕は唯一の攻撃魔法である弾丸『バレット』を打つ。
『バレット』は無属性魔法で詠唱自体がない。
木槌で殴るくらいの威力だが連射がきく。
『氷狼』がストーンゴーレムの片脚を凍らせた。
逆の脚の関節部を狙った『バレット』は外れて石を僅かに削っただけだった。くそう。
「行くぞ!」
ウーリとデューイ、次いでミズが飛び出す。
ウーリが左側、足が凍った方。デューイが右側だ。
ミズは背中側に周る。
ルーシーは物理攻撃の手段が無いので、ストーンゴーレムの顔にまとわりついて気を逸らそうと頑張る。
前衛3人は的確に膝関節を叩いている、が思ってたより頑丈なようだ。
僕も肘の関節を狙うが、いまいち手応えがない。
ブリューエットは打ち止めのようで座ってしまった。
段々とデューイが回避一辺倒になってきた。
凍った脚をあきらめて、動く脚の方へ集中して攻撃してるようだ。顔もデューイの方を向いている。
ミズとウーリもそれを察して、気を引こうと前がかりに攻撃を加える。
すると、ここまでが作戦だったのか、ストーンゴーレムは振り返りもせずいきなり裏拳を繰り出した。
ウーリに直撃し、吹っ飛ぶ。
「ウーリ!」
ヒルヤが吹っ飛んだウーリに駆け寄る。
必死に回復魔法をかけているが意識は無いようだ。
「ジャック!前衛へ上がれ!」
僕は『バレット』を連発してストーンゴーレムを牽制しながらジャックを呼んだ。
ウーリの回復に加わりたいが、今は前衛の危機だ。
ジャックは荷物を投げ下ろし、鞘のまま剣を構えて突っ込む。
「ヤッテヤリマスヨー!」
勢いそのままに剣を下から上へ切り上げた。
狙いは金的。
初撃が金的とかまじヤバイす、ジャックさん。でも相手は無生物ですよ?
効く訳がないと思ったが、狙いが逸れて股関節に入った。ギギッと嫌な音をたて始め動きが鈍る。膝じゃなくてそっちか!
「デューイ!ミズ!股関節だ!」
「ああ、分かった!」
「任せるニャ!」
2人は汗だくになりながらも股関節へ攻撃を加える。
僕も肩関節へと的を変えると、腕の動きも鈍くなってきた。いける。
「でやあっ!」
デューイの大振りの一撃が股関節に入った。
音を立てて片脚がもげ落ちた。
「やった!」
「デューイ!上ニャ!」
喜んで動きを止めたデューイ。
その頭上から石の拳が振り下ろされようとしていた。
その刹那。
「危ナイ!」
ジャックがデューイを体当たりで押し退けた。
そしてジャックに振り下ろされる拳。
ジャックは無惨にもバラバラになってしまった。
デューイが悲痛な叫びを上げる。
「ジャーーーーァァック!!!」