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「せいやっ!」


 デューイが最後のジャイアントスパイダーを斬り倒す。


「はぁっ、はぁっ」


 ウーリは戦闘中に毒を受けたようだ。


「ヒルヤ、解毒『キュアポイズン』ある?」

「はいっ!」


 ヒルヤはウーリに駆け寄り治療に入る。

 僕もデューイに『ヒール』をかける。


「すまねえ……」


 威勢の良いデューイが素直なのは疲労のせいだろう。




 宝箱開けてから、慎重に罠を躱しつつ地図にあるルートに辿り着いた。

 ルート通りに進み地下2階へと降り、ストーンゴーレム探索中である。今以て出会えていない。

 3階まで脚を伸ばすべきか、それとも勇気を持って撤退するか。


 治療中のウーリが僕の心中を察したように今後の話を始めた。


「2階のモンスターでさえ今まで僕らが戦ってきたものより手強い。限界を迎える前に撤退すべきだと思う」

「…………」


 皆、無言だ。

 やれると思って受けた依頼。

 それを投げ出すのは無念だろう。

 だが、無理をすればそれこそ全滅が待っているのも皆、分かっている。


「しょうがないね」

「ムカつくが仕方ねえ」

「……無理は禁物」


 撤退に話がまとまりかけた、その空気をミズが破る。


「待つニャ!もう少し、もう少しだけ探すニャ!」

「ミズ……」

「この辺にいる気がするニャ!」

「そうは言ってもね、ミズちゃん」

「3階までは行かなくていいニャ。2階の探索はもう少しで終わるニャ?それから撤退するニャ!」


 ミズの言う2階とは、地図に記された2階のストーンゴーレム棲息エリアの事である。確かに探索していない場所がもう少しだけある。


「……よし。2階の探索してない場所までやろう。3階へは絶対に降りない。それでいいね、ミズ」


 ウーリが決断を下した。



 残ったエリアは袋小路の通路や覗いただけで終わった大部屋だ。

 それらをひとつひとつ潰していく。

 そして1つの袋小路を探索していた時。

 ミズとルーシーが袋小路奥まで行き、残りは距離を空けてゆっくりついていく。

 するとミズが口をアワアワさせながら戻ってきた。その後ろからルーシーも顔を出す。


「いたニャ」


 小声でミズが告げる。

 ルーシーを見るとコクコク頷いた。


「おっきい石さんいた」


 ウーリが身振りで一旦戻ると指示を出す。

 袋小路の通路の入口まで戻った。


「作戦を立てよう」


 ウーリの言葉に皆が大きく頷く。

 それぞれが意見を出し、あーでもないこーでもないと戦い方を決めていく。


「まずはブリューエットとノエルさんの魔法で先制。その後、僕とデューイが前に詰める。右と左に分かれて魔法の射線を空ける。ミズは遊撃、ヒルヤは怪我に備えて前衛の少し後ろに待機。二人とも魔法の射線に注意ね。ノエルさん何かありますか?」


 僕は作戦会議には余り口出さないようにしていた。

 気になることを少し付け加える。


「前衛の2人とも剣だけど、さっきのスケルトン以上に効き辛い。むしろ刃が欠けたり折れたりしかねない。鞘に納めたまま紐で縛って戦う方がいいと思う」

「そっか、そうですね。となるとミズも弓はダメか」

「ナイフあるニャ」


 ミズはスラッと懐のナイフを抜いた。


「剣より駄目だよ。ヒルヤのメイス貸してあげて?」

「分かりました」


 そして袋小路に向き直る。

 この奥に今回の目的がいる。


「では、行こう!」





 曲がり角から顔だけ出してミズが言う。


「あれニャ」


 皆が僕も俺もと顔だけ出して確認する。

 デューイがバスタードソードを真上に掲げたくらいか、それよりも大きい石の人形。

 脚は太く、頭は小さい。

 その頭の真ん中に拳大ほどの赤く光る石。


「あれが核だろうね。破壊すれば死ぬらしいけど、今回は核が目的だからそれは出来ない。手足を壊して核を取り出すよ」


 ウーリの言葉に全員が頷く。


「じゃ、ブリューエット、ノエルさん」


 まずブリューエットが詠唱に入る。

 精霊の存在を確認するように周りを見渡してから、腰の高さで手のひらを上に向け、言葉を紡いだ。


「……迷宮に満ちる冷気よ…その牙と爪で我が敵を凍てつくせ、『氷狼』!」


 ブリューエットの前に白い狼が顕現し、ストーンゴーレムへ飛び掛かる。

 僕は唯一の攻撃魔法である弾丸『バレット』を打つ。

『バレット』は無属性魔法で詠唱自体がない。

 木槌で殴るくらいの威力だが連射がきく。

『氷狼』がストーンゴーレムの片脚を凍らせた。

 逆の脚の関節部を狙った『バレット』は外れて石を僅かに削っただけだった。くそう。


「行くぞ!」


 ウーリとデューイ、次いでミズが飛び出す。

 ウーリが左側、足が凍った方。デューイが右側だ。

 ミズは背中側に周る。

 ルーシーは物理攻撃の手段が無いので、ストーンゴーレムの顔にまとわりついて気を逸らそうと頑張る。

 前衛3人は的確に膝関節を叩いている、が思ってたより頑丈なようだ。

 僕も肘の関節を狙うが、いまいち手応えがない。

 ブリューエットは打ち止めのようで座ってしまった。


 段々とデューイが回避一辺倒になってきた。

 凍った脚をあきらめて、動く脚の方へ集中して攻撃してるようだ。顔もデューイの方を向いている。

 ミズとウーリもそれを察して、気を引こうと前がかりに攻撃を加える。

 すると、ここまでが作戦だったのか、ストーンゴーレムは振り返りもせずいきなり裏拳を繰り出した。

 ウーリに直撃し、吹っ飛ぶ。


「ウーリ!」


 ヒルヤが吹っ飛んだウーリに駆け寄る。

 必死に回復魔法をかけているが意識は無いようだ。


「ジャック!前衛へ上がれ!」


 僕は『バレット』を連発してストーンゴーレムを牽制しながらジャックを呼んだ。

 ウーリの回復に加わりたいが、今は前衛の危機だ。

 ジャックは荷物を投げ下ろし、鞘のまま剣を構えて突っ込む。


「ヤッテヤリマスヨー!」


 勢いそのままに剣を下から上へ切り上げた。

 狙いは金的。

 初撃が金的とかまじヤバイす、ジャックさん。でも相手は無生物ですよ?

 効く訳がないと思ったが、狙いが逸れて股関節に入った。ギギッと嫌な音をたて始め動きが鈍る。膝じゃなくてそっちか!


「デューイ!ミズ!股関節だ!」

「ああ、分かった!」

「任せるニャ!」


 2人は汗だくになりながらも股関節へ攻撃を加える。

 僕も肩関節へと的を変えると、腕の動きも鈍くなってきた。いける。


「でやあっ!」


 デューイの大振りの一撃が股関節に入った。

 音を立てて片脚がもげ落ちた。


「やった!」

「デューイ!上ニャ!」


 喜んで動きを止めたデューイ。

 その頭上から石の拳が振り下ろされようとしていた。

 その刹那。


「危ナイ!」


 ジャックがデューイを体当たりで押し退けた。

 そしてジャックに振り下ろされる拳。

 ジャックは無惨にもバラバラになってしまった。


 デューイが悲痛な叫びを上げる。



「ジャーーーーァァック!!!」

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