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種族スケルトン【ジャッ
また、変な二つ名……というか、名前と完全に混じってしまっている。敬称までついてるし……これは
「な、な、なんじゃ!このふざけた二つ名は!」
顔を真っ赤にして怒鳴るエドガーさん。
専門家のエドガーさんにとっても、見たことのないタイプの二つ名なのだろう。
「問題を解いただけなのにねえ……」
ヘザーさんは頬に手を当てて、ジャックを見る。
「エッ、エッ?私ノ二ツ名、ドウナッテルンデス?」
「えーとね、【ジャッ
「……何ソレ?」
「さあ?……エドガーさん、二つ名の解説はどうなってます?」
「……解説には、とんちが得意、とだけ書いてある」
「それが【ジャッ
「じゃっきゅーたん?」
膝の上のルーシーが、不思議そうな顔で僕を見上げる。
「ううん、【ジャッ
「じゃっきゅーさん!」
「そうそう」
「ぷぷっ、へんなのー!じゃっきゅーさーん!」
ルーシーは手足をバタつかせて喜ぶ。
当のジャックはエドガーさんにすがりつき、抗議の声を上げた。
「チョットォー!余計、変ニナッテルジャナイデスカー!嫌ダー!」
「わーかっとるわっ!」
エドガーさんはそう言うや否や、奥の部屋へと引っ込んでいった。
「モンスターの二つ名は人間のそれとは違うのかしらね……」
ヘザーさんが呟くように言う。
「ん?モンスターの二つ名は研究されていないのですか?」
「二つ名持ちのモンスターって、結局
「ああ、そっか。研究するには危険ですね」
「そうなの。調べたい気持ちはあるのだけどね」
頭を抱えるジャックをみつめていると、エドガーさんが箱を幾つも持って戻ってきた。
「ジャック!次は内職じゃっ!」
「ナ、内職……デスカ?」
「これで【器用な】【地道な】などの二つ名を目指す!」
「ハア……」
半信半疑といった顔のジャック。
それでもエドガーさんに言われた通りに作業を続けたのだが、日が暮れる頃になっても二つ名が変わることはなかった。
「わからん!お主の二つ名の仕組みが、さーっぱりわからん!」
エドガーさんが晩酌のエールを口に運びながら、非難するような口調で言う。
「私ダッテワカリマセンヨ……」
ジャックはヘザーさんが一応用意してくれた川魚のグリルを、フォークでぐさぐさやりながら愚痴る。
「明日からはもっとハードになるからな?覚悟しておけジャック!」
「ウウ……ハイ」
ジャックは消え入りそうな声で返事をした。
夕食ではルーシー用の椅子が用意され、その前には子供用の食器に小盛りの料理が並ぶ。
ルーシーは、目を輝かせて料理を見つめていた。
ヘザーさんが料理を配り終え、自分の席につく。
そして、思いもよらない言葉を口にした。
「……私は、ジャック君達はもう帰るべきだと思うわ」
食卓に一瞬の沈黙が流れる。
「何を言う!まだ初日じゃぞ、ヘザー!?あと何か月、いや何年かかろうとやり遂げるべきじゃっ!!」
「へざーサン!見捨テナイデー!」
エドガーさんとジャックが不満の声を上げる。でも何年もかけるのは勘弁して欲しい。
「二人とも落ち着いて。あなた、二つ名が変わりやすい人って、どんな人かしら?」
突然の質問に、エドガーさんは考え込む。
「……子供じゃな。どんな人間になるか決まっていないぶん、二つ名が定着しづらい」
ヘザーさんは大きく頷き、続きを話す。
「それはつまり、その人が何者であるか定まっていない、ということ。ジャック君は子供でこそないけれど、まだ何者でもない、ということではないかしら?」
「何者デモナイ……」
今度はジャックが考え込んでしまった。
「ごめんなさいね、ジャック君。私はジャック君が未熟だとか言ってるわけではないの。でも、二つ名がコロコロ変わるというのは、ジャック君の心の中で定まっていない部分があるんじゃないかと思うの」
ジャックは考え込んだまま、一つ頷いた。
彼が考えていることは僕にもわかる。
生前の記憶のことだ。
生前の記憶がないのはすべてのスケルトン共通のことだが、ジャックは他のスケルトンズほど生前の習慣を引きずっていないように思う。
その辺りが「定まっていない」ということではないだろうか。
「……デハ、私ハズットコノママ?」
ジャックがかすれるような声で問う。
だが、ヘザーさんは首を横に振った。
「変な二つ名が付くことに関しては、正直わからないわ。でもコロコロ変わるのは、じきに収まるのではないかしら」
「ホントデスカ!?」
ガタッと音を立てて立ち上がるジャック。
「ええ。人が最も成長するのは、他人と深く関わりを持ったとき。ジャック君は素敵な二つ名を持った二人と暮らしているのでしょう?あなたの心は定まっていくと思うわ」
「……素敵ナ二ツ名ノ二人?」
ジャックが僕とルーシーを交互に見る。
僕とルーシーのことだよな?
僕の二つ名が素敵……?
【はぐれ司祭】だろう?
……というか、ルーシーって
ハッと我に返り、ルーシーを鑑定した。
種族ゴースト【二丁バレットのルーシー】
「うわ、ルーシー
「イツノ間ニ……二ツ名ハ?」
「【二丁バレットのルーシー】だね」
「ナッ!?るーしー、ナンテ羨マシイ二ツ名ヲ……」
ギリギリと歯ぎしりして悔しがるジャック。
だがルーシーはキョトンとしている。
「にちょー?」
「ルーシーの二つ名だよ。両手で『バレット』撃つでしょ?あれだね」
「する!にちょー『ばれっと』!」
「ちょっ、危ないから!……と、今はファミリア状態じゃないから平気か」
「デモ、危ナイカラだめデスヨ、るーしー?」
「ごめんなさーい」
ジャックに窘められ、素直に謝るルーシー。
「それで……僕の二つ名って【はぐれ司祭】ですよね?」
「いいえ?違うわね」
「なんて二つ名ですか?」
司祭の僕にも鑑定できないものがある。
それは自分だ。
自分の手足を鑑定したり、鏡に写った自分を鑑定したりと何度も試したのだが、うまくいったことはない。
「そうねえ……ジャック君、ルーシーちゃん、こっちいらっしゃい」
ヘザーさんは二人を呼び寄せ、僕に聞こえないように耳打ちした。
「ホホウ!」
「へー!」
僕の二つ名を知ったらしい二人は、ニヤニヤ笑って僕を見た。
「なんだよー、教えてよー」
「今、教エタラ耳打チノ意味ガナイジャナイデスカ。秘密デスヨ」
「ぷぷっ、ひみつー」
僕達の様子を微笑みを浮かべて見ていたヘザーさんだったが、こほん、と一つ咳払いをした。
「ジャック君が今の状態のまま特訓を続けても意味がないと思うの。だって、格好いい二つ名になっても、またコロッと変わってしまうでしょう?」
「それは確かに……」
「ソウデスネ」
僕とジャックの反応に、にっこりと笑うヘザーさん。
「明日、帰りなさい。そして三人で過ごすの。他の人と触れ合ったり、何かに挑戦するのもいいわね。そうやって日々を過ごしていれば、自ずと二つ名は落ち着くと思うわ」
要は、今まで通り暮らしなさいということだ。
何だか解決していない気がするが、ジャックは深く頷いた。彼なりに納得したようだ。
「さあ、そうと決まれば寝ましょうか。ルーシーちゃん、お婆さんと一緒に寝る?」
「ん、いいよ!」
「では、ジャックはエドガーさんと……」
「ふざけるな!なんで儂が骨を抱いて寝なきゃならん!縁起でもない!」
「私ダッテ嫌デスヨ!トイウカ、私ハ寝ナクテ平気デスカラのえるサンガ一緒ニ……」
「絶っっ対、嫌だ!!」
「そこまで拒否されると、いささか傷つくんじゃがの……」
結局、一つのベッドでルーシーを挟んでマルキン夫妻が寝て、もう一つのベッドで僕が寝ることとなった。