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 カインに教わった道を進む。


 空気は非常に悪い。

 そりゃ説教された後に恐い目に遭えば当然か。

 無言で歩くことしばらく。話にあったT字路へと辿り着いた。


 先頭のミズが立ち止まって、しきりに右を気にしている。


「左だよ、ミズ」


 まだ暗いままのウーリが呼びかける。

 だがミズは立ち止まったままだ。よく見ると尻尾が立ってる。


「宝箱の臭いがするの?」


 そう言うと、首をぐりんと僕の方へと向ける。


「そうなのニャ!怒られたばかりだし、いけないと分かってるけど……気になるニャー!」

「別に宝箱を開けに行くのが悪いわけじゃないんだよ?興奮して走り出すのが駄目ってだけ」


 ミズは結局右へ行っていいのか?と伺うような目で僕を見ている。


「僕はあくまでスポット参戦だから。ウーリ、リーダーとしてどう思う?」


 ウーリはリーダーに必要な慎重さを備えている。周りが彼の指示を聞いちゃいないだけだ。


「……宝への距離次第だと思う。どのくらい先にあるんだい?」

「そんな遠くないニャ。真っ直ぐ行って右ニャ」

「よし、それなら行ってみよう。ミズとデューイは絶対に走らない事!他の皆もそれでいいかい?」


 ブリューエットとヒルヤもこくりと頷いた。


「じゃあミズ、慎重に頼むよ」

「分かったニャ」


 ミズは先程とは違い警戒しながら進む。

 途中ジャイアントバットが1匹出たが、ミズがそのまま弓で仕留めた。


「ここに罠があるニャ。たぶん落とし穴ニャ」


 ミズが指差す。

 僕らにはよく分からないが、床の厚さが違うっぽいとのこと。


「ウチが跳び越えてロープを渡すニャ。ちょっとそこで待つニャ」


 そう言うと、助走をとってジャンプし、落とし穴のある床を跳び越え、その先にある罠を踏み抜いた。


「ヴニャーー!」


 頭を抱えるミズ。

 同時に頭上からガチャリという音がする。全員が見上げる先には矢が装填された石弓が姿を見せていた。


「クロスボウ!皆、壁に寄れ!」


 ウーリの叫びに壁に張り付く。

 矢は3本放たれ、それぞれが石の床に刺さった。


「ごめんニャ……ウチ失敗ばかりニャ……」


 ちょっと自信喪失気味だな。

 僕の説教のせいもあるのでフォローしておく。


「いや、悪くなかったと思うよ?ミズは罠を見つけた上で、その罠にどう対処するつもりかきちんと報告したから」

「そうだぜ、俺達は反対してねーし。この失敗はパーティの失敗だろ」

「ウーリも良い指示だった」


 ヒルヤとブリューエットもうんうんと頷いている。

 ウーリは照れくさそうだった。

 僕とデューイの励ましに何とか気持ちを立て直したミズは、踏んだ罠を作動しないように細工して、ロープを渡した。


「あとちょっとでお宝ニャ」


 言葉通り鉄製の宝箱があった。

 ミズが屈んだり回り込んだりして宝箱をチェックする。よしよし、学んでるな。

 やがて鍵穴をカチャカチャやってから皆に説明した。


「鍵は開いたニャ。罠はたぶんあるニャ。でも解除出来ないニャ……」

「ミズの手に余る罠なのか……」


 ウーリが残念そうに呟く。


「いや?手に余ると言うか、宝箱の罠解除自体したことないニャ。箱を開けずにどうやって解除するのかニャぁ……」


 ん?じゃあ今まで誰が宝箱を開けてきたんだ?

 そう思い皆を見ると、ミズを除く全員がぽかんと口を開けていた。


「……っ!ミズ、今まで宝箱開けてたじゃねーか!」

「そうですよ!サクサク開けてましたよ?」

「……ミズ、宝箱は任せろって言ってた」


 ウーリはまだ口を開いたままだ。

 そうか、今まで運よく罠付き宝箱に遭遇してなかったんだ。

 それで最初の宝箱でのあの行動になるわけか。


「ウチのせいじゃないニャ!ウチは盗賊じゃないんニャ!」

「それはそうだけどよ……」

「この宝箱どうします?ダメ元で開けてみますか?」

「それは危険だよ」

「じゃあ開けずに捨ててくのか……」

「まあその辺は君達の今後の課題として、この宝箱は開けようか」

「開けれるのかよ?司祭さん」

「ちょっとズルい方法かもしれないけど」


 僕は十字架を叩く。

 光る煙が立ち上る。


「呼ばれて飛び出てルーシーとうじょー!」


 形を成したルーシーは、肩幅に脚を開き両手を右斜め上に掲げている。

 ……なんだこれは。

 じろりとジャックを睨むと、ふいっと顔を逸らされた。

 やはりこやつの入れ知恵か。


「あー、ルーシー、そのポーズどうしたんだい?」

「ジャックがね、とうじょーしーんは工夫しなきゃいけないんだって。ルーシーかっこよかった?」

「あ、ああ!格好良かったよ」

「そっかあ、うれしいな」


 ふよふよと機嫌良さげに浮いている。


「それでまたお願いしていい?あの宝箱なんだけど」

「うん、分かった!」


 そう言うとルーシーは宝箱に近付き、頭を突っ込んだ。

 まるでお尻だけが宝箱から生えてるように見える。

 壁抜けが出来るルーシーに宝箱の中を直接見てもらう作戦だ。


「ええっとね、水道みたいなのがあるよ」

「ふむふむ。油の臭いはするかな?」

「しない~」


 パイプが通っていて油の臭いがしない。

 毒ガスの罠とみていいだろう。


「ではジャック先生、お願いします」

「コンナ時バカリ先生トカ言ッテ……」


 ジャックなら低層の罠は大体大丈夫だ。

 ニードルとか石弓なんていう刺突系の罠は効き辛いし、毒は効かないので毒ガス毒針も平気。

 バーナーとかテレポーターみたいなジャックでもヤバそうな罠だけスルーすればいい。


「じゃ、皆もう少し下がろうか。ガスに巻き込まれないように」

「ほんとにジャックは大丈夫なのか?」


 えらくデューイが心配している。ジャックを気に入ったみたいだ。


 充分に離れるとジャックが宝箱を開けた。

 やはり毒ガスの罠でブシューと緑色の煙がジャックを直撃する。

 ジャックはガスの中、宝箱に手をやり何か拾ってこちらへ戻ってきた。


「魔法石デシタ」


 皆がジャックに近寄って、その手の上の魔法石を見る。


「なんだ、〈から石〉かあ」

「……残念」


 魔法石は魔法を覚える為のアイテムだ。

 その魔法を使う素養のある人間が、魔法石を手に念じる事により封じられた魔法を身に付ける事が出来る。

 そして封じられた魔法の系統により色が変わる。

 回復魔法なら白、火炎魔法なら赤といった具合だ。

 一方で使い終わった魔法石は〈から石〉と言われ、ハズレアイテムとなる。無色透明なのがその特徴だ。

 しかし。

 僕は魔法石を鑑定する。


「これは高く売れるよ。迷宮脱出『リープ』の魔法石だ」

「ほんとですか?」

「リープって使える人少ないんじゃ……」

「お宝!ウチの鼻は間違ってなかったニャ!」


 俄然元気になるミズ。

 リープに代表される属性を持たない魔法石は、見た目上〈から石〉と区別がつかないのだ。

 そのせいで無属性魔法を覚えてる人は少ない。


「ダンジョンを出たら僕の鑑定書付けて売ろう」

「うおお興奮してきた!1万シェルくらいするかな?」

「そんなにしないよ、デューイ」

「そうです。私が『ヒール』の魔法石を買ったときは5百シェルくらいでしたよ?」


 しかしブリューエットがふるふると首を振り否定する。


「……数が少ないからもっとする。1万でも安い」

「うん、ブリューエットの言う通り。僕の経験上、2万から5万ってとこだね。ちょっと安定はしないけど」


 露店なんかで〈から石〉を見たらとりあえず鑑定するようにしてる。

 もし当たりなら買い取って転売だ。あまり好まれる方法ではないが、僕には重要な収入源だ。


「うおおお!」


 デューイが雄叫びを上げる。


「やった、やった!」


 ウーリは手を握り締め、喜びの声を出す。


「…………」


 ブリューエットは声こそ出さないがパチパチと拍手している。


「お宝でしたね。よかったですね、ミズ」


 ヒルヤはミズを嬉しそうに見つめる。


「ついにお宝発見ニャーーー!!」


 一番嬉しそうなのはミズだ。お宝への執着が凄い。


「~~~~♪」


 下手な口笛を吹きながら魔法石を肋骨の奥へと仕舞うのはジャック。


 見えてるからな、手癖の悪いスケルトンめ。


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