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オマケという名の蛇足編。
入りきらなかった二次会風景です。
後半はノリと勢いで書いたので色々アレですが、お許しください。
結婚式が終わった途端、雨がぽつりぽつりと降り始めた。出席者達は足早に、二次会会場の黒猫堂二号店へと向かう。
「ノエル、サラダ用の野菜が欲しいんだ」
「わかった、うち寄って行こうか」
キリルと共に我が家の庭に入ると、サニーが気持ち良さそうに雨に打たれていた。
「ただいま、サニー」
「ン……オカエリ……オ父サン」
「よっ、サニー。邪魔するぜ」
「白イ人……イイヨ……」
キリルは手際よく使う野菜を収穫してゆく。
「それで足りそう?」
「ああ、十分だ……果物だけ物足りないが、それは仕方ねえ」
「クダモノ……実ノコト……?」
「ああ、そうだぜサニー。甘くて酸っぱくて美味いんだ」
「甘クテ……酸ッパイ……」
サニーは呟いたかと思うと、ブルブルと震え出した。
「お、おい、サニー。大丈夫か?」
震えは幹から枝先へと移る。
僕とキリルは、何が起こるのかと固唾を呑んで見守る。
やがて震えは大きくなり、枝先にぽん、ぽんと白い花が咲いた。甘い香りがほんのりと辺りに漂う。
「花が……」
キリルは花を触ろうと近付いて、触る直前で止まった。
「枯れて……?」
白い花は次々に色を失い、やがて黄緑色の実を結んだ。
「ン……実……食ベテ……」
「しかし、これは言わばサニーの子供……つまりは僕の孫ッ!」
「何言ってんだノエル。食べてみようぜ、ほれ」
キリルがサニーの実を僕に投げる。
黄緑色で少し光沢があり、甘く爽やかな香りがした。
「甘っ!?」
「美味い!」
かぶりつくと、甘酸っぱい果汁がたっぷりと滴った。お菓子のように甘いが、後味はすっきりしていて、幾らでも食べれそうだ。
「ありがとうサニー!貰っていくぜ!」
「ドウゾ……白イ人……」
「くうっ、サニーの初めての贈り物をキリルなんぞに……」
「お前、さっきからおかしいぞ?。さっさと黒猫堂行こうぜ」
「う、うん。そうだった」
黒猫堂2号店に辿り着いた頃には、本降りになっていた。服についた雫を拭い扉を開くと、中はすでに大賑わいだった。
「いやあ、良い嫁が来てくれた!なあ、母さん!」
「ほんとだよ。こんな可愛い孫まで連れてきてくれて……うう、ぐすっ」
ロジャーを抱いたビリーのお母さんは、涙ながらにヴィヴィの手を握っている。
対するヴィヴィも今にも溢れそうなほど、目に涙を貯めていた。
「ノエル来たニャ?それでは二次会始めるニャー!」
舞台に立ったリオの宣言に歓声が上がる。
特にエーリクやラシードさんは声がでかい。すでに出来上がっている様子だ。
キリルは野菜を抱えて厨房に走っていった。
「さて、まずは企画立案者のノエルに挨拶……んニャ?」
僕は腕組みした右手で、ロジャーをちょんちょんと指差した。僕の仕事はさっきで終わり。後は食べて飲んで騒ぐ以外、する気はない。
「ゴホン!失礼しましたニャ!企画立案者のロジャーに挨拶をお願いするニャ!」
ロジャーは驚いてヴィヴィを見るが、周りからの拍手に観念して立ち上がった。
それを合図に拍手が止み、静寂が訪れる。
「えと、ロジャーです。みんな、手伝ってくれてありがとう!結婚式出来たのはみんなのおかげです!」
そう言って、ぺこりとお辞儀する。
頭を上げると、隣に座るヴィヴィを見た。
「お母さん、今まで育ててくれてありがとう。これからもよろしくね」
ヴィヴィは目を潤ませて、何度も頷く。
「ビリー、お母さんを選んでくれてありがとう。これからよろしくね」
ビリーさんは口をへの字に曲げ、こくりと頷いた。
周囲から再び拍手が起こる。
「すんばらしい挨拶じゃねえか、ヒック」
「いい子だねえ。ウルウル」
「年寄りを泣かすもんじゃないよ……」
拍手が収まるのを待って、リオが立ち上がった。
「では次は乾杯ニャ!乾杯の音頭は、んー、ラシード!舞台に来るニャ!」
「俺か!?」
ラシードさんは嫌がるが、周りの視線に渋々ながら舞台に上がる。
「皆様、ご起立願うニャ!ではラシード、どうぞニャ」
ラシードさんは不精髭を触りながら思案する。
「……俺はな、ビリーから結婚の話を聞いて、正直憂うつだった」
意外な言葉に、会場が静まり返る。
「俺達みたいな冒険者にとって、結婚ってのは引退のタイミングだ。ああ、これで【鉄壁】も解散か、とな」
「辞めるわけねーだろ!」
ビリーさんが不機嫌そうに叫んだ。
「そう!コイツが辞めるわけねえんだ。ビリーが冒険者以外出来るか?【鉄壁】以外でやっていけるか?無理だ、無理無理!」
冗談めかしたラシードさんの言い方に、クスクスと笑いが漏れる。
「やれねえことはねーだろうよぉ……」
ビリーさんだけは不満顔だが。
「何も心配する必要なんてなかったんだよな。あるとすれば、冒険で遅くなった時にヴィヴィにどやされることくらいだ」
先ほどより大きな笑いが起こった。
「そういうわけで、今はなんの憂いもねえ。今日は良い式だった!乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
ラシードさんが杯を掲げると、一斉に乾杯の声が弾けた。至るところで杯を当て合う音が響く中、厨房の方からどよめきが上がる。
「はいはい、気を付けてくれな」
キリルが先導するのは台車四台の上に長机を置いた物。ミズ、トリーネ、デューイ、ウーリがそれぞれの台車を慎重に移動させる。もちろん、その上にあるのは……
「凄い!これってレイロア大王!?」
「……おっきい!」
「初めて見たぞ!なあ、母さん!」
「うちの牛より大きいね……」
「こっそり、ひと口……美味い!ムハー!」
会場の中央まで来ると、四人は台車の車輪を固定した。調理され、真っ赤に染まったレイロア大王はインパクト十分だ。
「これはレイロア大王の姿蒸しだ!味はあえてつけてねえ!身の旨味を存分に味わってくれ!」
キリルが得意気に話すと、ワッとレイロア大王に人が殺到した。
その後もスモークムルムル鳥や、ワイルドボアのステーキ、レディマウンテンの香草焼きなど、次々と料理が振る舞われた。
サニーの実は女性陣に大好評だった。当然だ、不味いわけがない。
やがて出し物が始まると、宴もたけなわとなった。
ルーシーにエマ、マリアのゴーストダンサーズによるお祝いの踊り。
ドウセツによるハイクなる東方風ポエムの披露。
ジルさんによる見事な剣舞。
スケルトン四体による「私ハ誰デショウ」ゲーム。裸で黙ると意外にわかり辛かった。
そして現在。
「さあ、始まりました。腕相撲トーナメント黒猫杯!実況はわたくしノエル、解説にはジャック先生にお越し頂きました。ジャック先生、よろしくお願いします」
「ハイ、ヨロシクー」
舞台には丈夫なテーブルが鎮座し、釣り看板の文字は《そろそろ職業No1を決めようか……》に変わっている。
「さて、八人の猛者が集まったわけですが……ジャック先生の本命はどの選手になりますか?」
「ソウデスネエ……体格ダケナラえーりく選手ニとーる選手デスガ……私ハじる選手ヲ押シマスネ」
「ほう!その根拠は?」
「達人ノ雰囲気、トデモ申シマショウカ。何カヤッテクレル気ガシマス」
「そうですか……おっ、いよいよ始まるようです!リオ審判員がクジを引きます。マッチングは試合毎にクジ引きで決まります!」
「一人目、剣士ニャ!」
「おっと、最初からジャック先生の本命、ジル選手です!」
「楽シミデスネエ」
「続いては……牛飼い!ビリーさんのお父さんです!」
「牛飼イハ肉体労働デス。ナメテハイケマセンヨ!」
「レディ……ゴー!」
「ああっ!一瞬!ジル選手、あっという間の勝利!」
「機先、デスネ」
「機先?」
「エエ。勝負ノ始マル、マサニ、ソノ瞬間ヲ制シタノデス。ジル選手の真骨頂デショウ」
「見事な勝利でした。さあ、第二試合は……戦士!トール選手です!相手は……スケルトン!」
「まりうす選手デスネ」
「これはどうなるでしょう?」
「ワカリマセンネ。正直ナトコロ、まりうす選手ハ全ク読メマセン。歩ク不安定要素デスカラ」
「なるほど、確かに」
「準備はいいかニャ?レディ……ゴー!」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「おっとマリウス選手、相手にプレッシャーをかけます!」
「良イ勝負デスガ……コレハとーる選手、厳シイデスネ」
「と、言いますと?」
「すけるとんハ疲労シマセン。長期戦ニナルホドまりうす選手ガ有利デス」
「ああっ、ジャック先生の解説通り!トール選手が押されていく!」
「ンー」
「ここで勝負あり!優勝候補の一角、トール選手がまさかの一回戦負け!」
「残念デスネエ」
「次は……新郎ニャ!」
「さあ今日の主役、ビリー選手の登場です!」
「新郎ッテ職業ダッタンデスネエ」
「相手は……精霊使い!紅一点、ブリューエット選手です!」
「アー、びりー選手、がっつぽーずシチャイマシタ」
「会場中、ブーイングの嵐です。とても今日の主役とは思えません」
「準備はいいかニャ?」
「……ちょっと待って」
「ん?何やらブリューエット選手は詠唱しているようです……なんと、これは!」
「大キイデスネエ!とろーるノ子供クライアルンジャナイデスカ!?」
「えー、手元の資料によりますと、酒場の精霊アブサンだそうです」
「びりー選手、圧倒サレテマスネ」
「待て、これは反則だろ!?」
「ビリー選手、納得いかないようです」
「ソリャソウデショウ」
「しかし、リオ審判員は異議を認めない!どうやら精霊はアリのようです!」
「レディ……ゴー!」
「ああっ、容赦なし!ビリー選手、緑のマッチョ精霊に惨敗してしまいました」
「コレハ無理デショ」
「さて、予選最後の第四試合!これはもう対戦カードは決まっています」
「魔法戦士ト鍛冶屋デスネ」
「体格的にはエーリク選手でしょうが、ポーリ選手も燃えています!」
「何故カ結婚式ニ呼ンデモラエマセンデシタカラネ」
「誰も気づかなかったようです……始まりました!エーリク選手ジリジリ押していきます!」
「ヤハリ、実力差アリマスネ」
「あー、ポーリ選手、たいした見せ場もなく負けてしまいました。残念!」
「何故カ目立タナイノデスヨネエ、彼」
「さあ、準決勝の選手が出揃いましたが……いかがですか、ジャック先生?」
「ホボ予想通リデスガ、意外ナノハぶりゅーえっと選手デスネ」
「アブサンは驚異でしょう!さあ、準決勝第一試合!ジル選手とマリウス選手!」
「アア……コレハ不味イ……」
「ん?どういうことでしょう、ジャック先生?」
「見レバワカリマス」
「じ、じる……」
「マリウス……」
「勝負の前から睨み合う二人!気合い十分です!」
「見ツメ合ッテルンダト思イマスヨ?」
「レディ……ゴー!」
「ああっ、ジル選手、機先を制することが出来ない!ジャック先生の本命、ここで消える!」
「相性ガ最悪デシタネ……」
「無念なのでしょう、まだ手を放しません!」
「イヤ、頬ヲ赤ラメテルヨウニ見エマスガ?」
「続いて準決勝第二試合!アブサン選手と……失礼、ブリューエット選手とエーリク選手!」
「ぶりゅーえっと選手ハ舞台ニモ立タナイノデスネ……」
「酔いが回って立てないようです。さてジャック先生、酒の精霊と大酒飲みの闘いとなりましたが」
「面白イ組ミ合ワセニナリマシタネエ。ドウナルカ検討モツキマセン」
「レディ……ゴー!」
「おおっ、動かない!両者の手が開始位置から動きません!」
「互角デスネ」
「酒はぁ~飲んでもぉ~飲まれるなぁ~」
「エーリク選手、奇妙な唄を歌いながら押し込む!」
「イツモ飲マレテル気ガシマスガネエ」
「勝った!マッチョ精霊に完勝だ!これは見事!」
「酒好キ冥利ニ尽キルデショウ」
照明が落とされ、舞台だけがライトアップされる。
「レディースエーンジェントルメン!これより決勝戦を始めますニャ!」
「まず舞台に上がるのはエーリク選手!太い腕をぶんぶん回して観客にアピールします!」
「実力ハ折リ紙ツキデス。期待出来ルデショウ」
「続いてマリウス選手!……何だか首がカクカクしてますが。ジャック先生?」
「
「レディ……ゴッ!!」
「さあ、始まりました決勝戦!エーリク選手、先ほどの勢いそのままにマリウス選手を押していく!」
「まりうす選手モ粘ッテマス!マダワカリマセン!」
「ヌオオォォ……ヨ、ヨ、夜ニ押シ潰サレルゥゥ」
「マリウス選手、何か哲学的な表現をしてますが……」
「コレハ!?
「ウオ、オ、俺ハァァ……負ケナイィィ?巻ケ撒ケ蒔ケ敗ケ……」
「ぬぐおっ!?」
「
「痛クナァイ、ズゥェンズェン痛クナイカラアァァ……」
「開始位置まで戻された!エーリク選手ピンチ!」
「脳ミソ食ワセロオオオオ!ウシャシャシャシャ!」
「ぐ、ぐうっ」
「勝負あり!勝者、マリウス!!」
「いやー、会場は割れんばかりの拍手です!
「エエ、アレコソガまりうす選手ノ真髄デス。加エテえーりく選手ハあぶさん戦デ消耗シテイタコトモ大キイデショウ」
「なるほど、乳酸ですね?」
「ソノ通リデス。すけるとんノ持久力ノ勝利ト言エルカモシレマセン」
「オルオルオル俺ハァァァ!世界一ィィィ!!ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」
夜の黒猫堂にマリウスの笑い声がこだました。
宴はまだまだ続く……
コミックス第一巻&小説版第四巻が発売されます!
11月19日と11月20日の(ほぼ)同時発売!
詳しくは活動報告にて。