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 迷宮都市レイロア。


 迷宮に冒険者が集まり、迷宮産の逸品を目当てに商人や学者が集まり、集まった人々相手の商売人が集まり……そうやって発展した都市である。

  大人2人分程の城壁が四方を囲み、東西南北それぞれに門がある。北門は大街道へと続く道に面しているため門のすぐ内側に厩舎や馬丁の住む小屋、蹄鉄屋の仕事場などが並んでいる。

  そんな北門そばで待っていると、今回参加するパーティが姿を見せた。


「よう、便利屋」

「どうもラシードさん、よろしくお願いします」

「こっちこそよろしくな」


  ラシードさん率いる【鉄壁】はBランク3人からなる熟練パーティだ。名前の通り盾と鎧で固めた屈強な戦士3人で構成される。


  そう、戦士3人なのだ。


  バランスの良いパーティなどそうそうあるものでは無いけれど、これはいささか悪すぎる。元々は回復魔法の使える僧侶がいたそうだが、別のパーティへ鞍替えしてしまったらしい。

  しかしこういう時こそ固定パーティを組めない僕のような者にとって冒険の好機となる。


「水や食糧はジャックが運びますので渡してください」


  ジャックが受け取った荷物を大きな背負い袋に詰めてゆく。パンパンに膨らんだ背負い袋を背負うとその白い肩に荷物の重みがのし掛かる。


「イヤハヤ骨使イノ荒イ事デ……」


  僕の相棒、スケルトンのジャック。とある事情で僕の使役モンスターということになっている。彼の役目はポーター、つまり荷運び屋だ。


「よし、行くか」


  ラシードさんの声に一行は馬車に乗り込んだ。



  目的地ユパ村を目指し年寄り馬がカポカポ進む。

  冒険者が馬車を所有しても管理が出来ないので必然的に乗り合い馬車なんかにお世話になる。今回はレンタル馬車だ。いい馬、いい馬車だと保証金が高く付くのでボロ馬ボロ馬車が冒険者御用達となる。

  御者台ではラシードさんが手綱を取り、その横にジャックが座っている。ジャックは盗賊除けだ。これ見よがしに骨が乗ってる馬車をわざわざ襲わないだろう、という希望的観測によるものだ。

  荷台部分には僕と【鉄壁】の残り2人が乗っている。

 片膝をたてて座っている黒っぽい革鎧がビリーさん。傍らにはロングソードと取り回しの良さそうな小盾が置いてある。無口な人なのか、まだ声を聞いていない。

  対照的に大音量でイビキをかいてる大柄なスケイルメイルがトールさん。大盾を枕にハルバードを抱き抱えて横になっているが寝辛くないのだろうか。

  ラシードさんから借りた今回の依頼書に目を落とす。

 《ユパ村周辺でゴブリンの集団が目撃されている。その調査及び討伐を依頼する。なお、優先順位は調査報告を上とする。 依頼主アラン=シェリンガム》

  シェリンガムはレイロア冒険者ギルドの最高責任者の名前だ。

 ギルドマスター名義の依頼は直接依頼と呼ばれるもので、緊急性の高い案件についてギルドマスターが指名で依頼する。指名を受けた側は拒否出来ない。

  【鉄壁】は指名を受けたからには直ちに出立しなくてはならない。しかし後衛1人くらいは欲しい。と悩んでるところに僕を思い出したらしい。

  直接依頼に参加するのは初めてだ。僕はもう1人の相棒が眠る胸の十字架を握り手に表れた緊張を隠した。


 半日かけてユパ村へ到着した。

 ユパ村は一言で言えば長閑な田舎村だ。田園風景が広がり、その中にポツポツと民家が見える。そしてその内の幾つかは……燃えていた。


「まさか、ゴブリンに襲われてる?」

「それ以外ねーだろ、夕餉の支度にしちゃ燃えすぎだ」

「……グオオオオォ」

「チッ、トール起きろ!」

「グオォ……グッ!?」


 ビリーさんが枕になってる大盾を蹴りあげた。

 御者台からこちらに声がかかる。


「これ以上は馬が怯える。ここに馬車を置いていくぞ、用意しろ」


 老馬を手近な木に繋ぎ、村の方へと歩き出す。

 気が逸り駆け出したくなるが、【鉄壁】の3人は少し早歩き程度のスピードで周囲を確認しながら進む。


「あの大きな建物、村長宅か?何やら大騒ぎしてるな」

「なんかが動いてるのも見えるぜ。どうせゴブ共だろーがな」

「建物内に生存者がいるのでしょう。私達で救いだしましょう」


 トールさん見た目に反して言葉丁寧だな。しかも声高い。そんな事を考えながらトールさんを見ていたら目があった。

 バチッとウインクされた。

 あ、そちらの方でしたか。僧侶が抜けたのも案外トールさんのせいかもな……等と考えているうちに建物の周りが見えてきた。

 何十匹ものゴブリン達が棍棒や剣、あるいは拳で建物をガンガンと叩いている。石造りの丈夫そうな建物だが、このままではこじ開けられるのも時間の問題だろう。


「このまま突っ込むぞ!正面を崩したら建物を背に隊列を組む」


 ラシードさんが指示を飛ばすと一番身軽なビリーさんが真っ先に斬りかかる。こちらに背を向けたままのゴブリンを一匹、二匹と斬り伏せてゆく。


「ググッ?」

「ゲグギ!ギギッ!」


 ようやくこちらに気付いたゴブリン達がビリーさんに殺到する。が……


「おらぁっっ!」


 ビリーさんは眼前のゴブリンを小盾で弾き飛ばす。後ろに詰めてきたゴブリン達を巻き込みながら吹っ飛んでいった。

 横から来るゴブリンはラシードさんが首を飛ばしトールさんが突き殺してゆく。


 あっという間に建物の扉にたどり着いた。扉は所々壊れていたが、その隙間からタンスか何かで補強されてるのが見える。バリケードが作られているようだ。生存者がいるのはほぼ間違いない。


「よし、隊列を組んだまま数を減らしていくぞ」


 隊列と言っても【鉄壁】が前衛に並び、僕が後衛から回復魔法を飛ばす単純なものだ。


「私ハドウスレバ……?」

「あれ?ジャック着いてきてたの?馬車に残ってるかと思った」

「荷物、必要カト……」

「骨の旦那は荷物置いて前衛だな」

「私、ぽーたーナンデスガ」

「俺のショートソード貸してやる」


 ジャックは扉の前に荷物を下ろし、ラシードさんからしぶしぶ剣を受け取った。へっぴり腰で構えると、モヒカンみたいな頭飾りを着けたゴブリンが襲いかかってきた。


「ヒイィィ!」

「頑張れジャック!いけるいける(笑)!」

「他人事ダトオモッテ!ナニ笑ッテンデスカ!」


 応援してるのに酷い言いぐさだ。


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11月19日と11月20日の(ほぼ)同時発売!

詳しくは活動報告にて。

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