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32 星形の小花とバラの花


カファロ家を放置して、俺達はレンドル学園を後にした。


王宮に帰ると、すぐ侍女長を呼び、ルーナを労うために癒して欲しいと頼む。

そして、ドレスを指定した。


そのドレスは特別な日にと、(かね)てより俺が用意していたドレスだ。

その特別なドレスと俺の顔つきで理解した侍女長が、親指を立ててニヤリと笑う。


いや、それされると恥ずかしいんだけど・・。


まあ、状況を察した侍女長が、どれ程頑張ってくれたのかは、扉を開けて出てきたルーナを見れば一目瞭然だった。


薄い水色の髪は、ローシニヨンに纏められて可愛らしいし、おくれ毛は緩やかにカールして色っぽさを醸し出している。


そして、濃紺の布地に、胸元に水色、白色、薄紫、黄色のバラの花を多くあしらい、ドレープの切り返しにも花と白いレースのドレスは清楚なルーナに似合っている。しかも、金色のアクセサリーは俺の髪とルーナの瞳の色だ。


化粧されたルーナは、薄化粧ながらも、美の女神が降臨したかと見紛う美しさ。


「・・・どうですか?」

ルーナの問いに答えられる言葉が見つからない。

侍女長の分厚い手で、背中をバシッと叩かれ漸く言葉が出た。


「きれいだ・・・。いや、綺麗なんて言葉だけじゃ物足りない。ルーナを誰にも見せたくないほどに美しい。だがしかし、全世界に自慢したい気持ちとせめぎ合っている最中だ」


「あ、ありがとうございます」

ルーナの照れた姿が、微笑ましくて覗き込んでしまった。

「ルーナのどんな表情も見逃したくない」


ジーッと見つめる俺に、再び侍女長の背中への一発が入り、「殿下、お早く行ってらっしゃいませ」と促された。


ルーナをエスコートし、俺はとある場所にルーナを誘う。

俺が庭師と協力して作ってきた場所なのだが、ルーナに気に入ってもらえるだろうか?


小さめの温室に庭師のじいやが、にこにこ顔で待っている。

「殿下、丁度良かったです。ほら」

そこには、派手さはないが小さな星形の可愛い花が咲き誇っていた。


「これは・・・」

ルーナが目を見開いてその花を見ている。

これは、昔ルーナの母親が育てていて、その後ルーナが大事にしていたが、カファロ家のやつらに、全て刈り取られてしまった花だった。

僅かに残った数本から、少しずつ増やして行き、漸くこの温室一杯に咲かすことが出来たのだ。


「気に入ってくれた?」


「ええ、こんなにも沢山・・・。ありがとうございます」

ルーナの瞳が嬉しさにキラキラ輝く。

その顔を見れた俺は満足し、庭師のじいやとハイタッチ。

すぐに、じいやが誰かと同じく親指を立てて『グッ』の後、俺とルーナを残して温室を出ていった。


パタンと温室のドアが閉まった途端、俺の心臓がドキドキと煩くなる。


俺は1本星形のその花の茎を折り、輪っかを作り、ルーナの前で跪いた。

ルーナの体がピクリと跳ねる。その後ルーナは胸の前で手を組み、大きく目を見開き俺を見つめた。


俺と同じようにルーナの心臓もドキドキしているのか、組んだ手を胸に押し付けていた。


「ルーナ・・」

「ひゃい!!・・・」

ルーナの声が裏返る。


「俺はこの先の人生、何度生まれ変わっても君と生きたい。だから、俺と結婚して下さい」


「はい、よ・・よろしくお願い・・します」


その言葉を受けて、俺はさっき手折った花の輪っかを取り出す。

「急だったから、指輪を用意出来なかったけど、今度一緒に買いに行こう。だから、今日はこれで・・」


そう言って星形の小花で作った指輪を、ルーナの白く細い薬指に通した。

「私、この指輪も大事にします」

子供の花輪なのに、ルーナは大事そうに見ている。

もう、その姿が・・男をダメにする。


「ルーナ、愛している!!」

俺はもう感情が大爆発だ。立ち上げり抱き締めると、何度も何度も「愛している」といい、その度、ルーナも「はい、私もです」と答えてくれた。


温室のドアが開き、トーニオが次の行程に急げと口パクで言う。

そうだった。

あのカファロ家の親父が、教会に駆け込み『娘を屋敷に返せ』と訴えでもしたら、まだ婚姻届けを出していない俺は負ける。

次は婚姻届けにサインだ!


もう、一瞬でもあの屋敷にルーナを帰らせたくはない。

でも、カファロ家の縞模様の顔を思い出すと、教会になど行けないのは明らかだ。


しかし、人生に絶対はない。

俺はルーナを抱き上げると、父の待つ部屋へ急いだ。


前を走るトーニオが、「ここ迄来て聞くのは野暮なんですが、プロポーズは成功したんですよね?」と尋ねる。


「当たり前だ。プロポーズの余韻に浸りたかったが、サインが先だ」


俺は走りながらルーナにもう一度確かめるように尋ねた。

「今から婚姻届けにサインをしてもらうが、サインしたら後には引けないよ。大丈夫?」


「ええ、私は随分前からアレクの妻になりたかったんですもの・・」


「つま・・・。そうだサインしたら俺の妻になるんだ・・。トーニオ、急げ!!」

俺はスピードを上げる、トーニオを追い抜いた。



「ちょっと、アレクシス殿下!! そんなに急いでも、婚姻届は逃げませんよ!!」

トーニオの呆れた声が、後ろから聞こえるが、そんなことは分かっている。心が急くのだ。


俺がルーナを抱きかかえたまま、陛下の部屋にノックもそこそこに入ると、大層驚かれた。


「冷静なアレクシスが、人間らしく行動するのは、ルーナ嬢絡みの時だけだな」

陛下が笑う。横にいるダニエルも同意した。


「そうなんです。兄上が出来すぎていて近寄りがたい時もありますが、ルーナ様と一緒にいらっしゃる兄上は、気軽にお話出来るんです」


近寄りがたい? 俺が?

うーん?

いや、今はそんな事は後回しだった。

「陛下、ルーナが私との婚姻を受け入れてくれました。なので、婚姻届けにサインをさせて下さい」


陛下はそれを聞くと相好を崩す。

「おお、そうか。アレクシス、ルーナおめでとう。これでルーナも漸く私達の家族だな」


国王が一枚の用紙を俺とルーナの前に置く。

薄いピンク色の婚姻届の四隅には、バラのつぼみが描かれている。


既に保証人の欄には、国王の名前、『ランフランコ・オルランド』と書かれていた。


まず、俺の名前を書く

『アレクシス・オルランド』


そして、次にルーナの番だ。

『ルーナ・カファロ』


ルーナが書き終えた瞬間、婚姻届けの四隅のバラが花開いた。


「良かった。ちゃんと4つ全て咲いたな」

俺は前の婚姻届のバラを思い出し、密かに緊張していたが、美しく花が開いたので安堵した。


以前これにサインしたときは、四隅のバラは全て真っ茶色に変化して、つぼみのまま枯れたのだ。

それは、愛の女神であるフウト神に祝福されていないとされ、婚姻は考え直すものだが、俺は紙切れ1枚に踊らされてなるものか!と周囲の反対を無視し、ごり押した。

結果はご存知の通りだったが・・・。


だが、今回は本当に真っ赤なバラが咲き誇っていて、しかも瑞々しく輝いているのだ。


その婚姻届をトーニオが確認すると、「アレクシス殿下、ルーナ様、いついつまでもお幸せに」と一言言って、教会に届けに行ってくれた。


それを見届けた陛下が、ルーナに労いの言葉をかける。

「ルーナ嬢、今日は長い1日だったね。君は家族との決別があり、そしてアレクシスとの結婚。本当にお疲れさま。今日は疲れただろうから、アレクシスの隣の部屋を用意している。ゆっくりしてくれ」


「お気遣い、ありがとうございます。本当に今日は色々とありますたが、最後にこのように嬉しいことが待っていたなんて、嬉しい限りですわ」


ふわりと微笑む。


「陛下、ルーナを休ませたいので、失礼します」

俺は、ルーナを少しでも早く休ませたいという思いと、早く2人っきりになりたいという願望で、陛下の御前を辞した。

部屋を出る前、陛下が一言。

「アレクシス、分かっていると思うが本日、書類上では夫婦となっているが、結婚式はそなた達が卒業後頃を見て、挙式をしようと考えている」


「はい、時期はおいおい、ご相談させていただきます」


扉を閉めると再びルーナを抱き上げ、急ぎ足でルーナの部屋へ向かう。


全くの余談ですが・・・

蛇も、種類によっては共食いをするそうです・・。

カファロ家の屋敷にエサがなくなれば・・・。


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