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31 自業自得


花火の光は途中で消える事なく、地上に降り注ぎ、海草もどきに締め付けられ、傷ついた貴族達の体を癒した。

その光に触れた途端、なんとも言えない優しい温もりに包まれ、今回海草もどきに巻かれた者達だけ、そのまま気を失っていく。

その際、多くの者が、気を失う前に「ルーナ様、ありがとうございます」や「ごめんなさい・・」と言って失神。


石つぶて攻撃からの、優しい癒し。

まさに、アメとムチ。


ルーナが守っていた後方の貴族達からは、美しい花火とそれにルーナの圧巻の強さに、感銘の拍手が沸き起こった。


気を失った貴族達は、それぞれの使用人によって運ばれての帰宅。

後方の貴族達は、「良いものを見たね」と感動をしながら帰って行った。


残っているのは、壇上のカファロ家の3人だ。


俺はルーナに手を伸ばす。

ルーナはその手を握りしめ、唇を噛み締めながら3人がいる壇上に上がった。


赤色と黒色の縞模様になった、オデット。だが、それは彼女だけではなかった。カファロ伯爵とイレーヌ夫人の皮膚も2色の赤と黒の縞模様になっている。


ルーナが傍に来ると、3人はほっとしていた。

そして、驚く言葉を吐いたのだ。


「おい、早く私達の肌を治せ。そうしたら、オデットにした事を許してやろう」

カファロ伯爵は、横柄にルーナに命令した。

全く反省をしていないその態度に、俺は驚く。

だが、こうなることをルーナは承知していたのか、微動だにせず彼らの言うことを聞いている。


「もう、早く治しなさいよ。このクズ。あんたが私に変な魔力を込めた魔石を渡すからこんな事になったんだからね!!」

オデットは握りしめていた魔石を、ルーナに向かって投げつける。

しかし、ルーナは動かない。


「この役立たず!!育ててもらった恩も忘れて、私の娘にこんな事をするなんて。とにかく、家に帰って来なさい。でも、今までと同じように暮らせるとは思わないことね」


ルーナは何も言わず、ただ黙って喚き続ける3人を眺めていた。


あまりの言い分に、俺が言い掛けた時、ルーナが首を振る。


そして、ガミガミと尚も煩い3人に、穏やかに話しだした。


「今まで、あの屋敷で私がどんなに謝罪しても、聞いてはもらえなかった。どんなに頼んでもその希望が叶うことはなかった。私の声があなた方に届かなかったように、あなた方の声も、もう、私には届きません。ですから、お別れです」


3人はルーナが何を言っているのか分からなかったが、理解した途端、ルーナに掴みかかろうとする。


俺は剣で3人の動きを止めた。


「ちょっと待ってください。アレクシス殿下。このままだと、私達はこの肌のままです。せめてルーナに治療をするように言って下さい!!」

カファロ伯爵はひれ伏して、頼んできた。

「断る。おまえ達が今までルーナにしてきた事を思えば、当然の報いだ。諦めろ」とすげなく手を払う。


だが、イレーヌ夫人は諦めない。そりゃそうだろう。顔も全て縞模様なのだから、必死だった。


「待ってください。その娘はまだ未成年です。私達が望めば屋敷に戻さねばなりませんよね?」


3人の顔がパァーッと明るくなる。

そして、勝ち誇った顔で、オデットが言い放つ。

「うふふ、お姉さま。お母さまがお姉さまをしっかりと躾し直して下さるわ。あはははは」


大口開けて笑うオデットの舌先が、異様な形になっている。

舌の先が2つに分かれているのだ。まるで蛇みたいに。


だが、浮かれた3人は気が付かない。

「ああ、そうだった。父親の私が言えば、ルーナは家に戻せるんだったな!!」


ここで、壇上の後ろで成り行きを見ていた国王陛下が一言。


「このまま2人は結婚させる。結婚の承認はどちらかの保護者のサインで事が足りる年齢に達している。そして、結婚したものは成年と見なされ、親の保護責任なく行動は自由になる。少し早いが大丈夫だろう」


そうだ、忘れていたが3日前ルーナの誕生日だった。

流石、我が父。

なんて絶妙なタイミングで切り札を使うのだ。


国王の一言で、カファロ家の3人は、絶望の顔で立ち尽くしている。

もう、社交界で会うことはないだろう。なんせ、仮面舞踏会でも隠しきれない縞模様だ。


国王の提案に、俺はルーナに向き合い、「この場では言いたくないので、後で聞いて欲しい。良いだろうか?」と震える声で頼んだ。


聞いて欲しい言葉。

勿論プロポーズだ。


先に父親に促された形になったのは悔しいが、男としてそこははっきりと告白したい。


「はい。是非お聞かせください」


ルーナが俯きながらも答えた。


よし、この場はさっさとお開きにして王宮の庭園で? いや、海沿いの離宮で? いや、プロポーズはやはりあの場所で・・


「おい、アレクシス。帰るぞ」


俺が考えている間に、国王はいつの間にか「娘ができた」とルーナをエスコートしてさっさと馬車に向かって歩きだしている。


弟ダニエルも、「お姉様とお呼びしても良いですか?」とはしゃいでいた。


その後を追おうとすると、後ろから切羽詰まった声が、俺を呼び止めた。


「私達に馬車を用意してください。このままでは、屋敷に帰れません」


『チッ』その声に舌打ちしてしまう。

「大通りに出て、馬車を拾え!」

俺は、縞模様3人組に止まってくれる馬車がない事は、十分に分かっていながらも言ってやった。

さらに、追撃の一言。

「馬車が無理なら、歩いて帰ることだ」


「こんな顔で、街を歩けないわ」

叫ぶオデットとイレーヌ夫人を無視して、俺はさっさとルーナの後を追った。

カファロ家に構っている暇はない。

今から、俺はルーナにぷろぽ・・・

・・・言えるかな?

ちゃんと言えるかな?


噛まずに言えるかな?


こんなに急に言う事になるなんて思わなかったから・・。

ああ、台詞も考えないと。


俺の頭はもうプロポーズの台詞の事で一杯だったので、カファロ家がどうやって屋敷に帰ったとか頭から抜けていた。


聞くところによると、あの後3人は顔を隠すように街を歩いて帰ったのだが、隠しきれるものではなかった。

しかも、3人は今回張り切って物凄いドレスや衣装を着てきたのだ。

その衣装で街を歩いて帰るなんて、目立って仕方ない上に、こそこそ顔を隠して歩いているのだ。


下を向きすぎて、通行人に当たってひっくり返った時にオデットの顔が露になった。


「ひえー!! バ、バケモノ!!」

「ギャー・・助けて!!」


街はちょっとしたパニックになったらしい。


その後帰り着いた屋敷では、彼らの姿を見た使用人が怖がって、蜂の巣をつついたように大騒ぎして、全員飛び出して辞めていったと聞く。


カファロ家に恩義を感じて残った者は、誰一人としていなかった。

まあ、今までの行いの報いだな。自業自得だ。


その後、彼らには罪状が言い渡されたが、盗まれた石だと知らずに使っていただけなので、重い罪にはならなかった。

1ヶ月の自宅謹慎。だが、自宅謹慎を終えても、彼らが屋敷を出ることはない。


カファロ家のために心優しいルーナは、近所の店に頼んでパンを屋敷前に届けさせていたが、いつしかパンが放置されたままになっていた。


恐る恐るパン屋の店員が屋敷の中に入ったが、誰もいなかったらしい。

きっと夜逃げをしたのだろう。


その後、その屋敷に人が近付くことはなくなり、有名なお化け屋敷と化してした。


ある時、数人の若者が度胸試しと言って夜に忍び込んだのだが、やはり誰もいなかった。

いたのは、毒々しい赤と黒の縞模様の蛇が3匹いたと聞くが、まさかな・・・。


カファロ家の3人はどこに行ったのだろうか・・・。


行方不明となり、数ヵ月後、捜索は打ち切られたのだった。


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