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22 ルーナの嫉妬


数週間前、俺達はオルランド王国に帰ってきた。


学園は夏休みってこともあり、隣国でゆっくり観光しながらの帰国だ。


エティエンヌもベアトリクス嬢と距離を詰めるために、わざわざ隣国まで付いてきた。

そして、色気ゼロの騎士見習いのベアトリクスと、なんとデートをしたと言うから驚いた。


化粧っ気など皆無なベアトリクスが口紅を付けて、更にスカートを着用してのデートだったと聞いた。


世の中の天変地異が起ころうと、彼女にそんな恋愛的要素が入った日がくるなんて、思いしもしなかった。


想像するだけで違和感ある光景に、後日、ついベアトリクスに尋ねてみた。

「ベアトリクス嬢もスカートなんぞ、はいたりするんだな?」


「ああ、もちろんだ。可愛い服を来て欲しいとエティエンヌ王子のご要望だったし、それが約束だからな。だからスカートをはいたのだ」とベアトリクスが不思議なことを言い出した。

「約束とは?」


「エティエンヌ王子は、『私は貴女のやりたい事は、全て叶えたいし応援する。だからこのモランルーセルに来てくれないか』と言ってくれたのだ。私のやりたい事は、もちろん各国の美少女コレクションを造る事だ。全ての国で『美少女』『美女』『美魔女』のコレクション本を造り、世界制覇をしたい。だから、すぐにOKしたわ。スカート姿を見たいと呟いたから、お安いご用だと、はいたのだ」


「・・・やはりな。そういう事か・・。しかし、今のままではさすがにエティエンヌが可哀想だ。ベアトリクス・・君ってやつは・・」

俺は、別れる時に何も知らず笑っていたエティエンヌを思い出し、同情した。

絶対に告白して了承されたと思っているだろう?


やはり、しっかり話すって大事なのだなと思ってしまった。少しの言葉の行き違いで、大変な事になるんだから。

大きなお世話だと思ったが、不憫なエティエンヌの為に、ベアトリクスに一言教えてやった。


「エティエンヌ王子がベアトリクス嬢に向ける好意は、友人的な物ではないぞ。恋愛対象に向けるものだと思う」


「え? ・・うそ・・?」


やはり、ベアトリクスには全く届いてなかったみたいだ。

やはり、伝えるって難しいし、だから大事なんだな。

しみじみ思った。


まあ、俺も自分の前世を話して、ルーナに受け入れて貰える日がくるなんて、思ってもみなかったから、なかなか話せずにいたんだが。



◇□ ◇□

帰国すると、モランルーセル王国の現状と今後の課題、そしてつぶさに見てきた兵力などを分析した。

実際に今は友好国として付き合っていくが、いつ何が起こるか分からないからな。

その報告書が終わると次は、王宮の仕事に取りかかる。


いきなり、モランルーセル王国に行った事で、帰国後、増え続けた仕事を片付けるのに精一杯で、暫くの間全くルーナに会えていない。


山積みにされた書類を更に追加された時、扉がノック音が響いた。

ルーナか? と期待し返事をすると弟のダニエルが、暗い表情で入ってきた。


「どうした? 何かあったのか?」


言おうか迷っているようだったが、急に顔をあげて話し出した。

「兄上!! 帰国後の忙しい中すみません。お耳に入れたいことがあります」


「改まって、なんだ? 相談事か?」


「いいえ、僕のではなくて・・まあ、相談です・・。そのルーナ様の事です。実はオデットが毎日ルーナ様に嫌がらせをしているようなのです」


「はあ? そんな訳ないだろう?」

夏休みとはいえ、あんなくそ家族の側にルーナを置いておけないと、ルーナには夏休みも王宮で妃殿下としての勉強をするという名目で、帰らせていない。

なのに、どうやったらオデットが嫌がらせなんて出きるんだ?


「これは忙しい兄上に『知らせないで』とルーナ様に言われてたのですが、日に日に(やつ)れていくルーナ様が心配で、勝手に僕が話にきたんです。今もオデットが来ていて・・」


ルーナが窶れる? しかもオデットが来ている?

「よく知らせてくれた、ダニエル。感謝するぞ!!」

礼をいうと、ダニエルはほっとしたようだった。


オデットは両親の手紙を渡すという名目と、娘の様子を知りたいと願う親の意向で、姉の様子を見に来たと言えば、誰も止められないのを知っていた。

親権者の強みを出し、義妹に攻撃させる毒親と分かっているが、簡単に退けられないのが頭の痛いところだ。

ルーナはまだカファロ家の保護下なのだ。


こればかりはどうしようもない事だと、一人で耐えようとしたルーナ。

だから、ルーナは俺を心配させまいとダニエルにも口止めをしていた。


そんなルーナを見兼たダニエルは俺に連絡をしてくれたのだ。


俺はこれからも、何かあったら教えて欲しいと頼み、すぐに王宮内のルーナの部屋に行った。


扉の前には聞き耳を立てているトーニオが既にスタンバっている。

仕事が速いトーニオはもう、情報を掴んでここで待機していたのか。


いや、ちょっと待て、トーニオ。

貴様、ここのところ俺の書類地獄から逃れて、どこにいるのだ? と思っていたら、ここで時間潰しをしていたんだな?


俺の無言の圧力を屁とも思わないトーニオが、口に人差し指を縦に当てて『シー』とする。


そして、口パクで『オデットが中にいる』と告げる。


はああ?

じゃあ、すぐにでも中のルーナを助けに行けよ!!

怒鳴りたくなる気持ちを抑え、俺はトーニオが止めるのも聞かず、ガンガンとノックをした。


中からの返事がなかったが、すぐに開ける。

そこには、青い顔で座って項垂れるルーナに、顔を蒸気させて何やら力説しているオデット。


苛立ちを抑え、「オデット嬢、今日はルーナに会いに来ていたのだな。急ですまないが、急遽ルーナに用事が出来たのだ。だからこの辺りでお引き取り頂きたい」

表面上は微笑んでいるが、すぐに帰れと言葉に圧力をかけた。


証拠はないが、オデットにはバデウースを(そそのか)してルーナを害そうとした疑いが少なからずある。

ルーナの傍にいると、また何を企むか分かったもんじゃない。



「まあ、お姉さまったらそれでは仕方ないわね。今日のところは帰るからじっくりと考えておいてね。それと・・」

ルーナに何を言ったのだ?

すぐに首を締め上げてでも白状させたいが、こいつはしらばっくれるだろう。

しかも、まだ話したいのか部屋から出ようとしない。


これ以上くだらない話しを聞かされるなら、顔色が悪いルーナをここから連れ出す方が先決だ。


ルーナの体を下から掬い上げるように持ち上げ、びっくりするルーナにお構い無しでそのまま俺の執務室に連れていった。


まあ、オデットも驚いていたがな。



執務室のソファーにルーナを下ろすと、事情を尋ねた。


「オデットが最近ルーナに会いによく訪れているようだが、何をしに来ているのだ?」


「夏休みの間、両親が一度でもいいから帰って来いと言っているのです」

ああ、厄介な毒親だ。

なまじ親権があるだけに、無碍に出来ない。

かと言ってルーナをあの実家に帰すなんて無理だ。


「妃殿下教育が忙しい故、こちらに来て貰うように手配しよう。それと、オデットに他には何を言われていたのだ?」


「えっと、それだけです」

「本当に?」

「・・・本当です」


ルーナは嘘をついている。

さっきから下を向いてばかりで、こちらを見ない。


仕方ない。

俺はルーナの顎を人差し指でゆっくりとあげる。

そして、鼻と鼻が付きそうになるまで顔を近付けてもう一度同じ質問をした。


「オデットに何を言われた?」


ルーナの瞳がくるくると回りだし。あわわわと焦って口をパクパクとさせている。

もう一押しかな?


今度は、唇が耳に付くように囁いた。

「で? オデットは?」


「はわわわわ、あの・・・あの・・アレクシス殿下を譲れと・・・」


ああ、言いそうだ。

「きっとそれに加えて、自分の方が相応しいなんて、御託を並べていたのだろう。なぜ、俺に助けを求めに来てくれなかったんだ?」


俺はそれが悔しかった。


「モランルーセル国の報告や、オルランド国の法律を改正案を纏めているとお聞きしていたので、お忙しいと思い・・」


ため息が出た。

「俺は、忙しくてもルーナの事ならば、大丈夫だ。俺はそんなにも頼り無いか?」


俺のがっくりと肩を落とす様子に、ルーナが大きく頭を振る。


「ごめんなさい。そうではなくて、アレクシス殿下に言えなかったのは、私の嫉妬と不安からです」


その真意が分からず、俺は顔を顰めてしまう。


「前の世では、アレクシス様はオデットを選んだと仰っていたので、今度もお会いしている内に、その気になってしまうのではと不安になったのです。だから自分で解決しようと・・・ごめんなさい」


か可愛い・・から許す。

しかも、嫉妬って。


「分かった・・・いや、分かってないから! だから、俺の気持ちはルーナだけなんだって。絶対に気持ちは変わらないから!」

嫉妬なんて悪い芽は、すぐに刈り取って除草剤撒いて徹底的になくしておこう。

嫉妬させて、ルーナが悲しむなんて、絶対にあってはならん!!


「オデットが来ても、そもそも会えないように、余暇な時間をなくそう。今日から妃殿下教育の時間を朝から晩まで、食事の時間以外ないようにする。ルーナ、厳しいと思うが耐えてくれ」

俺の厳しい顔に、ルーナもキリリと凛々しい顔で頷く。


「勿論です。寝る時間を削ってでもお受けします!」


真剣な顔のルーナも愛おしい。


「・・寝る時はしっかり寝てね。それと、俺はやり直せたが、オデットはこのままじゃ、再び転落人生だ。だから、一度だけルーナと仲良くしてくれるように、説得しようと思っている」


ルーナの不安を取り除くように、俺はもう一度自分の気持を口にした。


「嫉妬しないでね。会うのは一度で、ルーナと仲良くして欲しいって説得するだけだからね」


ちょっと安心してくれた?

まだ完全には無理そうだが、ルーナに内緒で会うのはダメだと、クズの俺でも分かった。


本当はオデットと話なんてしたくない。でも、俺だけやり直しが出来てアイツ(オデット)が転落していくのは、神様に贔屓されたのが俺だけって、なぜか不公平な気がしたんだ。


だから、一度しっかり話してアイツにも真っ当に生きて欲しい。

で、俺以外の奴と結婚して、オデットなりの幸せを掴んで欲しいと思った。そうすれば、ルーナも安全だし・・。



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