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21 俺の意地が悪いのは元々だ


バデウースの処分は、モランルーセル王国の刑法によって判決が出された。


国の第一王子とはいえ、自国民が飲み水として使う湖に腐澱魔草(スタピアノーザ)を入れるなど許されない。

更に、その湖を浄化するために来た聖女を私利私欲のために危害を加えるとは、言語道断。


で、極刑が言い渡された。

ルーナのことがなくても、どこの国でも、飲み水となる水源に毒を流す行為は死刑か、無期懲役だ。


それに奴の事は、日頃の傍若無人な行いで余罪も多く、誰も悲しむ者はいなかった。

更に、上記の計画を企てたクジヌーも同罪である。


ここで、二人の会話でもう一人、疑惑の人物がいた。


それは、裁判で二人が連れて来られた時に交わした罵り合った会話で浮かび上がったのだ。


腐澱魔草(スタピアノーザ)を仕入れた証拠の手紙を焼いておけと言っただろう!! このバカが!!」

と、既に主人に対する口の利き方ではなくなったクジヌーが、バデウースを罵倒する。


「誰に向かって言っているのだ!! それにおで(・・)はちゃんと女のからの手紙は焼いて捨てたぞ!!」

バデウースが反論するが、実際には証拠の手紙は焼かれることなく、きちんとバデウースの書斎の机に仕舞われていた。


つまり、他の手紙を焼いていたことになるのだ。それは最後の詰めをバデウースに任せたクジヌーのヘマだった訳だが、そのお陰でバデウースの犯行だと裏付けられたのだから、こちらとしては良かった。


だが、この会話のバデウースの一言『女からの手紙』を追求したところ、誰から届けられたかは知らないが、『聖女を貴方の物にしてしまえば、その威光を盾に貴方は何をしても許される存在になる』と書かれていたというのだ。

手紙には名前もないし、実際に男か女かは分からないが、女らしい文だったとバデウースが自供している。


それを聞き、すぐにバデウースの部屋の暖炉を調べたが、灰になっていた。

しかし、一文字『K』だけ燃えカスとなって残っていたのだが、その文字は見覚えがあった。


その『K』の文字は、『レ』の文字に斜めの棒『ヽ』を書き足す方法で書かれた、特徴ある文字だった。

その書き方をする人物に心当たりが俺にはあった。


それはオデットだ。筆跡を鑑定しても、たった一文字だけでは、何の証拠にもならない。しかも、それがオデットの文字だったとして、「ただの挨拶文を送った」と言われればそれまでだ。


悔しいがオデットの関与は疑わしいが、追求することは出来ず、諦めるしかなかった。



一方、エティエンヌは実の兄が仕出かした後始末に追われていた。

悲しみはあったのかも知れないが、ベアトリクスがそばに居て常に励ましていたお陰で、気落ちしている様子はなかった。

寧ろ、張り切っていた。


「うーん、ベアトリクスがあんなに親身になっているのは、どういった変化が起きたのだ?」


「エティエンヌ殿下が、告白されたのですわ。そして、ベアトリクス様もその気になったと聞いています」


へー・・。

ベアトリクスがあんなに張り切ってエティエンヌの隣にいるなんて、不思議だった。

しかも変人だと思っていたのだが、俺以外の所では常識人に見える。


まあ、ルーナにベッタリだと俺の入る隙もなかっただけに、都合がいい。

アイツはあのままここに置いて帰った方がいいんじゃないか?

帰れば再び、ルーナに執着しそうだし。



湖の浄化も終わり、俺たちは帰国の準備をし、明日にはここを離れる。

エティエンヌがお礼の宴を催すと言ってくれたので、ルーナと二人で快く出席させてもらうことにした。


「ルーナ、用意は出来たか?」

俺が迎えに行くと、モランルーセル王国の青い民族衣裳を身に付けたルーナが出てきた。

体にフィットしたフォルムは、ルーナの美しい体のラインを浮き彫りにしている。


ドレス姿も美しいが、この衣装も美しかった。

感想も言えない程に見惚れる俺。

「何か仰って下さい」

ルーナに促され、漸く出たのが・・

「きれいだ・・」

だった。


トーニオが相変わらずの俺のポンコツぶりに、後ろでため息をついている。


両想いとは言え、ルーナの美しさは毎回俺の予想を遥かに上回り、毎回声も出せないほどに驚くんだよ。




宴はモランルーセルの郷土料理の数々がならび、民族舞踊も披露された。


前世では酒好きだったが、現在学生の身なので、飲めなかったのが残念だ。

民族衣装を着た女性が一緒に踊ろうと、ルーナを誘いにやってきた。

ルーナも恥ずかしそうにしていたが、その輪に入って踊り出す。


振り付けをすぐに覚え、楽しそうに踊り笑うルーナ。

可愛い。うん、ただただ、可愛い。


俺の目尻が駄々下がりの時に、エティエンヌが話しかけた。


「あの時は聖女様に触れ、誠に申し訳ございませんでした」


あの時?

俺の中ではもうとっくに解決していたので、何の事か分からなかったがエティエンヌの神妙な態度で理解した。


「ああ、あの時の事か。あれは既にルーナに詳細を聞いているぞ」


「しかし、私からまだ一度もアレクシス殿下に嫌な想いをさせてしまった謝罪をしていなかったので・・」


「ああ、謝罪など不要だ。俺の方こそ、バランスを崩したルーナを支えてもらったお礼を言っていなかった」


俺が頭を下げるとエティエンヌは動揺したようで、手を横にぶんぶん振る。

そして、俺に聞きたかった本題をぶちこんできた。


「所で、どうしても聞きたかった事があるのですが、宜しいでしょうか?」



「俺に答えられることなら、どうぞ」

なんだ?

法律の事か?それとも事業のことか?


「あの時にどうしてアレクシス殿下は聖女様を私の元に残し、去ったのですか?」


ぐっっっ。

その事かぁぁぁぁ。

言い辛い事を聞くじゃないか。


「・・・笑ってたからだ」

くそっ。俺の黒歴史をほじくり出してくるな。

出きるだけ素っ気なく答えた。

これだけ、聞かれたくないオーラ出しているのだ。じゃあどうすればいいか分かるだろ?


「えーっと・・・それはどういう意味ですか?」


俺のオーラ、全然伝わらなかったーー!!


「エティエンヌ殿下といて幸せならば、俺はすぐに身を引く覚悟でいたんだ。俺はルーナが幸せなら、なんだっていいって思ってたのだ。だから、笑っているルーナがあまりにも幸せそうに見えたから、去った・・それだけだ」


「私と聖女様が・・?ええええーーーもう誤解解けてますよね?何も無かったって聖女様からお聞きしていますか?」

エティエンヌの驚きようで、本当に彼自信もルーナの事を何も思っていないのだと安心した。


「それは、ルーナ様が他の方を望まれたなら、すぐに手放すつもりでいたって事ですよね?」

エティエンヌは尚もしつこく聞いてくる。


「ああ。そうだ。はっきりルーナの気持ちを聞いたことがなかったからな。でも、もう違う。ルーナの気持ちを聞いた故、これからは放さないが・・」


今もルーナは嬉しそうに、民族舞踊の振り付けを完璧にマスターして、笑いながら舞っていた。

こちらをチラッとみて更に嬉しそうに・・。

「ルーナが笑っていられる場所を、俺の傍(・・・)で作ると決心したんだ」


「なる程、お互いの気持ちを知るって大事ですよね。」

なんだか俺の話より、自分の事を聞いてほしそうだな。

「ベアトリクスの事か?」


一応、話を振ってやる。

と、すぐに食い付いた。


「え?わかりました?私って顔に出るのでしょうか?あの、ベアトリクス嬢が私の事を何か言ってたりしてるのを、聞いた事はありませんか?」


俺にあれほど恥ずかしい話をさせといて、ベアトリクスの事を聞きたかっただけとは・・・それはいかんぞエティエンヌ。


「そうだな、ベアトリクス嬢の頭の中は、将来の希望職種である護衛騎士の事だけだろう。そういえば、エティエンヌ殿下の事は何か言っていたかな・・?」

エティエンヌは、自分についてベアトリクスが興味を持っているのかと、期待を膨らませて俺の話の続きを待っている。

だが、俺に勘違いさせて恥ずかしい話をさせた返礼をさせて貰うぞ。


「ないな!!エティエンヌ殿下の『エテ』すら聞いた事はないな。いやいや、『エテ公』なら言ってたな・・」


がっかり落ち込むエティエンヌに、俺の意地悪い微笑みが漏れた。


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