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20 告白と自白


ルーナの部屋に入り、侍女を呼んで、バデウースに触られたのをそのままにしておきたくなくて、侍女に風呂の用意をさせようとした。

だが、ルーナが珍しく「殿下はここに来てください」と強い口調でベッドをさす。


え? ベッド?


「ここに横になって下さい、すぐに治療をします」


ああ、そういうことか。

俺は自分の見事な勘違いを隠すように、顔を背けてベッドに上半身を起こして、ぶっきらぼうに足を投げ出した。


ルーナは何も言わず、一心に俺の傷を治療し始める。

が、ポロポロと涙を流し出した。


「ど、どうした? どこか痛いのか?」

俺の治療なんて後回しだ。

それよりもルーナの方を、先に治療をしなければ。


そう思ったのだが、ルーナは頭を横に振り、否定した。

「どこも痛くありません。悲しくて・・」


ああ、それはそうだろう。

わざわざ助けに来たこの地で、あのような目に遭わされるなんて・・・。

「そうだな。それに関しては俺も反省している。目を離したばかりにルーナにあのような恐ろしい思いをさせてしまった」


「・・・そうではありません。私が悲しいのは・・・もうアレクシス殿下に見限られてしまったからです・・・」

項垂れたルーナから、シーツの上に涙がポタポタと落ちている。


俺が見限る?

ルーナを?


「どういう事だ? 俺がいつルーナを見限ったと言うのだ?」

本当に分からない。

俺はベッドから足を下ろし、ルーナと向き合うように座った。


俺はいつも一番にルーナの事を考えているし・・、いやそもそも、ルーナの事しか考えていない。


「だって、私がエティエンヌ殿下と近付き過ぎてしまった時、避けるようにどこかに行かれてしまったではないですか?」


「あっ・・あれは・・ルーナとエティエンヌがあまりにも嬉しそうに話し合っていたから・・・。だから、きっと二人はその・・・お互いに想いが通じたのだと・・・」


俺の言葉が言い終わると、いつもよりはっきりとした口調でルーナが答えた。

「そんな訳ないです。私が他の方に想いを向けるなんて!! 私が好きなのは・・アレクシス様だけです」

あまりの勢いに、俺は押される。


この体勢って、俺が押し倒されてるの?

んん? いや、体勢のことじゃなくて、ルーナは何て言った?


「俺の事がすき?・・俺をす・・き・・?」

いやいやいやいや・・・。

「え?え?え??ありえないだろう?え?いつから???」


頭の中がパニックになると言葉が出てこなくなる。

聞きたい事は山程あるのに、『え?』しか出ない。


「私は婚約者に選ばれる前から好きだったんです。だから、アレクシス様のお側に居られるようになって、本当に嬉しくて・・・でも、アレクシス様はいつも一定以上の距離を保ったまましか接してくれなくて・・・」


いつものルーナとは思えないほどに、近くて・・。しかもベッドに乗り上げたことで、未だに着替えていないルーナの裂かれたドレスから、白い足が見えている。


意識をそっちに向けないように頑張る俺。

「じゃあ・・、あの時エティエンヌと抱き合っていたのは?」


「あれは、エティエンヌ殿下に好きな方がいるとお話を聞いて、少し驚いた拍子に私の体勢が崩れて、それを抱き止めてくださったエティエンヌ殿下の服のボタンに、私の髪が絡まってしまって、動けなかったのです」


「そ、そうだったのか・・・」

な・・なんだ・・そういう事だったのか・・。

俺はすっかり勘違いをしていた。

俺は分かったらなんか、気が抜けてしまった。


「うん? 所でエティエンヌの好きな女って誰なんだ?」

ルーナじゃないなら、他にいたっけ?


「それは私の護衛の・・」

ルーナが言い掛けて俺は心当たりを叫んだ。

「マリーか?!! 絶対にマリーはダメだ」


だって、アイツは・・


「なぜ、マリーはダメなのですか?

そんなにマリーを他にやりたくないのですか?」


ルーナが何に怒っているのかわからんが、ドレスの裂け目からさらに上まで太ももが見えるんだが・・。しかも、胸元も・・。


「マリーは、本名はマリーではない。マリーノだ。アイツは男だ。しかもああ見えて、好きな女もいる」


「え?」

ルーナが力なくペタンとベッドの上に正座した。

「ああ・・、マリーは男・・・でしたの・・・私はてっきり・・」


俺は起き上がり、ルーナの顔を覗き込んだ。

「うん? どうした?」

心配になるほど、今日はルーナの感情の起伏が激しい。

「所で、エティエンヌの好きな女ってのは誰だ?」


「ベアトリクス様です」

その予想外の答えに俺の声も裏返る。

「べべべベアトリクス????」


あの護衛キチガイを好きになるヤツなんているのだろうかと思っていたが、まさかエティエンヌが・・・?

人生変わると相手も変わるのだろうか?


「ええ、エティエンヌ殿下はずっと以前、隣国を訪問中にベアトリクスを見かけ、その凛々しいお姿に一目惚れをなさったようです」


はあ・・・。

あんなに気の強いご令嬢に一目惚れするなんて・・・。

俺のこれまでの努力はなんだったのだろう。

しかも、ずっとベアトリクス一筋って・・。

俺が全身の気力が、毛穴から放出されていくのを感じた。


だが、ここで話は終わりではなかった。

ルーナが更に俺に寄ってきて、シャツを貸した為に上半身裸の俺の胸に直接触れてきた。

真っ赤な顔をして・・。


「ま、まだ話は終わっていません。私の告白に対して、アレクシス様のお答えを頂いておりません」

必死な様子に心を打たれた。


俺は彼女の前に座り直した。


「・・俺も、ルーナが好きだ。」

その返事にルーナの顔が綻ぶ。

言ってから、やっと自分の気持ちに蓋をしていたんだと、分かった。

長く水中にいて、僅かな空気を吸っていたが、やっと地上に出て、息を吸ったって感じだった。

だが、まだだ。


「でも、俺の話を聞いてから、もう一度本当に俺でいいのか、考えて欲しい」

そうだ、このまま黙ったままで、ルーナの横に立つと言うのは調子が良すぎる。

ルーナは俺の本当の姿を知らないで、告白をしてくれた。

しかし、本当の姿を知れば嫌うかも知れない。

意を決して話始めた。

クズ王子の話を・・。


「信じてもらえないが、俺は今、二度目の人生を生きているんだ。前の俺は本当に酷い奴で婚約者だったルーナを蔑ろにして、オデットを選んだ・・・そして・・」


俺は詳しく自分のくずっぷりを話した。

どんなに俺がダメな男かも・・・。


バカにされるかと思ったが、ルーナは真剣に聞いてくれた。

そして・・、

ルーナの答えが出るまで、俺は被告人のようにじっと判決が言い渡されるのを待っていた。


「その話が本当でしたら、殿下は必死に生き直したのですよね? しかも学問も武道も誰にも負けないくらいの努力をなさっています。そして、今世では私を助けてくださいました。前世のアレクシス様を、私は知りません。私が知っているのは努力をし続けるアレクシス様ですもの。例え話を聞かされても、先程言った私の気持ちが変わる訳がございません」

言い終わると、ルーナは俺の顔を覗き込むようにもう一度、自分の気持ちを確かめるように言う。


「私は、アレクシス様が好きです」


気が付いた時には、俺はルーナを抱き締めていた。


「俺もルーナが好きだ。ずっと好きだった。でも、君を幸せにするのはエティエンヌしかいないと思っていた。だから、自分の気持ちに蓋をしていたんだ。エティエンヌに渡さなくていいのなら、俺が幸せにしたい。放したくない」


「はい、宜しくお願いします」


ルーナの唇の動きが、俺の地肌に伝わる。


目をしたにやれば、艶かしいルーナの足。


両想いになって自重していた想いと、蓋をしなくて良くなった俺の理性が、かたかたと音を立てて外れようとしていた。


我慢できない


「ルー・・」

「ルーナ様!!!!」

部屋に凸してきたのはベアトリクスだ。


「ああ、ルーナ様、そんな野蛮な男の地肌に触れるなど、お肌がかぶれてしまいますわ!!」


俺の肌は漆なのか?

山芋か?


くそ、いいところで!!


ベアトリクスは長いローブをルーナに肩から掛けてごそごそ。


そして、俺のシャツをペッとその辺に放り投げた。

まるで汚いものみたいに。


「おほほ、それではルーナ様、お着替えに行きましょうね」


ルーナも言われるままに部屋を出ていってしまった。


残された俺・・。

ポツン

と言う表記がぴったりだった。



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