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「どういう事だ?! 消えたとは? どこで見失ったのだ?」


俺の質問にマリーノが答えた。

「殿下がルーナ様を置いて逃げたでしょ?」

「違う!! 逃げたのではなくて・・それはいい、それでルーナは?」


マリーノは呆れた様子だったが、急いでいるので続けて話す。


「殿下が逃げたんじゃなくて・・、立ち去ったから、それに驚いたルーナ様が後を追い掛けられたの。そして、私達も後を追ったのですが、そこの廊下の角を曲がったら、いるはずのルーナ様が忽然と消えていたのですわ」


俺はマリーノが指した方向を見た。

そこは、建物の外側に沿うように設けられた縁側。

縁側の先の角を曲がると、そこは行き止まりだった。


入り口もなく壁があるだけだった。


俺はくまなく探す。

壁を押したり、縁側の下を覗いたがいなかった。


後ろにいたエティエンヌに、俺は建物の構造を教えてもらおうと質問をする。

「ここからどこかに通じる通路はないのか? 」

「いえ、ここから抜け穴とか聞いた事もなく、ルーナ様がどこに行かれたのか見当もつかないんです。・・こんなことになってしまい、本当に申し訳ございません」


エティエンヌが本当に苦しそうに詫びる。

だが、許せる訳がない。大事なルーナを抱き締めておいて、見失っただと?

だが、ルーナを一人にさせて、追いかけさせたのは俺だ。エティエンヌにも、自分自身にも怒っていた。

いや、とにかく不甲斐ない俺が一番腹立たしいのだ。


なぜあの時俺は・・・。とか

なぜあの時エティエンヌは・・。とか

言っても仕方ない事なのだが、後悔しか出てこない。


エティエンヌはおろおろとしているばかりで、これと行った有力な情報を集めようもない。


俺も、いつものように頭が働かない。今こそ考えろ。考えられないなら行動しろ。

手遅れになる前に!!!


俺は怒りと焦りで何かがブツリと切れた。


「エティエンヌ王子、悪いがここ(王宮)を壊す!!」


「は?」

エティエンヌがこれ以上ない間抜けた返事を出したが、これを勝手に「承知した」との返事だと解釈する。


俺は横に立っていた兵士の剣を奪い、その剣の柄で、行き止まりの壁をガンガン叩き壊す。

壁を壊すと、当たり前だが普通の部屋があった。


また次の壁を、行き止まりの奥の壁から手前に一枚一枚破壊し続ける。

がらがらと壊れる壁の向こうには、壁の無い部屋がどんどんと出来上がる。


だが、曲がったすぐの壁を叩くと、壁が変な方向に開いた。しかも不自然な空間も現れる。その空間は、非常におかしな造りだった。


「この壁の裏側は押し入れのようになっていたので、このような空間があるなんて知りませんでした」

普段は物が詰め込まれていて、その奥を見たことがなかったのだろう。

エティエンヌが初めて見る造りに、驚いていた。


空間の上部を見ると、天井の板がずれている。


「なるほど、罠が仕掛けられていて二階に吊り上げられた可能性があったのか」

俺は一階の天井を見ながら、エティエンヌに詫びを入れた。


「エティエンヌ、悪いが屋根も破壊するやも知れん。先に謝っておく。すまん」

俺は一言の謝罪で、一階の天井を剣で突きまくる。すると天井から滑車らしきものが見えた。


「やはり、ルーナは罠にかかり二階に引き上げられたんだ」


「アレクシス殿下、こちらから二階に上がれます」

エティエンヌがすぐに二階に上がれる階段に導いてくれた。


エティエンヌの後に続くと、先程天井裏に滑車が隠れてあった場所に来た。

この王宮は二階建てで、もう上に部屋はない。しかもここにくるまでの部屋は全部見たが、ルーナはいなかった。


縁側の屋根伝いに行けば・・・。

俺は縁側の屋根の先に見える小さな建物を見つけた。


「エティエンヌ殿下、あの建物はなんだ?」

「あれは、茶室と言ってお茶を楽しむ建物です」


「怪しいな・・行くぞ!!」

俺はそのまま屋根を伝ってその建物に行く。だが、途中で屋根は途切れている。だが、ジャンプすればぎりぎり届くだろう。


俺は走る勢いのまま、その茶室に飛び移った。

が、その建物屋根は非常に脆かった。

バリバリガッシャーン!!!

屋根が崩れ、そのまま建物の中に落ちてしまう。


「うぐぐ、痛ててて」

強か腰を打ったが、目の前のものを見て、それどころではなくなった。

ルーナがいたのだ。


手を縛られて猿轡を咬まされ、涙を溜めた俺のルーナ。


助けようとした俺の前に、剣を構えたバデウースが立ちはだかった。


「おまえは来るのがいつも速すぎんだよ。これからお楽しみだったのに。この女がおで(・・)の物になれば、聖女の威光で皆がおで(・・)に平伏すんだ」

バデウースがにやにやと下品に嗤う。

そんなことのためにルーナをこんな目に合わせたのか?

怒りで体が震えてきた。

「ああ? おでおで(・・・・)って煩いんだよ!! 俺のルーナに何をした? 俺の許可なく何を勝手に泣かしてんだ?」


俺が近寄ると、バデウースが倒れているルーナの首に剣を向けた。

「こっちにくると、大事な聖女がこの世からいなくなるぞ。いいのか?」


「ふっ。俺を見ろよ。武器も持っていないのに、まだ聖女を人質にしないと勝てないのか?ははは、笑えるぜ。おつむも弱いが、剣の腕も弱いってのは、本当だったんだな」


おで(・・)をバカにするな。

人質なんて要らない。おまえを切ってやる」

頭に血が登ったバデウースが、ルーナを放す。

そして、丸腰の俺に向かってきた。


流石に腕は立つらしく、避けるので精一杯だ。

切られたところから、血が流れた。

ちょっと待て、こいつ結構腕は立つ方じゃないか?

顔の前で、ブンッと奴の剣が空を切る。

更に詰められ、太ももが切られた。

俺、やばくないか?


流石に丸腰はきつい。俺が必死で武器になりそうなのを探していると、「アレクさまぁー。私の愛を受け取ってぇぇ」とマリーノの声と共に剣が投げられた。


ありがたい。

「助かったマリーノ」

「いやーマリーって呼んで」


忙しいときに、いつもの遣り取りが疲れる。


だが、剣を持てばこいつに負ける気はしなかった。バデウースが大振りで振り下ろした後、俺はヤツの明いた腰に一撃を当てた。

鞘ごと叩いたので、肋骨は折れたかも知れないが、切れてはいない。


バデウースが踞って戦闘終了になった。

その間マリーノがルーナの紐をほどいて自由にしていた。

そして、決着がつくとルーナが泣きながら俺の腕の中に飛び込んだ。


「ルーナが無事で本当に良かった」


「全然よくありません。よくないです・・。こんな沢山お怪我をされて・・」

瞳から涙を溢しながら何故か怒っている。


「どうしたのだ?ルーナ」

これほどぷんぷん怒っているルーナも初めて見た気がする。

これはこれでかっっっわいい。


「腕を出してください。切られた所を手当てします」

ルーナが俺の腕に触った時に、ドタバタと足音が聞こえ、トーニオの声も聞こえた。


「ルーナ、手当ては後だ。今その姿を誰にも見られたくない」


ルーナが自分の姿を確かめた途端、真っ赤になった。

ドレスが破れて太ももまで露になっていた。

特に胸元も・・。俺は自分のシャツを脱いでルーナにかけ、そのまま抱き上げた。


「エティエンヌ殿下、悪いがその男をこのまま放置する事は出来ない。モランルーセルの為に駆け付けた聖女を害する行為。これは我が国を侮辱したと言っても過言ではない。故に、我が国の刑法を適用し処罰していただきたい」


「善処する」

エティエンヌがここで認めるわけにはいかない事は百も承知している。

これは他国の法律に触れる行為だ。

だが、一旦我々の・・・、いや俺の断固たる意思を表明した。


それに答えるように、エティエンヌは自分の実の兄であるバデウースを、一番汚ない独房に入れるように兵士に命令する。



◇□ ◇□

独房に入れられても、バデウースが反省することはない。

「くっそう!! もうちょっとだったのに・・。あの手紙通りにやれば

世界はおで(・・)の思うままだったのに!!」


バデウースは牢屋で、何度も呟いていたのだった。


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