4−2 変な色の薬
おみにことの顛末を話した。
すると薬のレシピを知りたいという。
いそいそとメモと参考にした本を見せる。
おみはちらりとそれらに目をやると言った。
「はる…お前何作る気だったんだ?」
無表情だからこそ余計に緊張する。
座っているおみの対面に腰掛けるが、顔が見れない。
「うーん、…リラックスする薬」
「んで、何を参考に?」
「えーと、『魔法の秘密の花園』の中の『安らかなる眠りへの道標』と『素晴らしき楽園』」
私がそう答えると、また沈黙。
そして本とメモを見比べたり、他の本を見始めた。
ちなみに、『魔法の秘密の花園』というのは
魔女や魔法使いのなかでは知る人ぞ知るという有名な手引書らしい。
何と無く悪い気がして手伝おうかと机越しに眺めても、
いまいちレシピの何が悪かったのかわからない。
というか寧ろ考えたくない。
と、ぼうっとしていると、謎がとけたのかおみが声をかけてきた。
「はる、お前本当は何作る気だったの?」
「だからーリラックスする薬ー」
「『魔法の秘密の花園』が何の本だか知ってるのか?」
「え?魔法の手引書でしょ」
「何かと勘違いしてないか。
これは有名な魔法による攻撃と呪いの手引きだぜ。
確か『禁書』指定を受けていて多くが焼かれ辛うじて残った本は
『図書館』に厳重に保管されてるらしいが」
だって師匠が、いい本だから勉強しなさいってこないだ貸してくれたんだけど。
「聖なる火でしか焼けない上に本自体にも魔力があって下手にあつかうと呪われるらしくてな。
俺だって今凄く注意してる」
どおりで林檎が威嚇するわけだ。
本相手に変だなとは思ったけど。
「はる、聞いてるか?
でな、『安らかなる眠りへの道標』それこそ飲んだだけで一瞬にして相手を深い眠りに導く薬だ。
薬の中に幾重も式と陣が組み込まれた構造になっていて
胃の中で分解され始めたら直ぐに魔法が展開されるようだ。
『素晴らしき楽園』ってのは相手の望む夢を見せて夢の中に一生閉じ込める薬だ。
薬には円陣と呪文が含まれていてそれを介して夢魔を呼び込むのさ」
「ごめんなさい!」
先手必勝とばかりに謝る。
「俺じゃなくて壱岐にいわないと」
ごもっともです。
「はる、本、ちゃんと読まなかったろ」
ばれてる。
そうです。全くその通り。
「どうせ名前だけみて勝手に薬の効用想像して適当に材料混ぜて作り方アレンジしたろ」
はい。一縷も違いません。
「だからいつも言ってるだろ、解説や効用も読めって。
こないだだって栄養剤のつもりで危うく庭の植物に手足を生やしかけたよな。
動く前に魔法を解除できてよかったよ。その前は…」
はい、いつもいつも言われてますが一向に直りません。
んでいつもいつも間違いをおかしては危ういところで止められてます。
「なんでそんな適当なのにこんな上手く二薬を組み合わせられんのかな。
普通魔力とか式とか陣や呪文が ばらけて効果がなくなるもんだけど」
…返す言葉もございません。
何でかな。
いっつも感覚で作ってる。
「今更いってもどうしようもないけどな。まぁ今回も危機一髪だったな。」
呆れたようにおみが言う。
「何で?」
「もし壱岐が『俺も一緒にいたい』って言ってたら、あいつ一生夢のなかだっただろうからな」
…。
…。
…。
それから数日たって、いつも通り怒りが持続しないというよりも
忘れっぽい壱岐とは良好な関係を保てている。
「あ、壱岐、いいところに!」
壱岐を見つけて声をかける。
「新しい薬作ったんだ。今度は動物の声が聞こえるくす」
言い終わる前におみがきて小鬢を取り上げられた。
「はる、既に魔力が動いて蝿の王、悪魔の貴公子が召喚されかけてる。薬棄てるぞ」
はい、ごめんなさい。