前へ次へ
3/18

3 にごった水晶玉



「ししょー、また手紙がきてる。あの『六条豊久』さんからだよ」


そういって手紙を見せると師匠はものすごーく嫌そうな顔をした。


「ほら、アンリ様って書いてあるよ、受け取って」



顔だけじゃなく態度まで心底いやそうにして、

でも、師匠は手紙を受け取り、ペーパーナイフで丁寧に封を切った。

開封がこんなに上手な人、あんまりいないっていつも思う。




「師匠~、六条さんどうしたの?また?」


「また」


「懲りないね」


「馬鹿だから、救いようがないのですよ」



とげとげしい言葉を吐くものの、結局はいつもの通り師匠は仕事を受け付けたのである。












「今回は何を知りたいのですか」


「アンリさん…今日もまた一段とお美し」


「御託も世辞も要りません。用件は何かしら」


「つれないな。私と貴女の仲なのに」


「客と占い師、それ以外の何者でもありませんよ。さぁ用件をおっしゃって」


「そう急かなくてもいいじゃないか。この時間を楽しもうよ」


「…」



無言のアンリの周りに黒いオーラが見える、気がする。

怒ってる。

いつもの事だけど。




「今日はね、私の妹のお見合いが上手くいくのか知りたいんだ。

相手はちゃんとしたいい奴で妹と気が合うかどうかをね」


「六条家本家の次女の相手など元から

学歴、経歴、能力だけでなく人柄や行動パターンなども調査され確認されているはず。

何を今更…」


「いやぁしかし相性はやはり占いでしかわからないでしょうからね」


「それこそ余計なお世話というものです。

貴方が占いの結果を知ったからといって現実はどうなるかなどわからないのですよ」


「現実がまたわからないからこそ知りたいのですよ。

占ったとおりに事が進むなどつまらないじゃないですか」


「…妹御と相手の方の氏名、生年月日、特徴、その他の情報をお話ください」





もう呆れ果てたのか黙ってアンリは水晶玉を見つめ始めた。


凄い大きな会社の社長とか財閥の総帥とか、

六条さんは実はとても偉い人らしいけど、

そんな彼をこんな軽く扱うのは世界広しと言えど

アンリくらいしかいないのじゃないかな。



そういうアンリが私は大好きなのだけどね。







そして私は占いを知るわけには行かないので部屋をでる。









魔女の水晶玉は濁っている。

空気やひび、不純物が混ざり形もいびつだ。

それを見つめるとその濁りに真実が映される。

鉱山から気に入ったものを拾ってくるのだ。


私もこの間アンリに教えてもらった場所に行ってきた。

凄くひかれるものがあったので布に包んで持ってきた。

まだ覗いてはいないけれどあのこは私のものだと思う。



大切なのは相性と直感。






一方、魔法使いの水晶玉は澄んで完璧な球を描いている。

水晶玉を通して真理を見抜く為だという。

澄んでいればいるほど、形が美しければ美しいほど鮮やかに見えるそうだ。

鉱山から切り出し磨き形づくって育てていく。

だからおみもしょっちゅう研いたり月の光にかざしている。










さてしばらくして占いが終わったらしい。

張り詰めた雰囲気が消えたので、紅茶を注いでもっていく。

六条さんはにこやかな表情で、アンリは益々不機嫌な表情でカップを受け取る。


「その様子だと占いの結果は良かったのですね」


取り敢えず、当たり障り無くそうコメントしてみる。


「さてね。他人事だからわからんがね」

「…ご自分の仕事の事とかは聞かないんですか?」


「アンリさんの占いがよくあたるということは重々承知しているから、

それを聞いたら働いている意味が無いだろう。

希望を抱いてそれに邁進するのが良いのさ」


「うーん、確かに」


「何をしたってどうしようもない、

それこそ賽の目を振るようなことを占ってもらうのが丁度良いのじゃないかね」


「…うーん、まぁ」








この人は多分普通の人間なのに、魔女のように占いということを理解してる気がする。

占いは見るものだけどいろいろな見え方があるし、見えているものが正しいとも限らないのだ。







「詰まりは時間潰しと言うことかしら」


「そうとも言えるかな。私としてはアンリさんにあえることが一番素晴らしいのだけどね」


「寝言は寝てからおっしゃい。さぁ用件は済みましたね。とっととお帰りください」


「ああ。また、頼むよ」





アンリのきつい言葉をさらりと受け流し六条さんはにこやかに帰っていった。



「全く…」



不機嫌に文句を滴れながらも彼の依頼を受けているのは

気紛れな性格を思えば気に入ってるということだろう。








「あ、六条さん、カフスを一つ落としていってる。どうしよう、師匠、追い掛ける?」




クリスタルのカフスは光があたると反射し様々に輝きを変えた。

六条さんの柔軟な精神を表すかのよう。



「その必要はありませんよ。布に包んでしまっておいて。また近々来るでしょうから」




そういってアンリは上等な絹の布を取出し私に手渡す。


慎重にカフスを包みながら、尋ねてみる。





「それ、予言?」








すると速答された。










「いいえ、予測ですよ」







おお!

六条さん、頑張ってる甲斐があるっていうか、ちょっとは伝わってるかも~











「あのお馬鹿な若造の考えなど先見するまでもなく予測つきますよ」










…。




前言撤回。



まだまだアンリには並べないみたいだね。

頑張れ、六条さん!



前へ次へ目次