前へ次へ
17/18

木漏れ日



坂を登ると、大きな樫の木がある。


魔女にとっては自然は師であり、特に樹木などは学ぶことが多い。


樹齢三千八百年とか聞いたかな。


凄く古くて歴史と知識が埋まってる。


この辺り一帯は昔は森だったけれど、その樫を残してほかは姿を消し見る影もない。


善し悪しを判じることはしないけれど、


それでも、


淋しい、気はする。



風が気持ちいいな、とか青空が綺麗だな、とか気が向くまま遊びに行ったりしている。




今日も目覚めが良くて何だか会いたくなったので、こうして坂を登っている。


巨大な幹、伸びやかに広がった枝、風にそよぐ青々とした葉が足元に大きな影を作っている。


私はいつものように木陰に座り込んで木にもたれた。


背にあたる部分からやわらかな温度が伝わってくる。


触れ合う部分で静かに交流する。


識る、というのは、そういうこと。








「はーるー、起きて」


ん?優しく揺すられる。


「んー」


まだこうしていたいのに。


「はる、ほら、起きて」


渋々ながら目を開く。


…眩しい。


手をかざして、ぼんやりと見上げる。


ここ、どこだっけ?


あ、あの坂の木のとこかぁ。


いつのまにか、寝ていたみたい。




「…おみ?」


目の前に居て肩をゆすったのはたのは、おみ。


「何で?」


どうしてここにいるのだろう。


「何が『何で?』かはわからないけどね、俺は探してたんだよ、はるを」


…さがして…まだ頭がうまく働かない。


「だからさ、林檎のおもちゃを買いに行くって約束してたろ」


「…だっけ?」


「そうだよ。寝惚けてんなぁ、まだ」



寝惚けて…というよりは充電がうまくできない感じ。



「でさ、本当は夕方までかかるはずだった新しい魔法の構築が早くおわったんだよ。

ついでにはるは今日は休日だろ。だから今から行こうかと思ってね」


「…」


「もう一回繰り返そうか」


おみは余裕綽々な様子で笑う。


「いい。」


「どうせ朝気持ち良く目が覚めたからここに充電しにきたってとこだろ。」


「えー、なんでわかるの?」


「はるのことだからな」



何それ。わけわかんないよ。



「でももう昼過ぎだぜ。充電ももう終わりだろうけど。どうする?行かない?」


「行く!」








「じゃあね、なんでもわかるならね、どうして行くのか当ててみて」











「木漏れ日が眩しいから」












「…正解。」






前へ次へ目次