07-3 LOOP!
「さあ、歩こう」
そうして散歩の再開。
やはり暫く穏やかな沈黙がつづく。
どうせ本当の魔女になったってばれちゃっているのだから、
と腹をくくり話す事にした、秘密。
「朝、林檎が、今日はるひは本当の魔女になったから、夕食にケーキを食べようって」
「うん。それで?」
「それだけ」
「…」
あ、呆れてる?
「林檎は嘘は言わない。
でもびっくりして、だって凄く大切で大変だから
受け入れるのが上手く出来なくてだから内緒にしてた」
おみの手を握る。
「そしたら師匠も遠くから帰ってくるし、ネルも夕食に来てくれて。」
少し先に家の明かりが見える。
「おみがトルクをくれて」
段々雲がでてきたようで月明かりがちらちらと陰る。
素敵な散歩の終わり。
「何もかもが嬉しい」
そして玄関の前。
おみは中に入らず帰るというので、そこでお休みの挨拶を交わした。
「おやすみ、おみ」
「おやすみ、はる」
月明かりが陰った一瞬、おみの唇が私の唇を掠めていった。
茫然とした私に、良い夢をと残しておみは踵を返していった。
夜道を再び月明かりが照らす中、
ぱらぱらと音がして痛いというおみの声が聞こえた気がしたけど。
足元に林檎がやってきて、我に返り、家に入った。
ただいまというとネルはもういなくて、アンリがお帰りなさいと出迎えてくれた。
幸せで忘れられない日。
本当の魔女として、こうして私は足を踏み出した。
☆数分前☆
「あー、わたくしの可愛い可愛い可愛いはるひに!!!」
美しい魔女が水晶玉を見つめながら激しく怒っている。
其の隣では、そ知らぬ振りをした魔法使いが使い魔とその子供に夕食の残りをあげている。
内心では誰よりも敵に回したくないこの魔女を相手に(実際の相手は魔女の弟子だが)奮闘する弟子を応援していた。
此処まで怒らせるなどなかなか骨のあるやつだ、と人事のように思ったり。
感情の波の少ない魔女を此処まで興奮させるなどなかなかできやしない。
最も自分はその後の対処が面倒くさいと言うことなのだが。
「月夜は魔女の世界。月光の下で魔女に隠し立てすることなど不可能なのです!!」
魔女は水晶を通して見たいものをみる。
月光に照らされた世界ならなおのこと見通せる。
しかし今夜は三日月夜。
そしてほの暗い月光を雲が時折遮り、水晶玉の景色は搖れる。
「っっっ!!!!あーーー!!!!」
滅多に大声を出さない魔女の切羽詰った叫びに何事かと思いながら
魔法使いも先ほどから魔女の注目していた二人に意識をやる。
何を用いることなくとも大気と風の流れを読み、大体の事情を察した。
そして心の中でこの美しさと比例して壮絶なまでの恐ろしさを秘めた魔女を出し抜いた弟子に拍手喝采した。
「雨よ凍れ、風よ吹け、流れにまかせて礫となって降り注げ」
魔女の其れまでと打って変わって低く冷たい声が響いて、
魔法使いは合掌した。
水晶玉から魔女が顔を上げた。
無表情の中にもすっきりした顔をしている。
見るべきものは無くなったらしい。
と言うことは、
あの可愛らしい魔女の弟子が帰ってきたと言うことか。
魔法使いはさっさと退散して霰に降られた自分の弟子でも慰めてやろうと姿を消すことにした。
最後に言葉を残して。
「アンリ、あんまり有臣をいじめないでやってくれよ。
それから、はるひ、魔女に成ったんだな、おめでとう」
室内だと言うのに霰が舞ったがそこには魔法使いの姿は無かった。
魔女は少々呆れた表情をして魔法使いのいた場所を見ていた。
だが、玄関が開く気配がしたのでそっちを向いて愛しい弟子を出迎えた。
ただいまと言う魔女に成りたての可愛い可愛い弟子の頬がまだ赤いのは 気に食わないが、
何はともあれ彼女を抱きしめて言った。
「お帰りなさい、そしておめでとう、はるひ」