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私はエビの魔物。
魔物の身体は魔素材になる。
魔法使いや冒険者は魔素材を集めてる。
……私も狙われてる!?
ハサミなお手々をじっと見るけどこれが魔素材?
他の魔素材はこの宝石達しか知らないけど見るからに特徴的で目立っていた。
うーん、特に目立ってないように見えるんだけど?
あ、もしかして?
今は水槽球の中で手を見ているけど水槽球の形を変えて手だけ水槽球の外に出す。
うわ、今度ははっきりと目立ってるよ。
まるで海水がそのまま形になったような魔素が重なって見えた。
これじゃあ水槽球の中で目立たないハズだよ。
『シュリが魔法の力を高めるために魔素材を身に付ける必要はまずないの。自前で間に合っておるし何より本人が強くなれば自然と魔素材としての格も上がるじゃろうしな』
確か私の種族名ってアーベンエビだったから、私の殻はアーベンエビの甲殻とか呼ばれているのかな?
お母さんエビの殻だったらアーベンエビの堅殻?
いいのか悪いのか、とにかく装備でパワーアップは考えなくていいみたい。
あとはアクセサリーとして欲しいけどエビの姿で着飾ってもいまいち盛り上がらない。
いや、キレイな物は普通にキレイだと思うし好きなんだけどね。
そういえば?
“カーカ師匠! そういえば海に沈んでいた船にそのアイテムボックスと同じ宝石があったんですけど”
もしかして宝石の中にもっと高価な財宝が隠されていた?
今すぐにでも戻って確認したいんですけど!?
『どうじゃろうな? シュリの記憶を見る限りでは魔道具として加工されておらんようだし魔素材でなないか? ……いやただの宝石として扱われておるのかの?』
あぁ、他の魔素材と組み合わせて始めて魔道具アイテムボックスになるのか。
魔素材としてなら空間魔法のサポートをしてくれるみたいだけどカーカ師匠曰く私には適性が無いから無理みたい。
才能が無いんじゃないからね? 極端に水魔法に偏って他が使えないだけなんだから。
うん、水魔法には感謝してるけど他の魔法にもロマンを感じるので正直残念です、はい。
『しかしシュリは物覚えが早いな、かつて召喚されたばかりの異世界人に会ったことがあるがこれほど順調ではなかったぞ?』
誉められた?
いえ、その、召喚されたばかりじゃなくて1年は経ってますし?
『先程もしっかりと魔導紋が現れておったし、これならば既に課題であった睡眠時でも継続する魔法が使えておろう』
魔法陣って呼んでいたのが魔導紋なのかな?
え、寝ているときでも水槽球が解けたりしないの?
本当ならスゴく助かる。
『魔導紋が現れるのはしっかりと己の意思を魔力を通して魔素に伝えられておる証拠じゃ。今までの魔法は不安定で常に意識し続けて維持していたがそれがより安定した魔法になっておる』
『これならばもう行っても大丈夫そうじゃな』
行く? どこへ?
『忘れてはおらんじゃろうな? わしが魔法の助言をしているのはシュリが洞窟内に彫られた文字を消す対価の前払いじゃということを』
……あ。
“も、もちろん覚えていますよ。え、今から行くの?”
せめてもうちょっといろいろ実験したりしたい。
『そんなに怖がらなくとも、もともとシュリの魂の大きさなら洞窟内で戦って分が悪いのはアーベンイカの王と女王、クラゲの本体の3体じゃ。あぁ、あとはバルキナソン、シュリがガメラなどと呼んでおるドラゴン位しかおらんぞ?』
ガメラさんってドラゴンの一種だったんだー。
大きなカメだと思っていたのでちょっとビックリ。
うーん、なんか実は強いって持ち上げられているけど命からがら逃げてきた大イカやテナガザルより本当に強いのかな?
『ふむ、不安ならばちょうど良い。最後の仕上げとして闘ってみよ』
どういうことかと疑問に思ったら後ろから返事があった?
「Uqi」
バッと振り向いたら大部屋の入り口を覗き込んでいたテナガザルがいた。
えっ、まさか闘うってコイツと? 私が!?
あ、入ってきやがったけどもう少し警戒しようよ!
ここって君の仲間が瞬殺された場所だよ?
確か私が最初に迷い込んだ時はカーカ師匠が威圧していたのか空気が重たかった。
今はそんなことないけど、まさか私に闘わせるために怯えて逃げないようにしてるの?
うわー、カーカ師匠は本気だ。
「Uqyaa」
なんか獲物を見付けたみたいな感じで余裕みたいなんだけど本当に私の方が強いの?
少なくともテナガザルには私の強さとか伝わってないよね?
『では開始せよ』
カーカ師匠の宣言と共に大部屋の手前と奥を塞ぐ水の壁が出来た。
カーカ師匠は壁の向こう側で私はこっちに取り残された。
ちょっ、こっちから濁って見えないんですけど?
反対からは見えてるの? それってマジックミラー?
よく見たらテナガザルが入ってきた入り口も同じ様な水の壁で塞がっているんですけど!
完全にテナガザルと1対1で閉じ込められましたね、ハハハ。
笑い事じゃねー!
現実逃避している場合じゃない。
流石に負けそうになったら手助けしてくれるだろうし安全に闘えるチャンスなのは確かだ。
テナガザルも閉じ込められましたことで不安になったのか威勢の良さが消えてキョロキョロして不安そうだ。
安心してよ、私の方が不安だからね。