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見えない、だと!?
魔素が重なって見えないことなんて無かったのに。
うん、驚いてはみているけど昨日までは魔素なんて知らなかったし見えなかったんだよね。
んー? やっぱり私には見えていないだけで魔素はきっとあるよね?
カーカ師匠の目と比べて私の目だとまだ見えない魔素があって全体的に暗く感じた。
でも他のところは平均的に暗くなっているイメージだけどこのピンク色の宝石は魔素が完全に見えなくなっている。
これは聞いちゃった方がいいな。
考えても分かんないし課題を達成した報告と一緒に聞いてみよう。
カカえもーん。
大部屋に向かいながら思わず言ってみたけど語呂が悪いなー。
それにカカえもんがカーカ師匠にどんな風に聞こえるのか分からない。
下手したらバカにしてって怒られるかも知れないから言わないようにしよう。
まさか勇者や召喚者から正しく伝わったりしてないよな?
どうしたんだいシュリ太くん、とか言われたらどうしよう?
ちょっと変な方向に空想が膨らんだけどやっぱりカーカ師匠をイジるようなことは止めておこう。
怒らせたら怖いもんね。
ピチャン
合図のような水音が聞こえてカーカ師匠が現れた。
あれ? 相変わらず白いシンプルな洋服だけどちょっとデザイン変わってる?
もしかして自由自在?
いや、それよりも精霊眼で初めてカーカ師匠が現れるところを見たけどレベルが違うってはっきり分かったよ。
一瞬だけ魔力が作る模様が見えたけどスゴかった。
私が魔法を使うと魔法陣みたいな模様が浮かび上がるけどカーカ師匠は次元が違った。
私が2次元ならカーカ師匠は3次元、つまり立体だった。
しかもやたら複雑なのに整っていて機械式の腕時計の中身みたい。
ただ現れるのにも高度な魔法を使っているのかな?
『ほう、驚いたな見違えたではないか』
驚いたみたいだけど表情は相変わらず動いていない。
もう少しリアクション欲しがっちゃダメかな?
私がカーカ師匠の登場シーンに驚いていた一方でカーカ師匠も私の変化を見抜いたみたい。
自分ではよく分からないんだけどカーカ師匠の目には違って見えるのかな?
とにかく課題の報告として実際に魔法で水を創った。
本番で失敗しないか緊張したけど上手く行って良かった。
他に海水も創れたことや魔法陣が現れるようになったことなんかを報告した。
課題はこれで大丈夫だよね?
『コツを掴めば早いものだな』
やった、どうやら出来の悪い生徒とは思われてないみたいで安心した。
『ちなみに今シュリが水を創ったのは間接法と呼ばれる方法じゃ、簡便ではあるがこれでも用は足りるな』
むむ、間接法? 他にも水の創り方があるってこと?
なんかもっと高度な方法があるみたい。
授業が始まった。
『間接法があれば直接法もある』
『前提として魔素について話すが、魔素とは魔法の素であり世界の素じゃ。世界が絵画なら魔素はパレットの上の絵の具とは前にも話したな?』
『別の言い方をすれば可能性の世界じゃ、そして可能性の大小は魔素の量にも表れる。例えばここは海から近い海岸の洞窟で水に関する魔素が豊富あるが乾燥した地域に行けば魔素が減って水を創るのもその分難しい。それこそ海中では火が発生する可能性が低いように対応する魔素も極端に少ない』
『何が言いたいかと言うとだな、魔素の重なり方はいつどこでも同じでは無く場所や時間によって変化するのじゃ』
『つまり、魔素の重なりを揃える間接法は常に見本となる本物の水や海水が無くては上手くいかんのじゃ』
むむむ、確かに見本を見ながら水を創ったけどその見本は温度や湿度が変化するだけで変わっちゃうから見本なしでさっきと同じように記憶を頼りに魔素を揃えてやっても上手く行かないのか。
『対して直接法とは状況によって変化する魔素の重なりではなく魔素の結合の仕方を再現することじゃ』
『魔素は世界の素。つまりこの世界は魔素によって出来ておる。つまり魔素を本物と同じように結合する事が出来たならどんな場所でも水が創れるのじゃ』
んー? ちょっと化学みたいな話になった?
言ってることは何となく理解できるけど、でも具体的な方法がよく分からない。
『既に物質として形をなしていてもその素は魔素じゃ、魔素が結合し形をなして表に現れているに過ぎん』
『結合状態の魔素を直接見るのは今のシュリにはまだ難しいじゃろうから直接法の存在だけ覚えておれば良い』
それだけ高度なテクニックなのか。
でもちょっと疑問。
“それってカーカ師匠の目を通して見せて貰ったら出来たりしないんですか?”
『昨日の様子を見る限り今のシュリではまだ無理じゃ』
そうそう上手い方法はないか。
つまり今は間接法でいいけどレベルが上がったら直接法に再チャレンジしましょう、ってことか。
『ちなみにもう一つ別の方法もある。あまり薦めんがな』
間接法、直接法以外の方法?
他にどんなやり方があるんだろう?
『それは魔道具を使って水を出すんじゃ、もっとも簡単ではあるが頼り過ぎれば魔法の修練にならん。特に水に適性がある魔法使いならば道具に頼るのも恥ずかしい行為じゃ』
あぁ、魔道具か、やっぱりそんな便利な物があるんだね。
確かに水を出す魔道具なんてファンタジーだと良くありそう。
まぁ感覚が違うのか便利な道具に頼ることは恥ずかしいとまでは思わないけど。
便利な道具で溢れていた地球の感覚かな。
そもそも水を創る魔道具なんてこの場ないんだけどさ。
『何処かで拾ったのか? シュリが持っておるその青い宝石は水を出す魔道具じゃ』
持ってた!?