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目覚めると知らない天井だ。

いや、寝起きで少しぼんやりしていたけどやっぱり知ってた。


えーと、眠る前のことを思い出す。

カーカ師匠から見本の水とアドバイスをいくつか貰ってから小部屋へと戻った。

小部屋に来たらどっと疲れが出たのかそのまま落ちするように眠っていた。

考えてみたらずっと水球を出したり消したり魔法を使っていたし疲れていたみたい。


今私が見ているのは昨日までと変わらない景色。

人間の視界そのままのイメージが強く残っているのか無意識に魔素を見ることが出来ていない。

寝起きでこんな反省をするとはね。


エビの身体で言うのも変だけど、人間の目を通してしか世界を見たことが無かったのに突然変えるのはやっぱり難しい。


これは常に使って慣らしていくしかないよね。

世界に重なる別の世界、世界の裏側を重ね合わせるようにイメージする。

途端に視界が歪んでいく。

ゆっくり時間を掛けて見やすいように修正して修正して視界を安定させる。

世界が輝きだした。


うん、まだ具体的に何かが出来た分けじゃないけどこれだけで達成感というか満足感があるね。

ふふふ、少し得意顔。


さっそく特訓だ!

まずは今までと同じように水球を創ってみる。

おや?

水球を創ると魔素が動く、それとも動くから魔法が起きるのか、どっちが先か分からないけどそれ以外の何かがあったような?

なんだろ?


とにかく次だ。

カーカ師匠から貰ったお水と今創った水球を見比べる。

ちなみにカーカ師匠は容器も水で創って渡してくれたんだけど何というか……金魚鉢?

カーカ師匠いわく数日は形を留めるとのこと。

これも私には出来ない魔法だなー。


見比べると違っている。

うーん、言葉で言いにくいけど本物の水の方は魔素の輝きも自然に見えるのに私の水球は出来の悪いマネキンみたいに不自然だ。


今まで通り水球を消して新しく創ろうとしたけど……それより今の水球をいじれるかな?

試したこと無かったけど魔素が見える今ならわざわざ新しく創る必要も無いような気がする。

魔法を上書きするみたいに新しく手を加える。


まるで色合わせ。

本物を目の前にしてあーでも無いこーでも無いとやり直しているとデッサンでもしている気分。

完全ではないけど少しは近付いたかな?

少なくとも魔素の集まり方は最初より近い。


これでもダメかな?

水球の魔法を解いてみる。

あっ、やっぱりダメか、水が消えていく。


……ピチャン


小さな水音が聞こえた。

コップ1杯くらいの水球の中の一滴だけがそのまま地面に染みを作った。


ふ、ふふ、ふはは!

やった、大きな一歩だ!


もう一度、次はきっともっと上手くやれる。

全然結果が出なかったから小さな成功が嬉しい。

2回目はさっきよりもスムーズに魔素の色を合わせられてる気がする。


んん?

気になっていたけどやっぱり魔素とは違う光が時々見えるような?

私が魔法を使っているときに見える。

……それって魔力なんじゃ?


そうだ!

魔法を使うと疲れるから何かを消費しているはずだ。

魔力って呼ぶのか知らないけど分かりやすいからとりあえず魔力でいいか。

集中して見ていると魔法を使っているときに時々光っているのが見える。

見えているのが分かると余計に光っているのが分かる。

はっきりと見えないのはこれもレベルが足りていないからかな?


いや、明らかに最初より光がいっぱいあるよね?

レベルが上がって見えるようになった?

どちらかというと見えることでしっかりと魔力を流せるようになったからよく見えるって感じかな?

だって光が沢山見えるほどスムーズに魔法が使えている。


少ない光だと魔素の色を合わせるのもゆっくりだけど光が多いとイメージ通りに動いてくれる。

何だか私って急成長してる?

スゴくいい循環。


魔力の光を意識するほど魔法がスムーズになって次はもっと光が見える。

水球の半分が本物の水として残った。


いつの間にか点滅していた光が点になり線になり模様に見える。

これは魔法陣?

そして水球全部が水になった。


順調過ぎて怖い!

私って天才だった!?

調子に乗ってもいいのか分からないよー!

カーカ師匠に聞いてみようかな?

でもカーカ師匠の常識というか基準が一般的だとはちょっと思えないんだよねー。


あっという間に課題達成しちゃったね。

カーカ師匠に報告しようかな?

でもさっき帰ってきたばかりでまた行くのもちょっと気まずいな。

あ、寝てたからそれなりに時間経ってるのか。

んー、時計がないからどれだけ寝ていたかも分からないなー。


まだ魔力的には余裕があるな。

疲れ方でだいたいの限界は分かる。

もうちょっと自分で試したいな。


水を創って容器を創る。

形は金魚鉢でいいか。

そこに水槽球から一部を分離させた海水を入れた。


うーん、見比べると普通の水とは違うんだね。

水よりも複雑な色が混じって見える。

お塩とか色んなミネラル? なんかが混じった色かな?


やることはさっきと同じ。

創った水球の魔素の色を海水の色に合わせていく。

水より難しい。

必要な色の種類も多い、この色はどこにあるのかな?


世界には色んな色の光、魔素がある。

中には珍しい色があってなかなか見付けられない。

魔力が創る魔法陣も魔法のちょっとした変化に合わせてその模様を変えていく。


試行錯誤して本物の海水に近い色の水球が出来た。

どうなるのかドキドキしながら魔法を解くと少し量は減ったけどほとんどそのままこの場に残った。


まだだ、喜ぶには早いぞ私。

魔法で創った容器に落とした海水に恐る恐る口を付けた。


……これはちゃんと海水だ!

やっぱり私って天才!?

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