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私の中の理性が叫んでる。
話が脱線してるよ、今は魔法について魔素について質問しようよ。
せっかくカーカ師匠の見る世界を見せてくれたんだよ?
私の中の本能がささやく。
Tカードって何?
うん、本能に従おう。
気になり過ぎるよ。
“Tカードって何ですか?”
『異世界人が広めた異世界由来の品だがシュリは知らないのか?』
逆に知らないことが意外だったみたい。
いや、ポイントカードなら知ってるけど流石に違うよね?
『Tカードとは異世界人タカハシが広めた遊戯で正式にはタカハシカードと言う。このようなカードじゃな』
かざした手に現れた水球がカードの形になりだんだん色がついて質感まで変化してまるで本物の紙で出来たカードにしか見えなくなった。
何気に高度な魔法だろーなー。
って、この見た目はまるで……
“トレカじゃん!”
あんまりやったことないけどトレーディングカードゲームのカードみたいなイラストや文字の配置。
文字はこの世界の文字で読めないけど雰囲気はそのものだ。
右下に書いてあるのは数字かな?
『文字は読めんか? カード名は〝第五最大保持者万葉主リーワ〟じゃな。』
なんでも元々はタカハシさんが作って仲間内で遊んでいた物が始まりだとか。
通称Tカードと呼ばれ、カードには実際のこの世界の魔物や魔法、歴史上の人物が使われていて小さい子供に近くに棲む魔物の特徴を教えたりするのにも役立っているらしい。
“あれ? 異世界から召喚されてたのってずっと昔って言ってませんでした?”
確か400年前とか言っていたと思う。
タカハシさんもその頃の人?
『Tカードはタカハシが生前に設立した協会により管理されておるようじゃな。今では10年毎の大改定、その間の5年目の小改定が基本になっておるようじゃ』
小改定はイラストの変更やルールブックの修正、大改定は新カードや新要素の追加が行われるそう。
正直ちゃんとやったことが無いジャンルのゲームだけど娯楽に飢えていたので半端なく興味がある。
あるけど、今は娯楽に取るような時間は無いなー。
『ホルダーズと言う呼び名はわしも知らなかったがどうやらこれは記念品の類いでゲームでの使用は禁止されておるようじゃな。人が倒せる域を超えた魔物は勘違いを起こさぬように配慮された扱いのようじゃ』
あぁ、本当に魔物がいる世界で実際の魔物をカードにしているからね。
現実では倒せないような相手もゲームとして倒せたら変なイメージを持っちゃうかも知れない。
そこは架空のモンスターが使われる地球のゲームとの違いかな。
“万葉主もそうですけど、ホルダーズってゲーム以外でも有名なんですか?”
『様々じゃな、万葉主は有名じゃ。周囲の森は貴重な植物が得られる反面、安定した環境に魔物も多く強い事で知られておる。じゃがホルダーズはただそこに存在しているだけの者も多く一般には無名な者もおる。有名なのは人の世に与える影響が大きい者じゃ、例えば……〝王権授神ディーアス〟〝金の蠍座〟〝双闘の獣ヒジュン〟〝双闘の鳥パジャン〟他には〝八窟王〟の面々などはよく知られておる』
おぉ、気になることが盛り沢山だ。
なんか金の蠍座とか異世界人の影響を疑うんだけど?
いろいろ聞いてみたいけどそろそろ私の中の理性の叫び声が大きくなって来た。
流石に話が脱線しているな。
本題に戻ろう。
何が本題だっけ?
“えーと、話を戻してカーカ師匠の目を通して見たら光のカケラが視界に重なって見えたんですけどこれが魔素ですか?”
さっき見た景色は輝いていたけど今は曇っているように感じる。
『そうじゃ、魔法の素にして世界の素、重なっているという感覚も合っておる。世界の裏側などとも言われておるな。世界を芸術作品に喩えて魔素は世界と言う名の絵画の絵の具であり魔素がある領域はパレットなどとも表現される』
なんだか詩的な表現だね。
パレットの上の絵の具を混ぜて自分が塗りたい色を作るのが魔法なのか。
でも今はその魔素が見えていない。
『今までと逆じゃ。今まではエビの視界を魔法で人の視界に補正していた。それを逆にして魔素が見えるように魔法で補正すれば良い』
見えない物を見るための魔法か。
いや、本来は見えていたはずの物を見るための魔法だ。
『先程までは難しくても今なら出来るはずじゃ。識ることで見えてくる物もある。鉱石の知識が無ければ路傍の石は全て同じ石じゃが知識があれば違って見えてこよう』
1回見せてもらった後だから出来るのか。
よーし、もう一度あの万華鏡のようなキレイな世界をこの目に!
思い浮かべるのは光のカケラが溢れる世界。
視界が歪む? なんか目が困っている?
今が魔法で補正された視界ならそれをさらに補正している状態か。
コンタクトの上にメガネ状態。
やがて歪んでいた視界がクリアになる。
そして魔素が輝く。
やった!
“あれ? 魔素が見えるけどさっきより光りが弱いけどこれで合ってます?”
今も世界が光って見えてはいるけど何だか物足りない気がする。
『ふむ、ちゃんと見えてはおるようじゃが今は浅い領域だけじゃな。魔法への理解が深まれば自然と見える魔素も増えてこよう。今はこれで充分じゃ』
つまりレベルが足りないってこと?