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食べ物がある内は頑張ろう、と思ったらわんこそばみたいに勝手におかわりされました。
うん、それだけでやる気がなくなる不思議。
期限の無い宿題を出されたみたい感じ?
ピチャン
水音と共に現れる美しい精霊。
何も無いところからスゥーっと姿が浮かび上がる。
ここにいないときはどこにいるんだろう?
意識はあるのかな?
『……? そんな低い位置で何をしておるんじゃ?』
土下座してます。
頭を地面に腰を曲げて気分は土下座。
地面に付いてるのは水槽球だし腰は最初から曲がっているから本当に気分だけだけど。
『ふむ、つまり上手くいかずに指導をして欲しいと?』
“はい、たった1日で泣き付いて申し訳ないです”
土下座をしたまま事情を説明。
あれ? そもそも土下座が通じるか分からないや。
『そう畏まらんでも怒ったりせん。しかし意外じゃな』
何か気になるのか、ジッと見詰められる。
昨日も感じたゾクゾクっと不安になるような感覚。
これは頭の中を覗かれてる?
やがて納得したのか1つ頷くと不快感が消えた。
『なるほど、シュリが上手く出来ん理由が分かったわ』
“ほんと? 理由があるの?”
いろいろ試した考え方が違うとかレベルがステータスが足りてないとかじゃなくて明確な理由があるってこと?
『シュリがこの世界で最初に使った魔法が原因じゃ』
最初?
最初の魔法って何だっけ?
海水を動かす魔法だと思うけどやり方が悪かった?
まさかその時点で変な癖が付いちゃったとか?
『いや、そうでは無い。最初の魔法にして今も含めて殆どの間使ってきた魔法……その視界じゃ』
視界……ってことは目が原因?
今見てるのは魔法の効果なの?
エビの目は高性能だと思っていたけど魔法のおかげだった?
『魔法の鉄則でもあるがその行使には具体的な想像力が物を言う。さらには自身の肉体、外部の物体、他者の肉体の順に魔法は難易度を増すものじゃ、エビの視界に不慣れなシュリが想像し易く比較的簡易な自身の視界を魔法で補ってしまったのが最初じゃな』
『その時点では魔法に助けられたのじゃろうが今ではただの目では力不足。魔法が一般的では無い世界から来たシュリの目には本来見えるはずの世界が自らの魔法で閉ざされ認識出来て居らんな』
そうかぁこの目が悪いのかー、目がー、目がー。
『ちなみにシュリが2番目に使った魔法は人間の味覚の再現じゃな』
あー、そういえば最初の頃って食事をしたらすぐに眠くなってたな。
何でも味覚の再現で魔力を使い切って眠ってしまっていたらしい。
どれだけ食事に全力だったんだよ。
『シュリは魔物じゃからな、その肉体は多少なりとも望んだように成長しよう。味覚の方は魔法の補正が無くてもほぼ人間の味覚に近い物になっておるようじゃ。じゃが逆に目の方は本来の精霊眼が失われて人の目に近付いてしまっておるの』
衝撃の真実、私って魔物?
いや、そこは薄々感じていたけど。
えっ、魔力が見えないことに悩んでいたけど私が自分でやっちゃってたの?
“魔物? 精霊眼?”
『魔物とは学問的な分類じゃが生来魔法が使える生き物の事じゃ、人間は魔物ではなく動物じゃな。精霊眼とは普通の人間には見えない物を捉える目の総称じゃ、魔眼と言った方が分かり易いか?』
“精霊ってカーカ師匠は精霊ですよね?”
『実際には魔物の目は総じて精霊眼じゃが、人間にとって代表的なのが時に人と契約し人語を解して見た物を伝えられる精霊だったので精霊眼と呼ばれておる』
精霊眼の名前は分かった。
でも私が自分で台無しにしてた?
“あと、魔物は望んだ姿に成長出来るんですか?”
『魔物が生来魔法を使える違いは肉体にある。魂の肉体への存在依存度が低いなどと表現されるな。依存度が殆ど無い幻獣になると肉体など有ってないようなものじゃがシュリはそこまで依存度が低い分けではないので自由には変えられん。しかし脱皮をして成長する特性と相まって脱皮する度にそこそこ大きく変化するようじゃな』
それでもエビの姿から人間への変化みたいな無茶な成長は出来ないと。
他のエビと違って身体が赤いのも私のイメージが影響したのかな?
やっぱりエビといったら赤いイメージ。
『生物として種族が変化してしまうような劇的な変化は無理じゃが身体の大きさなんかは変えやすい。まぁ大きくも小さくも魂の大きさに対して限度があるがの。シュリは自身の肉体で直接闘ったりはせんからもっと小さくした方がいいかも知れんな』
確かに小エビサイズを卒業してから小さい方が何かと便利だったなー、って思ってた。
次に脱皮するときは小さくなれー、って考えながら脱皮しよう。
『ふーむ、しかしわしもシュリは魔物なので普通に魔素が見えると思い込んでいたわ。これからまた精霊眼に変化することも出来るがそれには時間が掛かるし精霊眼のイメージが必要になるの』
魔素? 魔力や魔法とはまた違う物?
確かに、精霊眼にするためには精霊眼の見え方が分かってないとイメージは出来ない。
卵が先か鶏が先か、精霊眼を手に入れるために精霊眼を知らなくちゃいけない?
無理じゃね?
『そこでじゃ、わしの視界をシュリと共有させようと思う』
おぉ、無理難題かと思ったらそんな解決方法が!
『準備は良いか?』
さっそく?
オーイェー、ずっと待ち望んだ魔法が見える目のためならいきなりだって文句なんてないよ。
グルッ
その瞬間世界が反転したかと思った。
これは私?
目の前に1匹のエビがいた。
これがカーカ師匠が見ている世界か。