73
『さてシュリよ。魔法とは何だと思う? 端的に言い表すならどんな言葉が相応しいかな?』
早速始まった魔法の授業、じゃなくてあくまで助言はそんな質問からスタート。
“えーっと、魔法とはイメージ通りに周囲の物を動かす力?”
多分間違えていると思うけど私だって魔法はどういう物なのかこの1年考えてきた。
魔法とは、魔力とは、って分からないことばかりだけど今私が使っている魔法を言葉にしたらこんな感じだ。
あれ? カエルと闘ったときの水を創った魔法はどうなんだ?
うーん、これじゃあ不十分だよなぁ。
でもどう言ったらいいんだろう?
『うむ、それも真理。しかし魔法をどのように定義するかは諸説ある。学者によっては〝意思による世界の改変現象〟だとか〝魂の構成要素と世界の構成要素との共鳴現象〟などと言われておる』
むむ、難しい話が始まる?
ん? カーカ師匠の前に2つの水球が出て来たぞ?
『まぁ、難しい事は言わん。この2つの水球の違いが分かるかな?』
始まらなかったよ……いやいや気を取り直して、水球の違い?
じっと水球を見る。
大きさや色合いなんかは同じように見えて違いが分からない。
でもこんな聞き方をするんだから違ってるんだろうなー。
“分かりません”
『よく見ておれ。この2つの水球の魔法を解くとだな……』
パシャ
カーカ師匠が魔法を解くと片方の水球は丸い形を崩しながら空気に溶けるように消えた。
でももう片方の水球はそのまま地面に落ちて今もまだ水に見える。
これは?
も、もしかしてやっぱり可能なの!?
魔法で水を一時的じゃなくてちゃんと創ることが出来るの?
これが出来たら行動範囲や色んな制限が随分と楽になる。
期待を込めてカーカ師匠を見詰めた。
『分かったか? 先程よりも正確に魔法を定義するのなら〝イメージ道理に周囲の物を産み出し動かす力〟じゃ』
“それです、私がやりたかったことは。どうすれば出来るようになるんですか?”
『そう急くな。記憶を読み取った限り、シュリに足りないのは真に物を創る事と意識が途絶えても継続する魔法の2つが大きな課題じゃ』
そうだった、水や海水が魔法で創れたとしても寝ているときはどうしても無防備になってしまう。
あれ? ということは寝ているときも水槽球を維持出来るの?
うわー、今までと比べると夢のような話に聞こえるな。
『順番に行こう。まずは逼迫しておる海水を創ることから始めようかの。初歩としてより簡易な水を創る事から始めるぞ』
『先程の水球の違いじゃが、答えは水としての完成度じゃ。完成度が高ければ水としての残るし低ければ水のような物として存在を保てん』
むむ、つまり私が創った水は本物の水じゃなくて水のような物だったから消えたのか。
『ここで重要なのが水としての完成度であって魔法の完成度では無いことじゃ。戦闘に使う為の水ならばむしろ本物の水よりも偽物の水の方が優秀じゃ』
見本として次々に出してくれたのは重い水、軽い水、粘り気がある水、色水など。
軽い水なんてどう使うのかと思ったら体が浮かないので溺死させるのに適しているとか、怖っ。
『注意が必要なのが魔法の炎のように魔法で創った炎そのものは本人の意思で消し去る事が出来るが、魔法の炎から燃え広がった炎は普通の炎なので消せん。もしも炎を使うならば留意せよ。まぁ、あまり得手とはしていないようじゃがな』
いえ、火なんて使えませんからね。
でも面白いな、魔法から燃え移った火は本物なのか。
水もそうやって自然に増えればいいのにな。
『ふむ、治癒の魔法を試しておるのか? これも理屈は炎と近い。魔法で一時的に怪我した肉体を代替しておれば端から本物の肉体に置き換わっていき魔法を消しても本物の肉体が残る』
おぉ、回復魔法も可能なのか。
私の身体に巻いていた包帯を見て教えてくれた。
何でも魔法の扱いが上手いほど置き換わるのが速くなるとか。
でもキレイな切り傷じゃないとあんまり使えないらしい。
人間の体くらい複雑になると水みたいに魔法ですぐに本物を創って直すのは普通は無理らしい。
今の私のはやらないよりはマシなレベルだとか。
『意思、適性、魔力が魔法の三要素などと言われるがシュリの適性は極端に水に偏ってようじゃな。水の精霊であるわしとは戦闘面でも参考になることも多かろう』
ほう、カーカ師匠は水の精霊なのか。
確かに方向性は近いかも?
でもレベルが違いすぎて本当に参考にしても大丈夫なのか不安だな。
『水魔法は使い勝手がいいぞ? 火や風よりも自由に形を想像する事が容易で土よりも量を創り易い。もっとも汎用性が高いのが水魔法じゃとわしは思っておる』
魔法の実演なのか腕を一振りしたら部屋の入り口まで水のカーペットが優雅に波打ち実はずっと床に転がっていたテナガザルの死体を包んでこの部屋の外まで運んでいってしまった。
あれ、これただのお掃除?
『これが最初の課題じゃ、魔法で本物の水を創るかさもなくばどうしても出来なかったのならまたここに来るがよい』
うぇ、ここにいちゃいけないの?
安全な場所を確保したと思っていたのに。
『駄目じゃ。ここに住み着くことは許さん』
きっぱり拒絶された。
そうだよね、カーカ師匠は自分のことを墓守って言ってたしそのお墓の前に住み着かれても困るよね。
『ここを出て右に行けば小部屋のような空間がある。そこならば自由に使ってよい。洞窟の魔物もわしを恐れて滅多に近寄らんのでまぁ安全じゃろう』
おぉ、助かった。
師匠ありがとー。
『滅多に来ないだけで来ることもあるがな』
ちょ、不吉なこと言わないで!