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シャッキシャキ
採れたて新鮮な水分たっぷりの謎苔。
謎苔の時点で字面アウトかな?
思い切って食べてみたらなかなか美味しかった。
もちろんそのまま生でいくらでも食べられます、って程じゃないけどマズかったり苦かったりして無理に飲み込まなきゃいけないなんてことは全然ない。
これで料理したらどうなるかなー?
軽く塩コショウしてさっと炒めるだけでもいいな。ゴマ油と相性いいかな? もやしっぽさに引っ張られすぎ?
もっと固定観念に囚われずに食材に向き合うべきか……なんてね。
洞窟内を見れば床一面ではなくあちこちに群生している感じに生えている。
床だけで壁や天井には見当たらない。
これなら謎苔を食べている内に大イカが壁の穴を見付けるって心配はしなくていいかな?
なんでこの隠れ場所だけ天井に生えたのかは謎だけど?
穴の天井に生えた謎苔はそんなに多くはない。
非常食にはなっても常食には出来ない。
でももしもこの隠れ家を増築して天井を拡げたら?
天井の高い家ならぬ天井の広い家だったなら?
十分な量の謎苔が採れたならこのまましばらくここで暮らすことも出来るんじゃないかな?
むー、安心して暮らせそうなプランにちょっとだけ惹かれるな。
でも、いろいろと無理がありそうだなー。
まず謎苔が本当に沢山生えてくるのか分からない。
それに謎苔がいつ生えるのかも分からない。
大イカの様子から毎日生えてきそうな気もするけどね。
でもでも、もし広くした天井に謎苔が毎日いっぱい生えてきたとしてもここに住み続けちゃったらその先が無いよなー。
いくら住み易い家だってずっとそこにしか居られないならきっと牢屋と変わらない。
牢屋に入ったことはないけどね。
この場所を住み易く改造する努力ってゴールに辿り着けない迷路をグルグル回っているみたいな感じ?
ここに住んだらお外の恐怖からは逃げられるかも知れないけどその先が見えない。
やっぱり今日1日隠れて夜になったら旅立とう。
ドンッドドンッドドンッ
んー?
何やらお外が騒がしい? 何かあったのかしら?
バイク乗りでもやって来た?
「Uooqiiie!」
響き渡る叫び声、聞こえただけで正体が分かったよ!
昨日のテナガザルがここまで来たの?
まさか私を追い掛けてきた?
覗き穴からはあのテナガザルの姿は見えないけどさっきまで謎苔をムシャムシャ食べていた大イカはも殺気立っているのか雰囲気が変わった。
見ているだけで身が竦む。
よ、よーし、このまま隠れてやり過ごすぞ。
なんか闘っているのか派手な音がどんどん近付いて来ている。
うわぁー、変なホラー映画よりよっぽど怖いよ。
い、いやホラー映画だと突然目の前に怪物が現れるのが大定番。
まさかそんなありきたりな展開なんてないよね?
近付いてくる戦闘音に怖くなってどうしても外の様子が知りたくて封印していた魔法を使う。
魔法の目をそーっと外に出して音がしている方を見た。
えぇ? 何あれ?
どこの猿軍団だよ、いっぱいいるじゃん。
昨日の3匹のテナガザルは偵察でもしてたのかってくらいテナガザルの数が増えていた。
テナガザルと闘っている大イカも洞窟中から集まってきたのか数を増やしている。
遠目で詳しいことまでは分からないけどかなり広い範囲で戦闘が起きているみたい。
その端っこがかなり近くまで来ていたみたいだ。
んー? どっち応援したらいいんだろ?
もちろんテナガザルは敵でとても仲良くなれるような相手じゃない。
でも大イカにも攻撃されているから応援もしにくいな。
共倒れになればいいのにって思ったら悪いかな?
魔法の目で近付いてくるテナガザルを見ていたら不意に目が合った。
「Uqi」
あ、やってもーたー!
魔法の目に気付かれた。もっと息を潜めて隠れているんだったー。
いや、それでやり過ごせたとは限らない。
早く見付かったことに気が付けて良かったと……思ってる場合じゃなーい!
水槽球を身に纏いそのまま隠れ場所のフタに突撃して突き破って外に飛び出した。
うおぉー、このまま少しでも遠くに逃げるぜー!
一目散にこの場から逃げ出す。
ドンッ
目の前に勢い良く着地したテナガザル、回り込まれた!
でもゲームじゃないからそのまま相手のターンって分けじゃない。
無理な着地で体勢を崩しているテナガザルの脇をすり抜ける。
その際に左右に2回フェイントを入れたらすんなり抜けられた。
読んでて良かったスポーツ漫画。
どうする?
すぐに追ってくるだろうけどこんな広い場所じゃ逃げ切れる気がしない。
テナガザルの瞬発力は私の目で追えないくらい速い。
このまま直線で逃げてもダメだ。
あっ、そうだ!
昨日この辺で分かれ道がないか調べていた時を思い出す。
確かこの辺り、有った!
壁に彫られた上向きの矢印。
きっとこの先に何かあるはずだ。
上昇して昨日も覗いた下からじゃ隠れて見えなかった横穴に飛び込む。
昨日は大イカが眠っていたその場所は誰もいない。
良かったー、外に出ていったんだ。
やっぱり奥に進めそうな道が続いている?
「Uqiii」
やべっ、追ってきた。
追ってきたのは1匹だけ? 1匹でも勝てる気がしないよ!
うわ、直線? もっと曲がりくねった道が良かったよ。
急いでテナガザルから逃げるけどこれは厳しいか?
どこかで闘うことも覚悟しなきゃ。
カエルのように引いてくれるかも知れない。
この直線の道の先がどうなっているか知りたいけど魔法の目は私の近くですでに最高速で動いている私の先にやっている余裕もない。
分かれ道?
右の方に道が分かれているのが見える。
このまま直線を進むより右に曲がってみるか?
賭けだけど……えーい!
え……
右に曲がった先は道じゃなかった。
まるで体育館のような大広間、今までと床や壁の様子が違っていて明らかに人工的な空間だ。
何もない空間だけど正面には人工的な大きな扉が見える。
なんかヤバい。
本能がここは危険だって最大限に叫んでいる。
なんか空気が重い、まるでゲームのボス部屋か?
このまま踏み込んだら強制的に戦闘になりそうな予感がする。
「Uqiii」
今まさに逃げていたことを忘れてここから逃げようとしていた。
ちょっ、ここなんかヤバいって、出た方がいいって!
あー、これ伝わってないな……
……ピチャン
妙に大きく響いた水音。
続いて部屋の中央に突如水球が現れた。
やったのは私じゃない……誰の水球?
水球が弾けた。
そして弾けた水の中から美少女が現れた。
あなたがここのボスですか?