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魔法でリンクしていた視界が突然のブラックアウト。
どこぞの悪役みたいな心の叫びが出ちゃったよ。
実際には本来の視界と魔法の目の視界の2画面を同時に見ていたのが片方消えた感じだ。
分割していた視界を本来の視界だけに切り替える。
先行させていた魔法の目を見ると壊れて魔法が解けて海水に戻っていた。
海水と言うより今では床の染みかな?
魔法の目を攻撃した相手の姿は見えない。
でも潰される前に何か動く物が見えていたからきっと犯人はそいつだろう。
何かはよく見えなかったけど少なくとも大イカやテナガザルではないしクラゲでもなかった。
つまり初見の生き物。
下手に闘って様子を見てからよりも今の内に逃げるべきか?
クラゲみたいに相性がいいなんて運が良いことはそうそうないだろうし。
ここまで来て逃げるのもキツイけど引き返すタイミングとしてはいいかも知れない。
海からは離れてしまっているしね。
ここは戦略的撤退、いや後ろに向かって前進だ!
ゴツゴツした岩場の何処かに隠れている相手を警戒して後ろ向きに進む。
もしこっちが気付かずに相手の縄張りに侵入したから攻撃されたのなら追い掛けては来ないかな?
バシュッ
ガキーンッ
ぐぅ、そんなに都合良くは行かないかー。
何かが飛んで来た?
被害は? 水槽球の本体は無事、だけど表面のトゲが1本折れてしまっている。
一撃で貫通するような威力じゃなくて助かった。
見えないところから一撃死ってスナイパーかー、そりゃあ恐れられるはずだね。
「GggeeQooo」
大空洞に響いた鳴き声に後退していた身体が止まる。
この声は……そうかお前か。
ピョンと岩場の陰から飛び出して来たのは大きなカエル。
私にとってはこの世界で最初のトラウマと言ってもいい相手だ。
カエルに襲われてユリ姉さんと生き別れることになった。
もちろん同じカエルではないかも知れないけど私にとっては因縁のある相手だ。
そんなカエルに正面から向かい合って束の間に感じたのは記憶との食い違いと矛盾した思い。
こんなに大きかったっけ?
こんなに小さかったっけ?
別のカエルなのか成長したのか、記憶にあるよりも二回りくらい大きいように感じる。
その一方で私の身体が1年前とは比べ物にならないほど大きくなったからなのか以前ほど威圧される感覚はない。
それでも私の3倍はありそうだけどね。
「GeeQoo」
バチンッ
くっ、やっぱり速いな、口を開いたと思った次の瞬間には水槽球に衝撃が来た。
またトゲが1本壊された。
トゲは出していてもムダになりそうだな。
水槽球のトゲを消して元の丸い形にする。
そして回転。
ギュルル
これで少しは衝撃を逸らせる事が出来ると思う。
それにしても舌の先がトゲにぶつかっても平気なの?
体の何倍も伸びる常識外の舌だから大丈夫なのかな?
プラーン
こっちの心配を余所に口から舌を垂らした。
やっぱり無事なのか。
垂らした舌が左右に揺れた次の瞬間、揺れが大きくなる程舌がどんどん長くなる。
ヒュン、ヒュン
さっきまでの直線的な攻撃から一転して長くしなった舌が鞭のように左右から打ち込まれる。
水槽球の回転が衝撃を逸らしていてもぶつけられる度に押し込まれる。
使える海水は水槽球の他に水球として持ってきた分しかない。
攻撃にも防御にも量を気にせずに使えた海とは違って制限が大きすぎる。
回収なんて気にして水鉄砲なんて撃ったことがないよ。
撃ったらそのまま魔法が解けて海水に戻っていたのだろうけどそんなことしたらすぐに水球が無くなっちゃう。
攻撃にも防御にも使うならばと水球から4つの水手裏剣を創って水槽球の周りに浮かべる。
キュイーン
ガキーンッ
高速で回転した水手裏剣にカエルの舌が激突した。
うわっ、水手裏剣が飛んでいって天井に刺さった。
なんとか魔法が解けてはいなかったので操作して天井から抜いて私の周りに加える。
スゴい音がしたけどこれでも舌にダメージないの?
連続攻撃が途切れた舌は再びカエルの口から垂れてプラプラしている。
見た感じダメージは無さそう?
でもアレは? カエルの舌先が少し変だなと思ってよく見たらなにか透明な物で包まれている。
そういえば1年前にカエルと闘った時には潮溜まりの海水を纏って鎧みたいにしていたな。
海水かどうかは分からないけど今も舌の先を水魔法で覆って強化をしていたのかな?
道理で硬い物同士がぶつかるような音がしたと思ったよ。
あー、流石に水場がないこの場所でこれ以上闘うのも難しいな。
いや、水場くらいじゃカエルにとってもむしろ都合が良さそうだからホームの海ならなー。
しょうがないか、倒したかったけど無理は出来ない。
全ての水手裏剣をカエルに向かわせる。
飛ばすんじゃなくて周囲に纏わり付かせるように操作する。
そして私はこの場から立ち去る。
あばよー。
またしても後ろ向きに全力疾走。
水手裏剣はカエルの舌で弾かれているけれど何度でもカエルへと向かわせる。
距離が開いてちょっと余裕が出て来たら逃げる場所について考える。
この大空洞の最初まで戻らなきゃだなー、なんて考えていたらカエルがピョンピョン跳ね出した。
音はかわいらしいけど引き離した距離がぐんぐん近くなって来た。
えっ、カエルの方が私より素早さ上なの?
逃げ出しても回り込まれる!?