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異世界転生といえば、その舞台として思い描くのは中世ヨーロッパ風の王侯貴族がいる世界。

地球にはない魔法が当たり前にあって、魔法のおかげで現代ほど便利じゃないけど実際の中世ヨーロッパほど不便でもない世界をイメージする。

でも個性を出そうとしてか奇抜な設定の異世界を舞台にした小説もたくさんあったから何とも言えないけど正統派といえばそんなイメージだろう。

ひと言でいえば「剣と魔法の世界」だ。

平和な世界ならファンタジーで定番のエルフ、ドワーフ、獣人なんて人間以外の種族がいて交流したり、危険な世界ならさらに魔物や魔族がいて戦っていたり、なんて感じかな。

あの大イカなんて魔物とかモンスターって呼ぶとしっくり来る。

そしてエビ姉さまもおそらく魔法を使って魚をやっつけた。

もしかして私の種族って魔物なの？

人間からしたら討伐対象とか？

いや、いま重要なのはエビ姉さんが魔法を使ったってことだ。

そして私にも使うことが出来るのかどうかが最重要。

ただのエビが生き残るのはハードル高いと思っていたけど、エビの魔物だったのなら生き残りに希望が持てる。

なりより魔法があるなら使ってみたいし。

……魔法ってどうやって使うの？

学校で教えてくれなかったんだけど。

参考になるか分からないけど小説で読んだ異世界転生を思い出してみよう。

スキルやステータスがあって始めから分かりやすいのが多かったかな？

あと他の人は詠唱しないと使えないのに主人公だけは無詠唱で使えたりするね。

人間の場合は。

人間以外はどうだっけ？

そうだ、人間はなんか触媒？ とかないと魔法使えないけど、魔物みたいなのはそんなのなくても使えるってあったな。

エビ姉さんは詠唱なんてしてなかったし、難しい魔法式がどうたらってことはないだろう。

つまり意識するだけで魔法は使える……？

えっと、海中だけど水の球を意識してみる。

全然分からないな。

今度は水の玉を打ち出すイメージ。

全然分からない。

いや、動いたか？

ちょっとは動いたような気もするけど、気のせいかも。

今度はもっと大きな球をイメージしてみよう。

あっ、なんか疲れる。

これって魔力的な物を消費してる？

疲労感に慌てて魔法を中止。

おぉ、わずかだけど魔法の世界に入っていった感覚に感動。

練習必要だな。

魔力量を上げるとか魔法の効率を上げるにはどうすればいいのか、そこから実験しなきゃ。

ツンツン

おや？

どうしました、エビ姉さん。

早くお魚を食べましょう？ ってことですか？

もう、エビ姉さんは食欲旺盛ですね。

成長期ですか？

魔法のことを考えるのは食べてからにしよう。

このお魚さんはどう食べようか？

私の身体より大きいんだけど。

まずは生のまま一口食べてみる。

小魚サイズなのにけっこう弾力あるな。

私も小さいからかな？

水草ばかりの生活から初めてのタンパク質に感動しながらも、淡泊な味わいに物足りなさを覚える。

ここにお醤油さえあれば、せめてお塩でも。

あれ？ そういえば海水の塩分は感じないな？

魔法を使って工夫すれば海中でも焼き魚って出来るかな？

串に刺して海面に上げて火魔法とかでいけるかな？

要検討。

今出来るのは少し刺激があってハーブに近い風味があった水草と一緒に食べるくらいかな？

たしかこれだな。

おっ、そのままよりずっといい。

エビ姉さんもどうぞ。

これを基本に他の水草を足してみましょうか。

ふぅ、お腹いっぱい。

満足満足。

エビ姉さんのおかげだね。

エビ姉さんはまだ食べますか、自分の体積より食べてないか？

魔法については考えることがたくさんあるなー。

まずはエビ姉さんみたいに、このくらいのお魚なら仕留められるようになりたいな。

そうじゃないといつまでもエビ姉さんにおんぶにだっこ。

それも悪くない？

なんだか眠くなってきた。

この食べたらすぐ寝ちゃうの何とかならないもんか。

水草に潜り込んで寝落ちの準備万端。

エビ姉さん、お先に失礼しますね、なんて。

ところで、いつまでもエビ姉さんじゃ可愛そうかな、なにか名前を考えよう。

眠りに落ちる前のぼんやりした頭で考える。

えっと、どんな名前がいいかな？

横文字？ 日本人風？

私の名前に合わせる？

私の名前が……私の名前が……

名前……思い出せない。

なんで！？

名前、なんで！

急に背筋が凍るように、気持ち悪くなる。

友達の名前……分かる。

先生の名前……覚えてる。

学校の名前、街の名前、県の名前……知ってる。

両親の名前……出てこない。

顔は分かるのにお父さん、お母さんの名前を考えると頭に靄がかかったように曖昧になる。

なにこれ、怖い。

私が人間だった記憶った正しいの？

不安に押し潰されそうになりながら眠りに落ちた。

……おはようございます。

私は本当に私？

こんがらがる、なんだこれ？

なんでいままで名前が思い出せないことに気付かなかったんだろう？

魔法が使えたり、お魚が食べられたりで希望が見えて盛り上がっていたのに最悪の寝覚めだ。

名前が思い出せないってこんなに不安になるのか。

思い出せないだけだよね？

名前がなかったとか、存在してなくて作り物の記憶とかないよね？

記憶喪失の一種なのかな？

そのうちに思い出すことに期待するよ。

寝落ちの前でエビ姉さんの名前もまだ考えてなかったな。

あとでいい名前を考えますよ。

えっと、エビ姉さんは……いた。

エビ姉さん、お休みですか？

エビ姉さん、エビ姉さん？

死んでる？