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おーもーいーよー。


えっちらおっちら。

大イカの足1本だけで私よりも大きい。

そして重い。


ここが海の中ならこのくらいの重さなんて気にならないけどここは陸上。

海水が豊富に使えたらまた違うんだろうけど今は水槽球に使っていた海水を減らして大イカの足を薄い海水で包んで持ち上げている。


浮いていても千鳥足なのかな?

なんだかフラフラして上手く運べない。

海水の膜が破れそうで怖いな。


んー、これなら無理に海水で包むより海水で手を創って持ち上げた方がまだ運びやすいかな?

操作していた海水を4つの手のひらに創り変えて4点で持ち上げてみる。


速度はそんなに変わらないけどこっちの方が安定しているかな?

でもこんなに遅いと途中で敵に出会したら放り出して逃げるしかないなー。

魔物除けの呪文とかないかなー?

あっても自分より下のレベルにしか効かなそう。

意味ないわー。


現実逃避気味に雑な思考で気分を紛らわせながらなんとか潮溜まりまで無事に到着。

最悪の事態を考えちゃうと泥沼だから考えないようにしていたけど敵に会わなくて良かったー。

もしかしてほとんどの生き物は寝ているのかな?

今は夜だから可能性といしてはありそう?

でも洞窟で昼とか夜の区別って意味あるのかな?


ゲームだったらいつ行っても同じようにモンスターが出たりするけど現実なら流石に寝ている時間帯はあるよね。

あるよね?

今がきっと起きている生き物が少ない奇跡的に好都合の時間だとしよう。

うん、確かに奇跡だ。

でもこれが時間が経ったら?

起き出して活発に行動し出すよね。


ちょっと都合の良い仮定なのは分かっているけどこの際信じよう。

疑ったら切りが無いしね。

まぁ、信じる者は救われるとか儲かるとか言うし都合が良くても仮定を信じよう。


少ないリスクで移動出来るエンカウント率が低い時間帯。

今は日没からそんなに時間が経っていないはずだからまだ夜の早い時間だと思う。

少なくともテッペン回っては居ないだろう。

タイムリミットが日の出だとしてざっくり6時間はある。

時計なんて無いから感覚頼りだけどね。


この状況から生き延びる為には他の生き物が寝ている内に海へ帰るか次の夜まで安全に隠れていられそうな場所を見付けるか。

私だってゲームの主人公じゃないんだからずっと動いては居られないし昼間は移動するの怖そうだしで昼夜を逆転して動いて行こうと思う。

うん、方針は決まったね。

まずは腹ごしらえだ。


次にいつ食べられるか分からないから今の内に食べておこう。

とはいえこのイカの足って食べられるのかな?

苦労して運んで来たから食べられないと大ダメージだ。

でも毒を持ってるクラゲを見たばかりだしどうしても警戒しちゃう。


魔法で創った大きなまな板に乗せて魔法の包丁で少しだけ切ってさらに細かくみじん切りにする。

それを潮溜まりに撒いて小魚の様子を見る。

普通に食べてるな。

むしろよく食べてる?

うーん、これなら大丈夫そうかな?


とりあえず薄く切って一口食べる。

あ、美味しい。

噛むほどに甘さが感じられる。

ただちょっと硬いな。

いつまでも口の中で噛み切れない。

イカを飲み込むタイミングが分かりません!


ムグッ、なんとか飲み込んだ。

もっと小さく切らないと駄目かな。

今度は両面に細かく包丁で切り込みを入れてみる。

おぉ、食べやすい。

手間は掛かるけどこれならさっきより美味しく食べられる。


醤油があったらこの切り込みに醤油が絡んでもっと美味しいんだろうなー。

おっとこれまで何度も考えた醤油があったらって妄想がまた出た。

考えないように封印してもどうして頭を過ぎっちゃうよ。


海水から塩を取り出そうかと思ったけど海の中じゃなくて潮溜まりだと濃縮して塩を取り出すのも大変そうだし淡水になったら適応出来るか分からないから今は止めておこう。


生でイカ刺しと途中に少しの水草を食べた後は加熱調理へ。

魔法のお鍋でお湯を沸かすだけならすぐに出来る。

海の中より沸騰させるのも簡単だな。


薄くて広い板状にしたイカを軽く湯通し。

少し白く色付いたらそれ以上熱が入らないように潮溜まりで冷やす。

それをさっきと同じように細かく切り込みを入れて湯通ししたイカ刺しにする。

うん、食感が変わってこっちもいいな。

生で感じた甘みは減っているけど柔らかくなってイカらしい味が強くなったような気がする。


これは生の時以上に醤油が合いそう。

あぁ、醤油の誘惑ばかりが大きくなっていく。


最後は包丁でよく叩いて練ったイカのつみれ。

水草も混ぜたけどつなぎになるかな?

お湯のなかに名前の通りに摘み入れる。

うーん、練りが足りなかったのか少し形が崩れたな。

でもそれなりにしっかりくっついていて見た目は美味しそう。


熱いうちにかぶり付きたくなるけどそれは海の生き物として素人。

いや、こんな経験している人なんてそうそういないだろうけどさ。


潮溜まりで少し冷やしてかぶり付く。

うまーい。

わー、イカの風味が口いっぱいに広がる。

熱を通す前にあった弾力はほとんど感じない。

細かく叩いて練った事で柔らかいお餅のような食感になっている。


味付けは海水の塩分だけだけどなかなか上品な味に仕上がっている。

この汁に味噌を溶かしたら贅沢な味噌汁になりそー。


あー、味噌の誘惑も封印しなきゃ。

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