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考え中……考え中……ポクポク……チーン


うん、ムリっぽいな!


透明になる、っていうアイデアは素晴らしいけど実現するまでの道程をシミュレーションしたらチャートがぐちゃぐちゃになっちゃった。


そもそも私には魔法が見えてないからクラゲが透明になっているとき魔法が見える生き物からどんな風に見えているのか分からない。

目の前を通っても気付かれないのか、それとも見えにくいだけで注意して見たら分かっちゃうレベルなのかで評価が変わってくる。


まぁ、それもレベル次第なんじゃ? って感はあるよね。

透明化する魔法のレベルが高ければ見付かりにくいし、魔法使いとしてのレベルが高いほど見付けるのも得意そう。

魔法とは違うけど陰陽師が主人公のラノベの中の隠形術がそんな感じだった。

結局はフィクションからのイメージだけどそんなに的外れでもないと思う。


その点で私って魔法使いとしてかなり異色というかスタート地点にも立てていないような疑惑もある。

マンガだと魔法の修行の第一歩は自分の中の魔力を感じ取る、みたいな展開とかありそうだけど私は基本が出来ていないままよく分からずに感覚で応用までやっているみたいなものだ。

この言い方だとなんだか天才みたいだな?


ずっと魔力とか魔法を感じ取るために試行錯誤はしていたんだけど残念ながら今日まで効果はない。

他の魔法を使う生き物は当たり前に出来ているんだから難しいことじゃないと思うんだけどな?

なにか簡単な気付きのような切っ掛けさえあれば出来るようになるんじゃないかなー?


もしもこの異世界に人間として産まれていたら魔法学校の教科書の1ページ目に書かれていることに苦労しているのかな?

そう考えると遅れていて焦るような気持ちと人間だったらまだ赤ちゃんで学校にいくまでにこれから何年もあるから先に進んでいるような不思議な気持ちになるな。

どっちか選べるなら人間が良かったよー。

ただし中流階級以上な?


ん?

潮溜まりに落ちたクラゲを小魚が近寄ってきて食べていた。

いや、毒が心配でどうしようか悩んでいたんだけど君たち大丈夫?


パクパク……ビクッ……プカー


アウトー!

クラゲを水球で包んで他の小魚が近寄れないようにする。

危なかったー、触らなくて良かった。

やっぱり触手を叩き付けていたのは毒攻撃だったんだね。

あれ? 死んだかと思った小魚だけどまだ生きているみたい。

そんなに強い毒じゃなかったのかな?

それともマヒするタイプの毒?

観察していれば分かるかな?

いやいや、私にそんな症状観るスキルなんてないよ。

まぁ、私が直接毒にやられるような状況ってどんなタイプだろうとアウトなんだけどね。


あー、これからどうしよう?

岩陰とかに隠れながら慎重に進んでみようかとも思ったけど気付いたらいつの間にか透明化したクラゲの大群に囲まれていました、なんてことも起こりそうで怖いなー。


うーん、やっぱり今の私には地上の洞窟の探検はリスクばかりで後略出来る気がしないなー。

まぁ、難しいのは分かっていたしどのくらい難しいのか感じ取るためにここまで来たんだよね。

やっぱりまだまだムリそう。

また出直すか、この洞窟以外の人間との接触方法を探してみるかだね。


バシャッ


不意に()()から水音。

それも大きい、小魚が上げるような音じゃない。


ほとんど無意識に横移動しながら方向転換。

イヤな予感しかしない。


幸いにも攻撃されたりはしなかったけど振り向いた先にいたのは初めて見る生き物。

似ているとしたらサルかな? それにしても手が長いな。

命名テナガザルは私も通った崖に出来た亀裂からやって来たみたい。


「Uqi」


!?

ガツンッ


気が付いたらテナガザルに壁に叩き付けられていた!

速い、目を離していなかったのにまるで見えなかった。

こんな壁ドンイヤだー!


幸いにも水槽球は無事だった。

でも安心する暇もなくテナガザルの顔が近付いて来た。


ガブッ


噛み付いて来た!?

直径で1メートルくらいある水槽球よりテナガザルの顔の方が小さいから丸呑みにされるようなことはなかったけど目の前で牙が水槽球に突き立てられている。


怖っ、迫力ありすぎだろ。

あっ、ヒビが、ヤバーい。


壁に押さえ付けられていた水槽球を解除。

ギリギリ私の身体を覆える分だけ再展開してテナガザルの手から逃げ出す。


海水が足りないー。

潮溜まりに逃げて海水を補充しながら振り返ると顔に海水を纏わせてやったテナガザルが暴れていた。


深く考えてやったことじゃなかったけど、ずっと海で暮らしてきたからこれが攻撃になるなんて発想がなかった。

顔に水球って地上の生き物にしたらかなりエグい攻撃だな。

このテナガザルは崖の上から来たのかな?


バシャッ


え?

どうやったのかテナガザルの顔に貼り付けていた水球が吹き飛んだ。

えっと、怒った?

こっちを睨んでいるような……


マズい。

潮溜まりに落ちていたクラゲを水球で包んでテナガザルに投げる。

クラゲはバラバラになっているから水球の数も多い。

クラゲの毒が効きますように!


シャッ


テナガザルが腕を一振りしたら全部の水球が弾け飛んだ。

腕力? 魔法?

どっちにしてもヤバい。

突然の展開に考えが追い付かない。

と、とにかく海に逃げれば。


バシャッ バシャッ


また後ろから水音。

猛烈にイヤな予感がするよ。

チラッと見たら新しく亀裂から2匹のテナガザルがやって来た。

仲間を呼ぶとか止めてー!


逃げ道が塞がれて万事休す……最期まで足掻くぞー。


洞窟へと飛び込んだ。

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