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目が覚めても潮溜まりに見た目の変化はないな。

水位も寝る前と変わってないような気がする。

満潮にならないと今いる潮溜まりから移動できない。

今の私のサイズだと十分に広い潮溜まりだけど食料は限られている。

もっといろいろ食べたいな。

やっぱり海に戻らないと食事に変化を付けられないかな?

でもなー、私がお食事にされる危険が激増するんよ。

もうしばらくはここで生活しようと思う。


今日も潮溜まりの中で泳ぐ練習をした。

昨日より腰の動きにキレがある気がする。

どこが腰かよく分からないけどね。

いつかこの努力が実るといいな。


なんて運動していたら、潮溜まりに海水が流れ込んできた。

あぁ、水位が変わってなかったのも当たり前か。

他から海水が来なきゃ変わりようがなかったね。


行ける範囲が広がるけどこれからどうしようか?

うん?

海水に運ばれて何か流れてきたな。


エビだ!

えっ、まさか兄弟?

サイズは私と同じくらいだし、きっと生き別れの兄弟エビだ。


えっと……あっと……おっと……


油断していた。

急展開で頭が真っ白になった。

いや、兄弟には会いたいとは思っていた。

泳ぎ方とか何をどう食べてるのかとか、参考にしたいことはたくさんある。


でも急に目の前に現れるなんて思ってなかった。

えっ、どうすればいいの?

とりあえず挨拶?


“ハ、ハロー”


声は出ていないけど手を挙げて挨拶してみる。

通じた!

こっちに来る。

って水草にか。


私の横を通って水草を食べ始めた。

この水草は食べていい物だったみたいでそこは安心。


せっかくなので鏡を見るつもりでじっくりと観察。

今まで視界に入る身体の一部しか見れなかったけど、こうなっているのかー。

形は甘エビに近いと思う。

しかし改めて間近で等身大のエビ見ると怖いなぁ。

大きさを無視するとちょっと食欲が刺激されそうだけど、そこは考えない方向で進める。


そういえば相手からはどう思われてるんだろう?

兄弟?

そういう感覚ってあるのかな?


仲間?

そう思って貰えたらいいな。


ライバル?

自分が住むからってここから追い出したりしないよね?


……食べ物?

今のところ水草に夢中みたいで大丈夫か?

地球のエビって共食いとかしたっけ?


はっ、性的に喰われるとかないよね!?

生後数日でそんなことにはならないよね?よね?

あれ?

そもそも私ってメスだと思ってたけど、どうなんだ?

意識は女の子だけどこの身体はどっち?

エビのオスメスってどう見分けるの?


確認したいような、したくないような。

まだ深く考えないで先送りでいいよね?

頑張って未来の私。


仮だけど私は女の子ってことにしておこう。

そしてこの子も女の子……そう妹ってことにしよう、そうしよう。


等身大のエビは怖いけど脳内補正でなんとか妹扱いにして接してみよう。

実際には一人っ子だったけどね。


“ハーイ、シスター”


元気してるー?

……なんでさっきから私ってコミュニケーション取るとき怪しい英語になるんだ?

おっと、自問自答は後にして、オススメの水草のブレンドを渡してみる。

こうやって食べた方が美味しいから試してみなよ。


あー、表情が分からないってツライな。

どう思っているのか全然分からないや。

ジェスチャーしたら伝わるかな?


ブレンド水草をよく見せてから私が食べる。

うん、緊張して味がよく分からない。

でもそのままより美味しいはず。


そして妹エビの近くに水草を置いた。

こっちを様子を見ていた妹エビが水草に手を伸ばした。


一口食べた。

二口食べた。

三口、四口、食べ終わった。


気に入ってくれたようね。

追加も欲しいの?

あんまりブレンド水草は残ってないんだけど、仕方ないなぁ。

作っていた水草の残りを全部渡した。

おぉ、いい食いっぷりだねぇ。


なんだかペットにエサをあげてる気分。

大きさに目をつぶれば。


うーん、この子ってこのあとどうすんだろ?

またふらっとどこかに行っちゃうのか、しばらくはここにいるのかな?

もしここにいるなら、私がこのまま潮溜まりで生活するのもエビとして間違ってないと思っていい?

お母さんエビは普段深海に住んでそうなんだよなー。

浅瀬にいる大きさじゃなかったもん。


おや、追加した分も食べ終わったか。

私の分は別の潮溜まりと繋がったし、他の種類も取ってきて違うブレンドを試してみよう。


移動する素振りを見せると妹エビちゃんが追いかけてくるね。

なつかれた?

よーし、付いてくるがよい。

はっはっは、可愛いもんだね。

大きさに目をつぶれば。


おっ、あの水草は初めて見たな。

よし、切り取ってさっきの場所に持って行くよ。

そうそう、ちゃんと理解しているね、賢い。


まさか水草集めを手伝ってくれるとは思わなかったな。

思っていたよりも早く集めることが出来た。

よーし、いろんなブレンドを試していこう。


あれ?

そういえば妹エビちゃん、食後に寝てない?

私だったらすぐに眠くなったのになんで?

まさか人格が宿ってるからとか?

他にも違いがあるのかな?


やっぱり睡眠の弱点って私だけなのかしら?

自然界で眠ってばかりとかないだろうし、私だけか。

なんてこった。


いや、まったく眠らないことはないよね。

妹エビちゃんがどういう風に眠るのか参考にしよう。

なんか待たれてるし。

期待されてる?

ブレンド開始しよう。

と思ったら。


敵襲ー!

お魚さんがやって来ました。

体長およそ私の2倍。


人間から見たら小魚だけど私にはとっては巨大魚に見える。

君も目当ては水草かな?

よし、自慢のブレンドを食べさせてあげようか?

いらない?

欲しいのは、わ・た・し?


ぎゃー、あれが捕食者の目かー、いや魚の目だー。

やばい、逃げなきゃ。

いざとなったら妹エビちゃんを囮にして……って、妹エビちゃん逃げないの?


えっ、まさか諦めたの?

と思ったら、向かってきていた魚が急に暴れ出した。


何ごと?

よく見たら何かが魚にぶつかっている?

たぶん海水の塊。

そしてその海水弾を出しているのが妹エビさん。


しばらくしたら魚が動かなくなった。


まさか今のは魔法!?

あなた魔法使いだったの?


えっ?

この魚私にも分けてくれるの?


付いていきます、お姉さま。

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