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大海原をエビが征く。

大きく成長した身体をさらに大きな水球で包んで水面を疾走している。

最近は天気が悪くて海の中も大時化で出歩けなかったけど今日は一転して快晴だ。

ちょっとしたドライブみたいな感じ?

ドライブというよりクルーズ?

海中もクルーズでいいのかな?


とにかく気分転換にお出かけ中だ。

別に目的があるわけじゃないけど新たな出会いがあったらいいなー。

そう、まだ食べたことのない食材との出会いだ。


海底に沈んでいた沈没大船団でアンモナイトや黒アンモナイトと闘ってからもう1年近くが過ぎた。

まぁ、しっかり数えてないから適当なんだけどね。

それに1日の時間の長さとか1年が何日かとか暦がどうなっているのか分からない異世界なんだから正確になんて始めからムリだよね。


それでも暦の目安になりそうな物が空にあった。

それはお月さま。

正しくは月じゃなくてこの星の衛星になるんだろうけど分かりやすいから月って呼んでいる。

その月だけどこの世界の夜空には2つ月がある。

この世界でたまに夜空を見ている内に気が付いたけど2つの月の間隔がだんだん離れていった。

最初に見上げたお月さま達は少し離れているけど並んで出ていた、それが次に見上げた時には距離が離れていていつの間にか夜の内に見えるのが1つだけになっちゃった。

2つの月に慣れちゃったから1つしかないとなんだか物足りなくなるなぁ。

でもその内にまた離れた位置に2つ見れるようになり、それが徐々に距離が近くなってきた。

ここ何日かは嵐で月なんて見られなかったけどそろそろすぐ近くに並んだ月が見えるはずだ。

もしかしたら重なって1つに見えたりするのかな?


こんな特徴があるお月さま達があるんだからきっとこの世界での暦にも月が大きく関わっているんじゃないかなと思う。

まぁ月よりも気温の変化や四季の方が重要かも知れないけど、体感的に月が一回りしている内に気温の変化も1周しているように感じる。

なので、なんとなくだけど月が重なって出たらこの世界に来て1年、みたいに思っている。


遠出の成果は初めて見るお魚の群れ。

30匹近く捕まえて水球に入れて運んでいる。

気分は港に帰る漁船かな?

大漁旗でも掲げたいな。


この1年で私の身体は全長60㎝くらいまで成長した。

お母さんエビに比べたらまだまだ小さいけど、1年でこの成長は地球ならびっくり、というか有り得ないよね?

形は甘エビみたいなのにサイズは伊勢エビ以上なのも異世界だからかな。


ちなみに物差しは沈没大船団の中のガイコツさん。

平均的なサイズのガイコツさんの身長を160㎝として1メートルの長さの物差しを作った。

材料は金属製の沈没船を削って作り、メートル原器って呼んでいる。


魔法の成長はどうなんだろ?

成長した所もあるし新しく出来るようになった事も多いけどまだまだ課題も多い。

まぁ、1年前よりも成長しているのは間違いないんだけど比べる相手がいないからスゴく成長しているのか遅れているのか分からないからなかなか自信が持てないんだよね。


それでは成長した私の魔法をご覧に入れよう。

水球の中に海水で包丁を創りお魚の頭を落とす。


スパッ


ちなみに今日捕まえたお魚に見た目が1番近いのはサケかな?

でもサイズはサンマくらいで群れになって泳いでいた。

身の色はサンマに近いみたい。


水球のなかの海水を操作して圧力を掛けて血を抜く。

同時にお魚の血を魔法で操って身体から血を抜いていく。

何度か試して分かったのが生きているお魚の血はムリだけど死んでからなら魔法で操れる。

死んですぐは操りにくいし時間が経っても海水ほど自由には操れない。

魔法の適性の問題なのかな?

これで血抜き完了。


水球からお魚を取り出して水包丁を構える。

魔法の手に包丁の()()を感じながらお魚を捌く。

1番成長したのはお魚の捌き方かも知れないね。


今では魔法で創った手で感触を知ることが出来るようになった。

最初の内に出来なかったのは魔法の制御力もあるけど想像力が足りてなかったのが大きかったと思う。

出来るようになった切っ掛けは魔法に使える海水が増えて節約して手のひらだけを創る必要がなくなったことだ。

あるとき気まぐれで水槽球から生えた腕を創ったらそれまで分からなかった触感が分かるようになった。


魔法はイメージが重要で、身体から離れた手のひらの感触を上手くイメージすることが出来ていなかったのが原因みたい。

水槽球と繋げて二の腕や肘の形も人間の手のようにしたらイメージしやすくて感触もよりリアルになった。

結局エビの身体になっても人間だったときの常識に捕らわれていたって事ね。


今では切り離した手でも感触が分かるようになった。

魔法の練習の為に2個以上魔法で手を創ったりしている。

やっぱり人間の身体から離れるほどイメージし難いからか難易度が上がるね。


段階的に身体から離していくやり方で今では目の代わりになる小さい水球も創れるようになった。

先行して偵察出来たりと使い勝手はいいね。

水球の視界に集中し過ぎると本体の注意力が散漫になっちゃうのが欠点。

ながらスマホみたいな感じ?

これも改善する為に練習中の魔法だ。


海水操作の難易度最高峰。

海水から塩を取り出す。

塩分の濃度が高い所を集めて集めて飽和させて塩を結晶化する。

高い集中力が必要な魔法だ。


塩を切り身に擦り付けてお鍋の中へ。

魔法のお鍋も進化している。

鍋本体を二重構造にして間の海水を抜いて空洞化する。

その状態を維持することで真空の層が出来上がる。

これで加熱の効率が大幅にアップする。

圧力鍋みたいにしっかりフタをして蒸気も逃がさない。


この構造を維持出来るだけの強度の鍋を創るのは本当に苦労したけどその甲斐あって料理の仕上がりもずいぶんグレードアップした。


よーし、完成だ。

いただきます。

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