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少し引き離しているとはいえ急がないとすぐに追いつかれちゃう。

慌てて部屋に飛び込んで水鉄砲を連射した。


バシュッバシュッバシュッ


本当に作戦を実行できるかどうか確認してダメなら急いで逃げ出さなきゃ。


よし。

崩れた荷物の様子を見て作戦にゴーサイン。

もしこれで全く効果ないなら魔法万能すぎでしょ。

後はアンモナイトがどれだけ知能があるかだな。

予想通りあんまり賢くないといいなー。

これは期待というか賭けだな。


私が部屋に入ったのはアンモナイトも見ている。

今の内に身を隠す。

ここも賭けになっちゃうけど今までの様子だと私のことを目で追っていて魔力的な感知能力とかでこっちの居場所を察知している風ではなかった。

うん、やっていなかっただけで出来ない分けじゃないかもしれないなー。

念のために水槽球を解除。

魔力を感じていたとしたら水槽球は隠れていても丸見えかも知れないし、なにより魔法を打ち消しちゃうアンモナイト相手だとどのみち水槽球の防御も役に立たないしね。


あー、いつも身に纏っている水槽球がないと落ち着かないな。

まるで裸で出歩いているような気分。

いやいや、落ち着いて息を潜めなきゃ。


ホラー映画だとモンスター相手に隠れてやり過ごすって大抵通用しないよね?

むしろ一旦やり過ごしたように見せ掛けて一息ついて安心した所に突然の登場だ。


おぅ、ダメなパターン想像してどうするよ私。

不安になるだけじゃん。

いや、今のはゾンビとか殺人鬼から逃げているタイプで大きな怪物相手だとまた違ってくるはず。

あれ? どっちにしろ隠れてやり過ごしました、めでたしめでたしなんてストーリーになるわけないよね?


ミシミシ


部屋の入り口に触手が掛かって通路に大きな影が出来る。

来た。

いろいろイヤな想像しちゃっていたけどもし隠れていても効果なくて一直線でこっちに向かって来るようなら作戦は失敗だ。

しかも巨体に塞がれて通路から逃げ出すのも絶望的だ。

そのときはもう通路に拘らず壁を壊して逃げるしかない。

出来ればそれは避けたいよなー。

今までの鬼ごっこでも敢えて船の通路だけを通って壁を壊して通り抜けるとかしなかった。

だってそんなことしたらアンモナイトも壁を壊して追い掛けてくるのが目に見えている。

そんな事をしていたらいくら大きな船でもあっという間にバラバラになっちゃうかも知れない。

そしたらサソリの置物があった部屋も崩れてしまって鬼ごっこやらかくれんぼしている意味がなくなっちゃう、だから敢えて通路の真ん中を通って壊して先回りするとか意識を持たせないようにしていた。


でもこの部屋から安全に逃げるなら避けていた壁抜けをするしかない。

お願いこっちを見ないで!


ギョロッギョロッ


部屋の入り口から目玉をグルグル回して探している。

目が合わない。

やった、最初の賭けに勝った。


隠れて観察している私がどこにいるのか分からなかったみたいで違う場所に突っ込んできた。


ガシャーン


うわー、暴れているな。

巻き込まれたら一溜まりもないよ。

こっちに来ませんように。


通路よりずっと広い部屋だけどアンモナイトからしたら狭いワンルームで独り暮らしでもしているような大きさだ。

いや、独り暮らしの経験ないからイメージだけどね?


強引に荷物をひっくり返して私を探している。

そんなアンモナイトの周りに漂うのは海水とは違う何か色の付いた液体。

この部屋には沢山のビンが仕舞われていた。

中身が何か怖くて確かめてなかったけど多くのビンが無事で中に液体が入っていた。


部屋に入った最初に水鉄砲でいくつか割ったら黒かったり琥珀色だったりしたので色々と種類があるみたい。


ゆっくり魔法を発動する。

創り出すのは海流、だけど流すのは海水じゃなくて色の付いた謎の液体。

それをアンモナイトの口まで運ぶ。

近付いたら魔法は無効化されちゃうけどこうやって液体を集めて行けば自然と飲み込んでくれるはず。

巨大な怪物相手にお酒で酔っ払わせるって大昔からの定番だよね。

古事記にも書いてある。


問題は本当にお酒なのかどうか分からないことだけど、お酒じゃなかったとしても何かしら効果があると思う。

もし毒だったら最高だ。そんな危険な物がどうして大量にあったのか分からないけどご都合主義万歳だ。

薬とか薬品だとしてもこんな量を摂取したら何かしら異常が出るんじゃないだろうか?

だけどただの調味料だったとしたら最悪だな。お醤油とか飲ませても死なないし何より勿体ない。

いや、塩分摂り過ぎで死ぬかも知れないけどそこまですぐに効果なんて出ないと思う。


私の方には液体が来ないようにしながらなるべく沢山アンモナイトの方に集まるように全力で部屋中の流れを操作する。

私が操れる魔法の制御力では部屋の中全ての海水を動かすことなんてとても出来ないので魔法で海水を操る事でその周囲の海水を魔法に依らず自然に流れを作ってまとめてコントロールする。

最初はぎこちなかったけどだんだんコツを掴んできた。

大事なのはすでに流れている方向を見定めてムリに変えようとせずにゆっくり方向を変えて行くことだ。


アンモナイトは端からどんどんビンを割っていくので謎の液体の濃度は高くなっているはず。


そしてアンモナイトに異変が起きた。

動きがゆっくりになってきて身体の色も心なしか変わったような気がする。

焦げ茶色がもっと濃い焦げ茶色になったような変化なので自信ないけどこれはやったか!?


動き方もユラユラして何だか変な感じだ。

酔っているのかな?

私はお酒飲んだこと無いから分からないけどね。

お神酒やお屠蘇はノーカンで。


まさか酔拳使いなんて事ないよね?

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