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そうだよね宝石がそのまま残っているのは海の生き物にとって生きていく上で必要ないからなんだよね。

うん、分かっているよ、分かっているんだけどね。

私の人間性というか小市民な部分がこのまま置いていくことに抵抗しているの。


泣く泣く、後ろ髪を引かれながら部屋を後にする。

後ろも何も髪の毛はないけどね。

意識していなかったけど髪の毛どころか私って服も着ていないんだね。

オシャレなんて考える余裕なんてなかったし、これからもないなー。

エビの身体で着飾ってもなんだかね。


宝物って人間がいないとコレクション以外に使い道がないものなんだね。

考えたこともなかった。

光る物を集めるなんてカラスくらい?

物語の中のドラゴンもお宝好きだっけ?


もし、いつか人間と良い関係を築けてお金が必要になったら取りに来よう。

それまで預けておく隠し財産だ。


元の持ち主とかその子孫から返せとか言われたりしないかな?

沈没船から引き揚げられた財宝って誰の物になるんだっけ?

んー、地球の決まりも知らないのに異世界の決まり事なんて考えても分かるわけないか。


名残惜しいけど移動。

この船は崩れている場所が多くてあんまり行ける所がないな。

また鎖の部屋だな。

もう次の船に移ろうかな。


船同士を繋いでいる太い鎖を辿って次の船へと行こうとしたら海底に見慣れた物があった。

あ、沈没船だ。

そういえば最初に沈没大船団を眺めた時に金属製の沈没船が所々にあったな。

んー、どうせならしばらくこの沈没船を拠点にして探検しようかな?

沈没船なら船の中より安心して休めそうだしお魚も中に沢山いるから食べる物も大丈夫。

サソリが湧いてきたり他の危険があるかは分からないけどそんなのはどこにいても変わらない。


問題はこの沈没船3号館が今までと違ってひっくり返っているんだよね。

海底との隙間は水槽球が通れるほど開いていない。

魔法の手のひらで持ち上げられそうな石を退かしたら中に入れそうかな?


よし、これなら通れるな。

隙間から中へ。

これなら沈没船の中の空間に入らなくてもひっくり返って出来た空間の方が広く使えるかな?


今夜のお宿、お邪魔しまーす。


先客がいました。


ガイコツさんです。


流石にビビったわー。

急なご対面。

うん、一緒にいるには落ち着かないから中の空間に移動しよう。

相部屋はちょっと。


中は今までのと同じ造りだね。

上下逆さまだけど私にはあんまり関係ない。

あー、ガイコツさんどうしようかな?

とりあえず動かないよね?

いるのかどうか分からないけどアンデッド系のモンスターはゴメンだよ。

動き出さないなら見えていなければそんなに気にはならない。

気にしていたら海で生活出来ないよ。

でもちょっとは気になるんだけど追い出したりするのも気が引けるのでこのままでいいか。

ここに永住する訳でもないからね。


永住はしないけどここに2泊しました。


沈没船3号館の内部の空間は宝石でいっぱいです。

つい持ち運べるサイズの宝石を運び込んじゃった、テへ。

金塊みたいな重くて持てないようなのは置いてきたけどなんか部屋が豪華に。

なんということでしょう。


まぁ、いざ宝石に囲まれたらなんだか落ち着かないのも小市民ゆえか。

かえって1つ2つの方がいいのかな? 今さら戻したりしないけど。

宝石ではないけど3号館にいたガイコツさんの手には指輪があった。

どこかで見た気がすると思ったら前に見た寄り添う2人のガイコツさんの指輪と同じデザインみたい。

あれ? てっきり2人はカップルだと思っていたけど違ったのかな?

感動したのに。

複雑な関係だったの?

それとも同じ集団に所属している証みたいな物だったのかな?

まぁ、最期の時を2人で迎えたならカップルじゃなかったとしてもいい関係だったのかな?


飾り付けばかりしていたんじゃなくてメインはお魚を捌く練習とその調理。

捌き方はほとんど上達出来なかった。

やっぱり魔法の手のひらに触感とか無いから手の感覚で料理を覚えるとは行かなかった。

下手クソな三枚下ろしが沢山出来上がったよ。

後でスタッフが美味しく頂きました。


いや、普通に美味しく頂いたよ?


タタキにしてつみれ汁なんてのも試してみたけど流石にお魚100%で繋ぎなしだとよーく練っても煮たら形を保てずにボロボロになっちゃった。

海藻を混ぜてつみれにしたら少しは良くなったけどイメージするつみれ汁にはほど遠い。

調味料がないからイメージ通りに出来るわけないけどさ。


流石に食べきれないほどお魚を捕まえるのは気が引けたのでほどほどに。

干物みたいな保存食が作れたらいいんだけど海中じゃ干せないからなー。


他に起こったことといえばまた脱皮をした。

また少し成長したみたい。

身体もそうだし魔法もね。

脱皮をしたあとは操れる海水の量が増えている。


さて今日も探検に出掛けるか。


ん? なんか音が聞こえる?

何だか海の中で聞かないような音だな。

小さくてよく聞こえないけど鐘が鳴っているような音が微かに聞こえる。


えっ、いったいどこから聞こえているの?

誰かいる? 人間なんてことはないだろうから船に積まれていた鐘を海の生き物が鳴らしたのかな?


あぁ、なんか映画のワンシーンを思い出した。

事故を起こした船の中で助けを求めるために物を叩いて音を出すんだ。

確か短く3回、次に長く3回、もう一度短く3回だっけ?

これがモールス信号でSOSなんだとか。

あれ? 短いのと長いの反対だっけ? どっちか自信ないな。

まぁいいや。


何となく沈没船を石で叩く。

タンタンタン ターンターンターン タンタンタン

ふふ、これで誰か来たりしてね。


しばらくしたら大量のサソリがやって来た。

お前らは呼んでないよ!

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