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お魚が船の中に入っていったみたいだけど大丈夫なのかな?
他も場所もよく見ると船の近くにいるお魚も多い。
あちこちにある隙間から出入りしているじゃん!
てっきり中もサンゴ礁が広がっているのかと思っていたけど違うのかな?
そういえば船の上を覆い被さるようにサンゴ礁が広がっているけど、船の横とか下の方にはサンゴはいないみたい。
お魚も船の近くの海底にいるけど攻撃されていない。
えっと、サンゴは上を通った生き物を攻撃するから上が開いていない場所には繁殖しないのかな?
サンゴにそんな習性? があるとしたら沈没大船団の中はどうなっているのかな?
少なくとも出入りしているお魚がここにいるんだよね。
全体はどうか分からないけどこの辺は大丈夫なのかな?
……入ってみる?
日が沈み2つの月が出て暗くなった海を見る。
自分のハサミなお手々を見る。
じっと手を見る。
んー、昼と夜ってどっちが安全なんだろう?
ゲームだと夜の方が強いモンスターが出るとかよくあるけど、現実には寝ている生き物もいれば夜行性で元気な生き物もいてよく分からない。
人間だったら夜の海に1人でボートで漕ぎ出すとか怖いシチュエーションだと思うけどどうなんだろ?
でも釣りはしないからイメージだけだけど、夜釣りの方が大物がかかりそう。
これって夜の方が大物が動いてるってことかな?
私も夜はあんまり動き回ってこなかったけど、夜は静かな雰囲気で昼より危険って印象はない。
それから私の赤いお手々がうっすら白くなっていた。
殻が厚く透明じゃなくなってから分かってきたけどこれは脱皮が近い証拠だ。
最初に殻の色が変化しているのに気付いたときは何か病気かと思って焦っちゃった。
何度か経験して身体が脱皮の準備をしているからだって分かってきた。
脱皮する直前は古い殻と新しい殻が2重になって身体を覆ってる状態なんだよね、あんまり実感ないけど。
多分早ければ夜中に、遅くても明日の午前中には脱皮すると思う。
沈没大船団の中がどうなっているのか気になるけど安全な場所だとは考えない方がいいと思う。
慎重に行動、コマンドはいのちをだいじに。
いつ脱皮するか分からない状況で船の中を探検するのはきっと危険だ。
気になるけど……脱皮を待って明日になってから探検することに決めた。
決めたはいいけどやっぱり気になるな。
そりゃあこんな近くにあからさまに気を引くところがあるんだもんね。
待っている間に何か出来ることってあるかな?
んー、そうだ。
沈没船1号館にいたときから考えていた事をやってみようかな。
沈没船2号館の周りをグルッと泳ぐ。
どこにしようかな? やっぱりこの先っぽせり出している所がいいかな?
水手裏剣を創って回転させて準備する。
角度に気を付けてゆっくり沈没船に近づけて……
キュイーー
うわっ、歯医者を思い出す音。
前から沈没船を削って盾とか刃物を作れないかって考えていた。
魔法の攻撃や防御は便利だけど、物理的な盾があってもいいかなーって思って。
でもせっかくの沈没船を壊すのももったいないから考えただけで実行しなかった。
でもでも金属製の沈没船が他にもあるって分かったから今度は試してみてもいいかなって心変わり。
キュイーーー
切れてるかな?
ちょっと様子見。
傷は付いてるけどあんまり深くないな、これは時間かかりそう。
ん? 水手裏剣の方が削れてるじゃん!
いや、それだけ硬いって事だから盾として役に立つかもね。
水手裏剣を修理して追加で3つの水手裏剣を創る。
4方向から削って時間短縮しよう。
キュイィィイィーーーー
うん、歯医者感が増したなぁ。
エビになっても苦手意識って残るんだね。
ぞわっとする。
早く終わらせちゃおう。
水手裏剣の刃も大分深く入ってきた。
あと少しかな?
キュイーーー パキッ
やったー。
やっと切れた。
今は長方形の金属の塊だけどこれからどんな形にしようかなー。
ぴとっ……………………熱っ。
ギャーーッ
手がーーヤケドしたーー!?
切り落とした金属に触ったらめっちゃ熱かった。
えっ、触った手が変色してる?
ぐうぅ、ズキズキしてきた。
水で冷やさなきゃ、いやここ海の中だった。
混乱してるな。
なんか殻の色が熱を通したエビの殻みたいに鮮やかな赤色になった。
美味しそうに見えるのがなんか悔しい。
多分中も熱が入って白く変色しているんだろうなー。
ちゃんと直るかな?
腕がなくなっても生えてきたしきっと大丈夫だよね?
万全の体制で船の中を探検するはずだったのにやらかしたな。
まさか海の中でヤケドするとは思ってもみなかったよ。
…………あれ? なんか引っかかるな。
なんだろ? なんか思い付きそうなんだけど?
…………ポクポクポク…………あっ!
えっ? まさか? 出来るの?
海の中でも加熱調理出来るの?
いままで生のまま食べるだけだったけど、もしかしたら食事面で革命が起きるかも。
どんな風にすればいいのかな?
んー、金属は熱くなっていたけど水手裏剣はどうなのかな?
ヤケドは怖いけどゆっくりと水手裏剣に近付いてみる。
あっ、触らなくても近付いたら温度が違う。
これはイケるかな?
えっと、取りあえず鍋をイメージして魔法で創り出す。
イメージするのは家にあった片手鍋。
取っ手は邪魔になるかもしれないけどまずはイメージし易さを優先しよう。
中に海藻を入れて魔法で創ったフタをする。
海藻ならきっと色が変わるからお湯になっているか分かりやすいよね。
鍋底を2重にして中に水手裏剣を入れる。
そんでもってレッツ回転。
ブウゥーーン
なんか重低音だな。
お腹に響く。
しばらく待っていたら海藻の色が変わってきた。
やった、成功。
魔法で創った物を擦っても熱が出るんだね。
画期的な発明なんじゃない。
おぉ、沸騰してきたね、コポコポしてきた。
んー、空気が逃げる穴が必要かな?
圧力鍋みたいに蒸気だけ外に出すように出来ないかな?
どんな仕組みなのかよく知らないなぁ。
蒸気の圧力でフタの押さえが効かなくなってきたので取りあえず実験終了。
せっかく沸かしてもったいないけどヤケドをしないように海水を入れて温度を下げる。
海藻を1口。
パクッ
!!
ウマっ、柔らかくなって生とは味も変わってる。
あー、温かい料理うめー!
これはお魚もいっとくべきか?
いや、先に鍋を改良しよう。
取りあえず実験は成功したけどいろいろ工夫したらもっと使いやすくなりそう。
……えっと……ここをこうして……そうか……こっちの方が……
あれ?……さっきの方が……難しいな……んー……おっ……
朝日が昇るのも気付かず脱皮するまでお鍋の改良に熱中していた。
沈没船? そんなことより料理だ!