10
「GggeeQooo」
カエルが一鳴きした。
腹の底に響くような重低音に恐怖感が増していく。
どうやってか、海面の上をノシノシ歩きながら恐ろしく長く伸びる舌で潮溜まりの生き物を捕まえて捕食していく。
そのたびにバシャバシャと水しぶきが上がっていく。
舌の威力は掠っただけで私の脚が吹き飛んだので、まともに当たればお終いだろう。
懸命に痛みに耐えているけど、無くなった脚って治るのかな?
いや、そんな心配はこのピンチを乗り切ってからか。
幸い他の小魚なんかを食べていてこっちに来てないけどそれもいつまで保つか分からない。
今のうちに逃げないとほんとに食われてしまう。
でも、この潮溜まりの中で逃げられそうなところは思いつかない。
もう海に逃げるしかない。
海へ繋がる亀裂まで行かないとだけど、すでに潮が引いて、いまいる潮溜まりとは岩場で切り離されている。
泳いで亀裂まで行けないなら、勢いをつけてジャンプしてでも岩場を飛び越えないとカエルからは逃げられない。
ユリ姉さんも行動を決めかねているのかなんだか戸惑っている。
おいて逃げるのも忍びないけど、ユリ姉さんなら私が岩場を飛び越すのを見たら追いかけてくるよね。
よし、覚悟を決めて飛びだそう。
記憶を頼りに向こう側がどうなっているのか想像してルートを決めた。
うおぉりゃあぁぁ
バシャシャッ
きゃー、カエルの舌が脇を掠めたー。
なに? 海面付近に行ったから狙われたの?
1匹も逃がす気ないって、殺意高過ぎでしょ。
いや、食欲か?
舌が乱した海流に身体が流される。
外れたから良かったけど危なかった。
きゃー、また来たー。
高速で飛来してきた舌に水球がぶつかって軌道を変える。
えっ、ユリ姉さんの魔法ですか?
あの舌にピンポイントで当てるってスゴいですね。
あっ、さっきの舌が外れたのもユリ姉さんのおかげだったんですね、ありがとうございます。
そのままカエル本体に水球を飛ばしていたけどすべて舌で弾かれている。
どっちも反射神経高すぎない?
あれ?
ストップストップ、ユリ姉さん、そんなに海水を飛ばしていたらここの海水が減って潮溜まりが干上がっちゃう。
そうじゃなくても水嵩が減って飛び越えなきゃいけない飛距離が増えちゃうから。
どうしよう、これ完全にカエルから目を付けられたよね。
どうすれば……?
何か使える物は無いかと辺りを見回す。
でもそれほど広くない潮溜まりにはそもそも物がない。
最後の手段で決死の覚悟で岩場を飛んでみるしか……
あれは?
岩場の一点に目が留まる。
イケるかな?
試してみる価値ありそう。
ガンガンッ
ガガガガガガガガッ
カエルの舌が当たってヒビが入った岩に水球をぶつけまくる。
底の方に居れば舌の攻撃は来ないし、潮溜まりの海水を潮溜まりの中で使うので海水は減らない。
あとは岩を崩せたら出口まで泳いで行けるようになる……はず。
ガガガガガガガガガガガガガガッ
疲労とか後のことは考えずに筒を2つイメージして造り連続して水球を撃ち出すしていく。
イメージは二丁拳銃だ。
ユリ姉さんも私に合わせて水球で岩を攻撃してくれている。
すぐに岩がぐらついて来ているのであと少しで通れる穴が開けられるはず。
「GggeeQoooooopsGggeeeeeQooo」
すぐ近くでカエルの鳴き声が響いた。
ヤバっ、振り向いたら潮溜まりを見下ろすカエルが口を開けていた。
舌が飛んでくる!
ユリ姉さんは振り返る途中でまだカエルを視認できていない。
私が防がなきゃやられるじゃん!
でもユリ姉さんみたいにピンポイントで飛んでくる舌に水球を当てるとか出来る気がしないんだけど。
とっさに今まで使ってなかった魔法を試す。
一か八かだけど、コレしかないって第六感がささやいた気がする。
集中したスローモーションにも感じる世界でカエルの舌が視界を埋める。
うおぉ、イッメーーージッ バリアーーーッ
私とユリ姉さんを囲む球形のバリアをイメージして海水で形作る。
あのアニメとかあのゲームとか、完成形のイメージはしっかりとある、きっと出来る。
あとは間に合うか、そして強度は大丈夫か。
バキッ
ドンッ
ガラッ
くぅ、目が回る、どうなった?
バリアは半分以上砕けているのは感じる。
でも私は無事みたい。
ユリ姉さんは?
見た目問題ないかしら?
あれ? ここは?
やった、どうやら運が良かったようでバリアごと吹き飛ばされて壊そうとしていた岩にぶつかり突き破ったようだ。
早く亀裂に飛び込まないとまた攻撃される。
バリアでは動けなくなるから今度は盾をイメージして後ろにシールドを創る。
今のうちに……バキッ
シールドォーーバキッ
シールドォーバキッ
シールドォ バリンッ
創った盾が次々に壊されて創るのが間に合わない。
最後にはすぐ後ろに盾を創ってようやく舌を防げたけど、衝撃で身体ごと押し出されるような衝撃が来た。
でもそのおかげで亀裂に近付くことが出来た。
そして絶望した。
すでに亀裂には海水が無かった。
潮が引いて、これじゃあ通れない。