第二王女は、悪女のことが嫌いじゃないみたいでした。
「そ、その猫さんは、お話しができるのですか?」
……エリーヌが僕達の目の前に駆け寄ってきて、瞳をキラキラさせて尋ねてくるんですけど。
さて、どうしたものか。
選択肢としては、『①しらを切る』、『②逃げる』、『③口止めをする』の三択になるけど……。
「ほわあああ……可愛い……」
……これは、抱き込んで味方につけるのが正解とみた。
「コホン……エリーヌ殿下、ここでは何ですので、別の場所に行きませんか? そうしたら、キャスとお話しができますよ?」
「! ほ、本当ですか!」
よしよし、メッチャ食いついた。
あとは、誰もいないところに行って、キャスのことを秘密にしてもらうように説得するとしよう。というか、それしかない。
ということで、僕は彼女を自分の部屋へ連れて行くと。
「そ、そのー……キャスのことは、内緒にしていただけないでしょうか……」
僕は速攻で土下座スタイルを敢行し、全力で懇願した。
鏡に映るその姿は、まさしく『無能の悪童王子』に相応しい。
だというのに。
「ほわあああああああ……可愛いです、もふもふしてます」
「ニャ!? そそ、そこは触っちゃ!? ニャ、ニャフウウウ……」
僕のことは放ったらかしにされ、エリーヌはキャスのお腹を撫でるのに夢中になっています。
そのせいで、僕の相棒がメッチャだらしない顔をしているよ。
「ハ、ハロルド殿下、この猫さんのお名前は何というのですか?」
「へ? あ、キャスっていいます」
「ありがとうございます。キャスは可愛いねー」
「ニュ、ニュフウ……この女の子、手ごわいニャ……」
というか、普通にキャスの完敗だろう。
「あ、あはは……もう僕のことは怖くないのですか?」
もはや土下座は意味を成さないと思った僕は、若干恥ずかしさを覚えつつ立ち上がり、苦笑交じりに尋ねてみた。
「あ……そ、その……」
余計なことを言ったばかりに、またエリーヌを怯えさせてしまったよ。いやもう、どうしたらいいの?
「え? 君、ハルが怖いの?」
「そ、その……私……」
「ボクの相棒は、全然怖くなんかないよ! すっごく優しくて、すっごくかっこいいんだから!」
キャスはエリーヌの腕から抜け出し、彼女の目の前に立って叫んだ。
どうやら、僕への態度が気に入らなくて怒ってくれているみたい。
「あ……ち、ちが……」
「ハルのことを悪く言う奴に、触ってほしくない!」
ああもう、僕の相棒は可愛いが過ぎる。
こんなの嬉しいに決まってるだろ。
「あはは。キャス、ありがとう。もういいから」
「ハル! だけど!」
「あ、あの! ちち、違うんです! ハロルド殿下が怖いのではなくて、その……私、男の人が苦手で……」
今にも泣きそうな表情で、エリーヌは必死に訴える。
どうやらキャスに嫌われるのだけは避けたいみたいだ。
でも、エリーヌは男に対して人見知りするタイプなのか。だったら、僕に怯えたりしてしまうのも頷ける。
そうすると、さっき僕の後を尾けていたのも、何か用件があったんだろうな。
「エリーヌ殿下、僕は気にしていませんよ。それより、もしよろしければ、これからも相棒のキャスと仲良くしてくれると嬉しいです」
「! は、はい!」
僕のその一言で、泣きそうだった表情は一変し、エリーヌは満面の笑みを浮かべた。
うん……最初は似ていないと思ったけど、笑った顔はリゼットにそっくりだよ。
◇
「えへへ……キャスは可愛いねえ……」
「ニャ……もう少し下を撫でてほしいニャ……」
誤解も解け、すっかりエリーヌの猫可愛がりテクに翻弄されて至福の表情のキャス。
とてもあの災禍獣キャスパリーグだとは、誰も思うまい。僕も思わないよ。
「それで、エリーヌ殿下は僕に用があったんですよね?」
「あ……そ、そうでした」
ありがたいことに、キャスのおかげで僕に対する恐怖心のようなものも薄らいだようで、ちゃんとこちらを向いてくれるようになったよ。
だけど、何かを言おうとしては、やっぱり
そんなに僕に苦手意識があるのか、それとも、よほど言いづらい内容なのか……。
そして。
「そ、その! ……その、お姉様と仲良くなる方法を、教えて、いただけ……ないでしょうか……」
「へ……?」
ようやく意を決したエリーヌは、勢いよく声を上げたものの、結局尻すぼみになり、最後は消え入るような声になってしまった。
でも、それ以上に彼女のお願い事が意外すぎて、僕は思わず呆けた声を漏らしてしまったよ。
「え、えーと……エリーヌ殿下は、リゼット殿下と仲良くなりたい、ということで、よろしいのですか……?」
「は、はい!」
やっぱり、僕の聞き間違いではないみたいだ。
いや、だって、『エンハザ』ではリゼットは妹のエリーヌをいじめていて、仲が悪いという設定だったじゃないか。
エリーヌだって、いじめるリゼットのことをよく思ってないはずなんだけど……。
「……このようなことをお聞きするのは失礼だと思いますが、リゼット殿下は『悪女』と呼ばれている御方。エリーヌ殿下も、あの御方のことを良く思ってはおられないのでは……?」
「っ! そんなことはありません! お姉様は、とても優しい方なんです!」
「うおっ!?」
おどおどした様子から打って変わり、すごい剣幕のエリーヌの姿に、僕は思わず
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