王様の想いなんて、知ったことではありませんでした。
「……サロモン陛下が、ハロルド様と面会をしたい、とのことです」
「ええー……」
嫌な予感しかしない僕は、思わず変な声が漏れてしまった。
だってさあ……昨日の今日で僕に会いたいなんて、絶対に面倒事に巻き込むつもりだよね。
「いかがなさいますか?」
「ハア……分かった、行くよ。リゼット殿下とサンドラは、引き続きお茶を楽しんでください」
「え、ええ……」
「…………………………」
僕は諦めて渋々立ち上がると、不安そうな表情を浮かべる二人と別れ、サロモン王の待つ謁見の間へと向かった。
その途中。
「あれは……」
「ポーラ妃殿下、ですね」
謁見の間から出てきたポーラ王妃を見て、僕達は
だけど、そうか……昨日の一件もだけど、リゼットに冤罪を着せようとしたポーラ王妃ともめたことも関係しているのかな。面倒くさい。
「ハア……ポーラ妃殿下も行ったようだし、とりあえずサロモン陛下と面会してくるよ」
「いってらっしゃいませ。私はこちらでお待ちしております」
「ハロルド殿下、すまんな」
「滅相もありません、それで……いかがなさいましたでしょうか?」
「うむ……」
サロモン王の用件は、やはりリゼットとポーラ王妃の一件についてだった。
何でも、ポーラ王妃は僕がリゼットの肩を持ったことがとにかく不満だったらしく、彼女と距離を取らせたいと考えても、他国の親善大使が相手では王妃としての強権は通用しない。
それで、サロモン王に説得を頼んだということらしい。いや、何それ
「……申し訳ありませんが、デハウバルズ王国の親善大使という立場とは関係なく、リゼット殿下とは友人でありたいと考えております」
「分かっておる。余も二人の仲を引き裂こうなどと考えてはおらん。だが……」
こめかみを押さえ、かぶりを振るサロモン王。
その様子から、何やら事情があるみたいだ。
「……このようなこと、他国の使者であるお主に話すのは、恥を
そんな前置きの後、サロモン王が語り始めた。
リゼットが、実はポーラ王妃が産んだ娘ではなく、別の女性との間に生まれた子供であること。
彼女の本当の母親であるその女性は、生まれて間もなく、原因不明の
本当なら、その女性を第二王妃として迎えるつもりであったこと。
「……リゼットには、可哀想なことをしているのは分かっている。ポーラに遠慮し、
「…………………………」
苦虫を噛み潰したような表情で告白するサロモン王を、僕はただ無言で見つめている。
だけど、まあ……知ったことじゃないというのが、正直な感想だ。
そんな話を聞かされたところで、別にリゼットの待遇が改善されるわけでもないし、引き続きポーラ王妃は彼女に執拗に嫌がらせをするのだろう。
ただ、『エンハザ』のリゼットシナリオにこんな裏事情があるなんて、僕は全然知らなかったよ。
「それで……サロモン陛下はどうなされたいのですか?」
「……分からん」
ハア……これだよ。
こんなにポーラ王妃に遠慮しているってことは、リゼットの母親との関係は対外的にあまりよろしくないものだったんだろう。
身分違いだったのか、王家にとって不都合な相手だったのか、あるいは過去にポーラ王妃と確執があった人物なのか、それは分からないけど。
ただ、サロモン王はポーラ王妃に負い目を感じながら、リゼットにも負い目を感じている。
自分の都合のいいように勝手に優先順位をつけて、リゼットが苦しむほうを選んだくせに。
それなら。
「サロモン陛下、それであればよい解決策がありますよ」
「む、それは?」
僕の一言に、サロモン王は勢いよく顔を上げた。
本当に、現金な中年オヤジだよ。
「簡単です。リゼット殿下を、このカペティエン王国から外に出せばいいのです」
「というと?」
「我が国には、他国の王侯貴族も留学する、王立学院という由緒ある教育機関が存在します。これは、陛下もご存知かと」
まあ、要は『エンハザ』のシナリオどおり、リゼットが確実に王立学院に留学するように、仕向けさせてもらうことにした。
これならデハウバルズとカペティエンの両国の友好の証としてアピールでき、親善大使である僕の手柄にもなる。
それに、ポーラ王妃にとっても目障りなリゼットを追い出すことができるし、リゼットはこんなろくでもない連中から離れ、『エンハザ』のヒロインとして輝ける。あれ? これ、一石何鳥?
「なるほど、な……」
「ただ、王立学院への入学は十五歳になってからですので、もしよろしければ、それまでデハウバルズ王国の文化に慣れていただくという意味合いを込めて、もういっそのこと、僕達がデハウバルズ王国に帰還する時に一緒にお越しいただくというのもありかと」
「…………………………」
「いかがですか?」
サロモン王は、
だけど、見る限り乗り気みたいだな。
「ふう……分かった」
「では……?」
「うむ。リゼットのこと、ハロルド殿下にお任せする。よろしく頼む」
サロモン王は、親善大使とはいえ十四歳の若造でしかない僕に、深々と頭を下げた。
それは、偉大な王としてではなく、娘を心配する父親としてのもの、なんだろうけど……。
『
僕の感想は、ただそれだけだったよ。
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