黒幕の一手を早速ぶち壊してやりました。
「我がカペティエン王国とデハウバルズ王国のますますの発展を祈念して、はるばる訪れてくれたハロルド殿下と盛大に祝おうではないか」
サロモン王の挨拶によって、いよいよ晩餐会が幕を開けた。
幸いなことに、僕達の席は王の隣。何かあれば、すぐに動ける位置にいる。
それに。
「ハロルド殿下、どうぞ」
「ありがとう」
王宮の使用人達に紛れ、モニカも給仕に加わっている。
先程、サロモン王が暗殺される危険があることを伝え、食事や怪しい人物などがいないか、目を光らせてもらっているよ。
「ハロルド殿下、アレクサンドラ、こちらはカペティエン王国の特産品で、私の大好物なんですのよ」
「あはは……」
料理が運ばれてくる都度、リゼットが給仕を差し置いて僕達に説明してくれる。
普段は悪女として振る舞っている彼女が、こんなにも甲斐甲斐しく、しかも嬉しそうにしているものだから、みんなが目を白黒させているよ。
ただし、サロモン王をはじめ、王族は誰一人として彼女に興味を示そうとはしないけど。
……まあ、彼女の妹であるエリーヌが同席していないので、全ての王族ってわけではないか。
「ありがとうございます。リゼット殿下がご説明くださるおかげで、今日の晩餐会がとても楽しいです」
「! そ、そう? まあ、私の説明を聞けるのなんて、令嬢ではアレクサンドラだけよ」
サンドラもそのことに気づいたようで、積極的にリゼットと会話をしてくれている。
リゼットに対する王族の反応に怒りを覚え、テーブルの下で握る僕の手に、僅かに力を込めて。
本当に、周囲の様子に気づいて心配りができる、最高の婚約者だよ。
ハロルドに転生したと分かった時は頭を抱えたけど、僕は彼女に出逢えて心からよかった。
そうして晩餐会はつつがなく進行し、庭園に響きわたる楽団による演奏とともにメインディッシュとなる料理が運ばれてきた。
イベントの一つである、苦しむサロモン王がテーブルに突っ伏したイラストにあったものと同じ料理が。
「モニカ」
「お任せください」
「ハロルド殿下とお嬢様の分は、こちらでお取り分けします」
「え……?」
そう告げた瞬間、給仕が固まった。
はいダウト。
やっぱりジャンの奴、毒を仕込んでいたよ。
「聞こえませんでしたか? この私が、お二人の分の料理を取り分けると申し上げました」
「あ、あの……」
困惑する給仕は、どうしたものかとジャンへ目配せした。
馬鹿だなあ。そんなことをしたら、アイツが犯人だって言っているようなものじゃないか。
「貴様……ハロルド殿下の侍女のようだが、ここはカペティエン王国。出過ぎた真似はやめてもらおう」
「そうはまいりません。大切な御身であるハロルド殿下をお守りすることこそが、私の使命。……ですが、こちらにおられる方が、目の前で毒見をしてくださるのであれば、私も下がらせていただきます」
ジャンは鋭い視線を向けて下がらせようとするが、モニカも一歩も退かない。
だけど、想定どおりに事が運んでくれて、何よりだよ。
僕はあらかじめ、モニカに三つのことをお願いした。
一つ目は、言わずもがなこの晩餐会の場で怪しい者はいないか、料理に毒などが仕込まれていないか監視すること。
これに関しては、『エンハザ』のイベントを踏まえれば、予想外のことが起こり得る可能性は低いものの、既にイレギュラーの状態である以上、注意しないわけにはいかない。
二つ目は、まさにイベントのイラストにあった料理……メインディッシュである一メートル近くもある大きな魚丸ごと一匹の姿煮が出てきたら、モニカが僕達の分を取り分けると申し出ること。
この料理の中に毒が仕込まれている可能性が極めて高く、モニカが申し出れば、何かしらのリアクションがあるはず。案の定、ジャンが口出しをしてきたけど。
そして、三つ目は。
「ご了解いただけたようですので、そこの方。魚の腹の部分……そうですね、ここを毒見していただけますか?」
「っ!? い、いや、それは……」
モニカが指定した魚の部位を凝視し、給仕は滝のように汗を流している。
そう……その部位こそが、『エンハザ』でも毒が仕込まれていた箇所だ。
もし魚全体に毒が仕込まれているのであれば、僕達だけでなくジャン本人も毒を口に入れることになってしまう。
なので、サロモン王が口にする部分だけに毒を限定し、取り分けると思ったんだ。
もちろん、取り分けた後に毒を仕込むことも考えたけど、その場合はモニカが見抜けるということなので、問題はない。
「どうなさったのですか? 早くしていただかないと、せっかくの料理が冷めてしまいます」
「う……」
給仕はますます顔を真っ青にし、身体を小刻みに震わせていた。
「ふう……見ておれんな」
「サロモン陛下……?」
「騎士団長よ。今すぐその者に食わせろ。無理やりにでもな」
「はっ!」
「ヒイッ!? お、お助けください!」
サロモン王の指示を受け、後ろで護衛をしていた騎士団長が給仕の首根っこをつかんで、強引に指定された部位へ口を押しつけようとする。
給仕は、悲壮な顔で必死に助けを求めた。
もちろん……王太子であるジャンに向けて。
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